第35話 レットさん学校へ行く
一頻り遊んだ後はお風呂に入ることになった。自分が女として転生してから早10年、女性と同じ風呂に入るのは初めてではない。うちの家族はみんな体は女だ。父ちゃんもだ。だから別にもう気にはならないと思っていたのだが、さ、さすがに! こんな美少女と一緒のお風呂に入るのは内心ガクブルである。
最初は別々で入ろうと提案したのだが、ロベリアが「誰かとお風呂に入るのが夢だった」なんて言うもんだから、それじゃあ一緒に入りましょうか、ということになったのだ。
「はぁぁぁ、気持ちいいね~。やっぱ一人で入るより二人で入ったほうが気持ちいいわ~ どう? レット、湯加減は?」
ちょ、ちょ、丁度いいです、と答えたが、やはり! こんなナイスバディの美少女が裸で目の前に鎮座しているのは、僕には目に毒すぎる。まぁアレがないので、見た目にはわかんないからいいんだけどお、なんつって。
お風呂からでて、夜風に当たっていると、執事のトガシさんが声を掛けてきた。
「レット様、この度は当屋敷へお越しくださいまして、誠にありがとうございました。お嬢様のあのような顔は初めてで御座います。全てはレット様のおかげ。このトガシにできることなら何なりとお申し付けください」
僕はありがとうございますと一礼して、ふと気になることを思い出した。
「トガシさん、ロベリアはなんかいつも一人で遊んでるみたいだけど、使用人の人とか、メイドのお二人が相手することってないの? どうせなら一緒に遊んであげららいいのに」
僕がトガシさんに質問を投げかけると、彼は悲しそうな顔をしてこう言った。
「申し訳ございません。それはできない契約になっているので御座います。レット様が疑問に思われるのもご尤もですが、こればかりはどうしようもございませんので……」
うーん、腑に落ちない。なんだ、その契約は。執事のトガシさんはまだしも、他のメイドさんとかはロベリアと歳も近そうだし、遊ぶってのも契約に入れてやりゃいいだけの話と違うんかい。
そんなことが頭をよぎったが、トガシさんの悲しそうな顔を見ていたら今は言わないでおこうと決めた。なにか理由があるのかもしれないしな。
トガシさんとそんな話をした後、自分の部屋に戻る。
あぁ! こんなに綺麗で快適な部屋で寝るなんて本当何年ぶりだろう。今じゃ地べたに横になっていればそのまま寝れるくらいに神経が図太くなったが、地面の上とフカフカのベッドの上どちらがいいかと聞かれれば即ベッドでオナシャス! と答える。
フカフカのベッドでゴロゴロしていると、コンコンと扉をノックする音。
あ~い! どぞー! と声を掛けると、入ってきたのはロベリアだった。ロベリアは赤のネグリジェ姿で、昼間のフリフリドレスと違って、とても妖艶だ。
「レット。あなたも分かってると思うけど、あなたはこれから学校に通います。あなた今まで学校に通ったことなかったから文字とかも書けないでしょ? 計算だって。それ以外にもレディに必要な作法とか、習い事とかいっぱいしてもらうからね! 明日は朝からあなたが通う学校に挨拶に行くから早く寝ること!わかった?」
いやあ、文字も書けるし、計算とかもできるんだけどなあ。まぁロベリアが僕の為を思ってやってくれてることだしなぁ、なんか言い出しにくい……
まあいいや。適当にやってりゃなんとかなるだろう。
それにしても久々の学校。剣術とか魔法とか、久々に習うからなぁ。腕が鈍ってそうだ。父ちゃんに魔法はいろいろと教えてもらっていたけど、ほとんど「3ピース」の打ち方ばっかり練習してたからなぁ。ちなみに火の刻印と水の刻印は指にうっすら残っている。ROSEを嵌めて使ってないからどんなことになるかはわからないんだけど。
そうそう、僕が森を出発する時、父ちゃんから渡されたものがあった。それは小汚い袋だったんだけど、その中には5枚のカードが入っていた。
父ちゃん曰く、もし万が一どうしようもないピンチが訪れたら使えとのこと。父ちゃんは使えば分かると言ったが、詳しくは使ってからのお楽しみ! と言って教えてくれなかった。本当いい加減だぜ。
ロベリアのヤツ、明日は早いって言ってたな。
そろそろ寝るかぁ。ただいまの時刻午後9時、こんな時間まで起きてたのなんて何年ぶりだろう。森にいた時は日が暮れたら寝てたからなぁ。
◇
「おはよう。レット。朝よ、早く起きなさい!」
は、はえ? あかん、めちゃくちゃベッドが気持ちよすぎて、寝坊してもうた。
森では太陽が昇り始めると自然に起きていたのに、環境が変わると人間ここまで変わるとは恐ろしいもんだ。
顔を洗って、歯を磨いて、あぁ、人間らしい生活ってやっぱこういうのを言うのかなぁ。森では…… あぁ、あかん、なにかにつけて森での生活と対比してまう。でも森での生活もあれはあれで楽しかった。元来ズボラな自分には合ってたし、なによりあの3人+12匹がいた。どちらが上か下かなんて優劣はつけらんないよね。
服を着替えて学校へ向けて出発する。あの~、今日もこんなフリフリドレス着てくんですか? ちょっと気恥ずかしいんですけど……
「え? すごい似合ってるわよ! 食べちゃいたいくらい! あっ、でも学校へ通うようになったら制服があるから。でもその制服もすっごく可愛いからねっ!」
そうか、よかった制服があって。また前回の転生みたいに制服を何十着とストックしといて、制服と寝間着の生活をしよう。このドレスは動きづらくて敵わん。
お屋敷から歩いて学校へ登校する。学校の名前は「ボレアス王立マリス女学院」
そうだ、名前からも分かる通り、女性だけのお嬢様学校だ。女の園だ。まぁ別にどうでもいいんだけどお、なんかぁ、元男が女学院に入っちゃうなんてぇ、いいのかなぁ、ってかんじ。
◇
――ごきげんよう。ごきげんよう……
あぁ、女学生たちの甘い匂いがこちらにも漂ってくる。
なんなんだここは! 楽園か!? いや、今僕は女だからまぁ問題はないんだが、で、でもいいのかなあ…… まぁいい! なにも問題はない!
「レット。あなたはここね、初等部。あたしはこっちの校舎の高等部だから。もしなんか嫌なこととかあったらすぐにあたしに言いなさいよ! すぐに駆け付けてあげるから!」
うんうん、ほんとロベリア頼もしいね。まぁこんな楽園みたいなとこで嫌なことなんて起こるとも思えないけどさ。
とりあえず今日はロベリアに付き添われて、学園長への挨拶だ。
学園長室の扉の前に来て、一息入れる。やっぱ初対面の人に会うのは緊張する。目上の人だと尚更だ。元々引きニートの僕にはかなりハードルが高いのだが、今回はロベリアが一緒にいてくれる。
「いい?レット、学園長はすごくいい人だから心配しなくていいからね。他の先生には嫌な奴もいるけど、もしなんかされたらすぐに言いなさいね。」
何度も僕の心配をしてくれるロベリア。ホント優しいなぁ。僕にここまでしてくれるロベリアにいつか僕も恩返ししてあげたい。
◇
「ようこそ、当学院へ。わたくしが当学院学院長のヒルダ・レイズです。ヴァイオレットさん、あなたの当学院への入学を歓迎いたします。これからもロベリアと仲良くしてあげてくださいね」
白髪の女性、60代くらいだろうか。眼鏡を掛け、背筋はピンとしていて、とても凛々しい印象だ。かっこよく働く女性というのはこういう人の事を言うのだろう。
一通り先生達の紹介などをしてもらい、その後、教室へ案内してもらう。
いやあ、久々の学校! なんか最初は森で引きこもってよう! って頑なに思ってたけど、やっぱ前回の転生のエクソダスのみんなみたいな気の合う仲間ができたら楽しいよなぁ。
はぁ、エクソダスのみんなは今頃どうしてるだろうか…… 会いたいなあ。
担任の先生に大まかな説明をしてもらい、最後に質問はありますか? と聞かれた。
「えっと、剣術とか魔法の授業はどんなかんじなんですかね? やっぱ名門の学院だし、すっごくきめ細やかに教えてもらえるかんじですか?」
僕はウキウキしながら先生に質問した。やっぱ異世界といったら剣と魔法! 今までに僕もかなり上達したと思うけど、この際だし、極限まで極めたいじゃん!
「えぇと、当学院にはそのようなカリキュラムは御座いません」
は? マジ?
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