第41話 君たち遠慮って言葉知ってる?

 よっしゃ! 海だ! 泳ぐのは全く得意じゃないけど、初めての海! テンションが上がらないわけがない!

 とりあえず浅瀬でぺちゃぺちゃする。あぁん、ちべたい。あっ、ちっちゃい魚がいる。はぁ、もうこんだけで楽しい。


「なにやってんの! レット! もっと深いとこ行くわよ!」


 僕が膝上くらいの深さの浅瀬に座っていると、ロベリアが思いっきり僕目掛けて走ってきた。うぉっ! しょっぺえ! ロベリアに手を掴まれて、さらに深いとこまで連れていかれる。あ、あかん! 僕泳げない、てかほとんど泳いだことないんだけどぉ!

 さすがにロベリアもそこまで鬼ではないので、肩くらいの深さでわちゃわちゃ海を満喫していた。


 あぁ、楽しい…… こんな美少女たちと水遊び…… しかもゴージャスな別荘に泊まって食事は豪華海鮮バーベキューをするという。あぁ、ホント最高でっせ。これ。

そんなことを考えていると――


 ――だ、誰かぁ! 助けてぇぇぇぇ!!!


 え、え!? なに? どしたん?


 50メートルくらい離れたところで、女性が叫んでいる。僕らは急いでその声の主のところへ走っていった。


「く、屈強な男たちが、と、突然あたしのことをここに埋めだして……」


 え、り、リリムさん? なにやってんですか?


 声の主はリリムさんだった。彼女は砂浜に首まで埋まっていた。その近くでは姉上~! と泣き叫ぶ少女、リーリエだ。ちなみに目から涙はでていない。

 なんなんだ、この三文芝居は? あ、これか? リリムさんが言ってた小芝居ってのは。いや、もうちょいましな小芝居なかったのかなぁ……


 とりあえずリリムさんをなんとか砂の中から掘り起こして、無事救出した。

 あんな首まで埋まってたら普通は体が圧迫されて只じゃすまないと思うんだけど、女神だから平気なんかな……


「ありがとうございました。おかげで命拾いしました。妹と砂浜遊びをしに来たら、突然屈強な男達に…… 私達が持ってきた荷物も全部盗まれてしまって。シクシク……」


 な、なに、このクサい芝居。

 すかさずリリムさんが必死にウインクをしてくる。

 え、なに? これに乗っかればいいの? なんか嫌だなぁ。


「あ~、え~、そ、ソレハタイヘンデシタネ~。ど、ドーデス? ぼ、ボクラのテントでオヤスミシテイカレテワ~」


 あ、あかん、めっちゃ棒読みになってまった。元引きニートだぞ! こんなん唐突にやれなんて僕にできるわけねえだろうが! 

 だが皆「あ~、そ、そうだね。うちらのとこおいでよ」と言ってくれて事なきを得た。お、おい、いいのか? 皆。こんな胡散臭い二人組だぞ……


「あ、ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきます」


 なんかリリムさんいつものギャルっぽさがないじゃん。なんだよ、そういう普通な感じの演技もできるのね。あ~、僕そっちのリリムさんのほうがいいなぁ、なんつって。

 三文芝居のリリムさんにばかり目がいってしまっていたが、ふとリーリエに目をやるととんでもないことに気が付いた。


 ――リーリエのヤツ部長とおんなじ水着じゃねえかよ!!


 マ、マジかよ、なんでそんなとこでシンクロしてんだよ…… やっぱおんなじ厨二病だからなにか通じるもんがあるのか? しかもリーリエのヤツ僕の方見て、「ふふんっ」ってなんかドヤ顔してるし! そんなとこも部長とおんなじじゃなえかよ!


「おや、君、中々センスのいい水着を着ているじゃあないかね。私はフィガロ。魔術同好会の部長をやっている。魔術の深淵を覗く、いやすでに覗いたといっても過言じゃあないすごい奴だよ。よろしこ」


「我が名はリーリエ、闇より出でて闇を統べる者なり。我は深淵より来た! 其方が深淵を語るなど片腹痛いわ! はぁっはっはっはぁ! よろしこ」


 あぁ、キャラが被った二人がなんかやりだした。でもどう見ても小さい子どもがなんかわちゃわちゃやってるだけにしか見えない、いや実際そうなんだけども。

 まぁどうでもいいや、放っておこう。それよりおなかすいたな。ちょっと早いけど昼飯にしよう。

 僕の提案で少し早めの昼食をとることに。昼食のメニューはぁ! そう! バーベキューだ! 最高! エビにぃ、イカにぃ、蟹にぃ、お魚にぃ、お肉にぃ、あと野菜をちょこっと。

 前回転生先のラキヤじゃあ海鮮系の食材は干物とかしか手に入らなかったから、生の海の幸は転生してきて初めて食べるぜ! リーリエも初めて食べる魚介類に我を忘れて貪りついてるし。


 リリムさんもめっちゃ食ってる。あの人女神なのに食事とかとる必要あるんか? てかリーリエとリリムさんで用意した食材をほとんど食べてるような……


「すごく美味しいです! まだありますか?」

「我が血肉となりし海の眷属たちよ! 美味! 美味なり!」


 あ、あの人達には遠慮ってものがないの? もう昼用に用意しておいた食材ほとんどないんですけどお! ぼ、僕まだイカを2切れくらいしか食べてないんですけどお!


「え、え~っと、夜の分がまだありますので、すぐに用意させますね」


 アナスタシアがメイドのペトラさんに夕食用の食材を持ってくるように指示している。え、でもそれだと夜食う分が無くなっちゃうことない? てかこの状況でまだあいつら食べ続けてるし!


「ちょ、ちょっと、リリムさん! 皆全然食べてないんですけど! リーリエと二人でほとんど食べちゃってるよ! ちょっとは遠慮して!」


「あ~、ごっめんねぇ。なんかこの状態だとめっちゃおなかすくみたいでさぁ、ほらっ、リーリエちゃんもめちゃくちゃ食べてることない?」


 どうも悪魔の指輪で実体化してると、おなかがすくらしいです。そんなどうでもいい情報知りたくなかったなぁ……

 結局ふたりはこの後も食べ続けて、僕はイカを3切れしか食べることができなかったのだった。



    ◇



「はわ~、満腹です~」


 あ~、はいはい、そりゃあんだけ食えば腹いっぱいになるでしょうよ。お前ら二人以外イカとタコくらいしか食ってねえぞ!


「アナスタシア、ごめんね。なんかあの二人がめちゃくちゃ食っちゃって…… ちゃんときつく言っとくからさ」


「いえ、いいんですよ。一度もてなしたら最期までしっかりもてなせ、と祖父にいつも言われておりますので。それにあれだけ食べていただけると見ていて気持ちいいですものね」


 マジか~。アナスタシアさん、人間できてるなぁ。それにアナスタシアのお爺さんも中々粋なこと言うじゃん!

 でもアナスタシアのお爺さんな~んか気になるんだよなぁ……




    ◇




 そして夕方、散々遊び倒して、一日目の海遊びが終了し、別荘に帰る支度をしていると、執事のカルラさんが僕達のいるテントに物凄い勢いで駆けてきた。


「どうしたんですか? カルラ。そんなに慌てて」


「お嬢様! 大変です! 大旦那様がこちらにいらっしゃるそうです!!」


 ――えっ? マジ?

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