第103話 ィヤンィヤン!
今回の僕の転生、どうやら僕は人間ではなかったようです。
人間以外に転生するなんてさすがに想定外でした。
気づいたのは生後しばらくして、瞼が開いた瞬間。
周りにいたのは全員メラニアでした。
一瞬なにが起こっているのか理解が追い付かなかったのですが、しばらくして悟りました。僕は…… メラニアに転生したんだと……
それからはもう…… 食っちゃ寝、食っちゃ寝の毎日でした。
とくにやることもなく、ぬくぬくと、朝寝、昼寝、夜寝を繰り返す毎日。
ちなみに僕は反転の森のメラニアとして生を受けました。この森に暮らす12匹の次、13匹目のメラニアとしてです。
僕は他のメラニアと違い、紫色の毛色を持って生まれてきたので、皆大層喜んでくれました。他の皆は通常赤茶色や黒色の毛色。僕だけ異なる色だったのです。
僕は周りから勇者と持て囃され、日々鍛錬に明け暮れていました。ですが所詮メラニア。できることは多くありません。他の皆と大して変わらない生活を送っています。
――完
いやまだだ! まだ終わらんよ!
ある日そんな僕に転機が訪れたのだ!
「おい! おまえ! あたいの言葉が分かるだろ!?」
へ? 誰?
「おい! ペペ! お前のことだよ!」
僕に話掛けるひとりの女性。
薄緑色の髪をなびかせ、頭上には獣人特有のふさふさな毛に覆われた耳が生えている。臀部にはフワフワの尻尾、腕から足にかけて薄い体毛で覆われている。
そう、彼女はペルル。前回の僕の母ちゃんだった人だ。
ちなみに僕の名前はラインハルトというんだが、アトロポス達が名付けた名前はペペだった。ペペって…… 〇―ションじゃねえんだから……
だが僕の訴えは彼女達には伝わらない。僕の叫びは彼女達にはィヤンィヤンとしか聞こえないからだ。だから僕は不本意ながらも彼女達にペペと呼ばれている。
ある日突然ペルルが僕に話しかけてきた。その時僕は6歳くらいだった。
彼女達は時たま気が向くと僕らを散歩に連れていく。毎日じゃない。ただ僕らとモフリたいだけの自分勝手な行為だ。まぁ僕もレットの時に同じようなことをしていたので、別にそれが悪いとは言わない。
でもメラニアになって初めて分かった。別に散歩しなくてもいい。僕らは自分たちで原っぱを思いっきり走ったり、食事も自分たちで狩りをしてちゃんと摂取している。まぁ僕らが可愛すぎるのがいけないんだろう。こんな姿を見れば誰しもがモフモフしたくなるだろう。悪いのは僕らをこう形作った誰かなのだ。
話が逸れたが、散歩の終わり際にペルルが僕に話しかけてきた。
「おい! ぺぺ! お前こんな珍しい毛色してるから絶対そのうちあたいみたいに獣人化するぞ! お前はきっと選ばれたメラニアなんだろうな」
おぉ! やっぱり僕は特別なんだろうか!? ていうか僕のことに気づいてくれてないんだろうか? 前回のルーナやトーカ姉さまみたいにレットの記憶が残ってるとうれしいんだけど。なんとかそのことを聞こうとしたのだが……
「ィヤンィヤン! ィヤンィヤン! ィヤンィヤン!」
「なに言ってるか分かんねえよ! あたいもうおまえらの言語が理解できなくなっちまった。こうなる前はわかってたのによぉ」
「ィヤン……」
どうやら獣人化してから僕らがなんて言ってるのか理解できなくなったらしい。そうとくれば地面に文字を書いて彼女になにか伝えようかと思ったんだが、彼女は文字を読めなかった。詰んだ……
何故かその時僕の小さい脳みそに稲妻が走った! 突然閃いたのだ!
そうだ! 僕は重要なことを忘れていた! 僕にはあの人がいるじゃないか! そう、前回僕を助けてくれた、結局的なのか味方なのかは最後まで分からなかったけど、あの人に稽古をつけてもらっていなければ旅の途中で死んでいた。彼女のおかげで前回の転生があそこまで行けたのは間違いない。そう、あの人……
僕は意識を集中した。前回より物凄く小さくなった脳みそで。うう、中々集中できない。すぐに頭の中に今日の晩御飯やかけっこしている時のことが浮かんでくる。いや! 辛抱だ! きっと念ずれば花開く。うぅぅぅっ!
――はぁぁぁぁ!!
「……誰?」
はうわあっ! つ、つながったぞ! この声はあの人……
そう! ホウライだ!
「ホウライ! 僕だ! レットだ! 覚えているか!? い、いや、正確には今はレットじゃないんだが」
た、頼む! 覚えていてくれ! メラニアに転生した今、五指を交互に組んで祈ることはできないが、肉球と肉球を合わせて祈りモドキポーズをとる。
「レット…… 初めて聞く名だけど…… どこか懐かしいね。そもそも私と意識共有している時点で君は私の特別な存在なんだろう。今どこにいるんだ? すぐそちらへ向かう」
マジか!? やったぞ! これで道が開けた! 彼女に事情を話せばこの体でもなんとかなるかも!?
ていうか意識共有状態で会話する時は普通に意思の疎通ができるんだな。これで普段通りィヤンィヤンしか言えなかったら詰んでたぜ。
「今反転の森にいる。頼む! きてくれ! ずっと待ってるから!」
「そうか、今東のほうにいるから2か月くらいはかかるだろう。着く前に連絡するよ。じゃあね」
そういって意識共有は終了した。
よっしゃ! 2か月だろうが1年だろうが待ちます!
このことをきっかけに今回の転生の物語は大きく動き出したのだった。
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