第34話 ロベリアたんのお屋敷
今日はロベリアのお屋敷へのお引越しの日。僕の荷物はネタ帳と服くらいだ。服もズタボロの布切れみたいなやつ。まぁ僕は服なんてどうでもよかったんで、気にしていなかったんだが、ロベリアが「そんな服着せとくなんて虐待よ!虐待!」というので、彼女が用意してくれた服を着ることになったのだが――
――え、ちょっとこれはぁぁぁ……
ものすごいフリフリの紫のドレスを着させられた。
「レット可愛い! めっちゃ似合う! ちなみにあたしと色違いのおそろだからね!」
ロベリアは白地に赤い花々があしらわれたフリフリドレス、僕のは白地に紫の花々があしらわれたフリフリドレス。
はぁ、こんなの着るくらいならズタボロの布切れのほうがましなんだけど。
あっ! そうだ。言うのを忘れていたけど、ROSEは僕が産まれた時にもうすでに耳にピアスとしてついてたらしい。父ちゃんもそれを最初不審に思ったらしいが、取ろうとすると僕が泣いて嫌がるので、そのまんまにしといてくれたみたいだ。
「はい! 此処があたしのおうちよ。ささっ! どうぞどうぞ!」
ロベリアに促されるまま、僕は彼女のお屋敷に失礼する。扉を開けるとそこには二人のメイドが待ち構えていた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お帰りなさいませ、レット様」
「おっかえり~! お嬢た・ま! よぉ! 新入り! 肩の力抜けよ!」
見るからに正反対な二人のメイドがロベリアと僕の帰りを出迎えてくれた。
「たっだいま~! セツコちゃんあたしがいない間変わりはなかった? サクラコ今日もかあいいねぇ! でもレットは新入りじゃなくてあたしの妹分だからね! そこんとこよろしく!」
セツコ? サクラコ? えらい独創的な名前ですね、てかこっちの世界でそんな名前聞いたことないぞ。この地方にはよくある名前なんかな……
ロベリアにセツコと呼ばれたメイド、身長はかなり高そう。170センチ以上はあるだろうか。スラっとしていて、とても美しい。豊満なタイプではないが、華奢で日本絵画に描かれていそうな女性だ。あとすごくいい匂いがする。あ、なんかちょっとセクハラっぽい言い回しだったかな、へ、ぐへへへへ。
一方小柄なサクラコ。こっちはちんちくりんだ。身長も僕とほとんど変わらない。虫かごを肩に掛けて、カブトムシでも獲って日が暮れるまで外で遊んでそうな女性だ。
「えっと、ロベリア、彼女たちはここのメイドさん? ロベリアひとりで住んでるわけじゃないのね。他にも誰かいんの?」
「あのねぇ、こんなでっかい屋敷にあたしひとりで暮らせると思う? あたし料理とか掃除とか全くできないから。んっとねぇ、ここにはこの二人以外に使用人と執事がいるよ~。またあとで紹介するからね~」
なるほど。たしかにこんなにでかいお屋敷に14歳の少女が一人で住むのにはいささか無理がある。
でもこの子は本当に明るい。基本的にニコニコしていて、彼女の笑顔を見ていると、こちらまで楽しくなってくる。ものすごくつらい過去があるはずなのに、なんつーか、すごいなあ。
ちょうど昼食の時間だったこともあり、みんなで食事場へ行く。
「今日のゴハンはなっにかな~? あたしおなかぺこぺこ~ あっ! レットはなにか好き嫌いとかある~? あんな森じゃ碌なもん食べてなかったんじゃない?」
この子ほんとに貴族のお嬢様なんか!? えっらいフランクな喋り方するけど。まぁそっちのほうが、こっちとしては有難いけど。
「僕はなんでも食べれるからだいじょぶよ。トカゲでも虫でもネズミでもなんでもイケちゃうから」
「ゲ~! そんなの食べてたらおなか壊しちゃうよ~。うちには美味しいお肉もお野菜もスープもたくさんあるからね。レットは育ち盛りなんだからいっぱい食べないと!」
あぁ、この子ホント優しくていい子やなぁ。この子が魔人だなんて未だに信じられん。まぁ魔人になったのもこの子のせいではないのだけど。
そんな会話をしていると、まだ紹介されていなかった使用人2人と、執事のおじさんが挨拶しに来てくれた。
「わたくし使用人のユキコと申します。そしてもう一人がミヤコ、と申します。レット様どうぞこれからの3年間宜しくお願い申し上げます。」
深々と頭を下げる使用人のお二人。やっぱ名前の雰囲気がこっちでは全然聞いたことないような名前だ。てゆーか僕がよく知ってる国によくある名前なんだけど……
「最後になりましたが、わたくしこのシフィリティカ家の執事を務めさせていただいております、トガシと申します。レット様、生活のことでなにかお困りごとやご要望がございましたら、わたしくに何なりとお申し付けくださいませ」
うーん、渋い叔父様だぜ。ロマンスグレーっつーのかな。かっこいいね!
シフィリティカ家の皆さんの紹介が終わったとこで、お待ちかねのお食事タイム。こんな言い方は父ちゃん達に失礼だけど、久々にきちんとしたテーブルに座って食事するぜ。ちなみに森での食事は家の中で食うのと、外で地べたに座ってバーベキューみたいにして食うのと半々だった。トカゲに串刺して火で焼いて食うとかだ。まぁあれはあれでうまいんだが。
あぁ、やはりちゃんとした食事は美味しい。前菜から始まり、スープ、サラダ、メイン料理、今日は牛肉を赤ワインで煮込んだものだそうだ。ああん、繊細なお味。口に入れた瞬間フワッと溶けちゃう。森では塩かけて食うくらいだったなぁ。
たらふく食べて最後にデザートのアイスクリームがでてくる。
アイスなんてここに転生してきてから初めて食べたぞ。やっぱうめえ! 砂糖最高! 糖分最高!
「ごちそうさまでした! 大変美味しゅうございました」
使用人の皆さんにお礼を言うと、皆さん深々と頭を下げてくれた。僕なんかにそんなんしなくたっていいのにぃ。今度は僕が皆さんに料理を振舞おうかな! 皆喜んでくれるといいんだけど。
◇
食事が終わってロベリアの部屋へ行く。
「ねぇ、ロベリアっていっつもなにして遊んでんの?」
「え~、そうねぇ、一人で絵を書いたり、詩を作ったり、あ! あと一人でじゃんけんとかしてるわ。右手と左手のどっちが多く勝つか記録してるの」
え、えぇぇぇぇ…… そんな遊び初めて聞いたんですけど……
「へ、へぇ、あ、あとは~?」
「う~ん、そうねぇ、あとはウノとかトランプやってるわね、一人で。トランプで一人神経衰弱とかも楽しいわよ」
へ、へええ…… で、でもこっちの世界にもウノってあるのか? トランプに似たやつは見たことあるけどそんな名前じゃなかった気がするんだけど……
使用人さんたちの名前にしろ、ウノにしろトランプにしろ、なんか心のどっかで引っかかってるんだけど、まあいいや。今度ロベリアに聞いてみよっと。
そんなこんなで、その後ロベリアと一緒にババヌキをした遊んだ。ロベリアは初めて他人とやるトランプに大層感動して、自分がババを引くとものすごい金切り声を出して悔しがっていた。そして僕がトランプを引くときも思いっきり顔に出ていて、結局僕の29勝1敗だった。1敗はあまりにもロベリアが悔しがるもんだからお情けで負けてあげたのだった。
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