第56話 姉より優れた妹などいねえ!
目が覚めて1か月後、必死になってリハビリをした結果、松葉杖をつけば歩ける程度にまで回復した。最初の数日は自分で上半身を起き上らせることすら困難だったことを考えると、よくここまで回復したもんだ。我ながら頑張った。自分で自分を誉めてやろう。
ボサボサに伸びた髪の毛をロベリアが切ってくれるというので、風呂場の鏡の前に座って待機していると、鏡に映った自分の姿に違和感を覚えた。首の辺りを見てみると以前にはなかった紫色の痣ができていた。なんだこれ? 昏睡状態の時になにかで圧迫されて痕がついてしまったのか? 別に痛くもないのでどうでもいいんだけどね。
早速髪の毛をがっつり切ってもらって心機一転だ。まぁまだ落ちに落ちた体力を戻さなくてはいけないし、体もがりがりになってしまった。まだ固形のものは胃が受けつけないので、スープしか飲めないが、焦らずゆっくりやっていこう。魔法のあるこの世界でも4年間昏睡状態で極限まで落ちた体力を瞬時に元に戻すような都合のいい魔法なんて存在しないのだから。
まぁ、もしあるとするなら神様かなにかの力くらいだろう。そんなものがあるのかは知らないけど。
◇
目が覚めてから3か月経ち松葉杖が無くても歩けるようになった。固形の食事も摂れるようになり、軽い運動くらいならこなせる程度まで回復した。
そういえば一度反転の森まで戻った時、ラヴァには会えたが、ペルルは不在だったみたいだ。一体どうしたんだろう。あいつが森からこんなに長い間離れるなんてこと今までに一度もなかったはずなんだけどな。
ペルル。ラヴァと同じく僕のもうひとりの母ちゃん、早く元気な顔を見せたい。僕が目を覚ましたことを早く知らせたい。
はぁ、しかしなんだ、ついこないだまで11歳だったのに知らない間に15歳になってしまった。あ、この前誕生日が来たから16歳だ。ロベリアは19歳だ。ということはリーリエも14歳になってるってことか。リーリエ元気にしてるかな。
あ! そうだ! ROSEをつけてリリムさん呼べばリーリエとも会えるんじゃないか? よしっ! 思い立ったが吉日、久々のROSE発動だ!
僕は周りに人がいないことを確認して、ROSEを指に装着してみる。すると前回装着した時にでてこなかったギャル女神リリムさんが登場したのであった。
「あ、ユカリ~ン! ひっさしぶり~! 心配したよぉ! あのまま目を覚まさなかったらどうしようってさぁ!」
「久しぶりじゃねえよ! なんで17ガーベラと戦闘してた時でてきてくれなかったんだよ!? 大変だったんだからな! なんかエストリエさんと旅行逝ってたらしいじゃんかよ!」
彼女にそう言うとリリムさんは驚いた顔をして、僕が言ったことを否定してきた。
「え!? ちょ、ちょい待ち! あたしエストリエ先輩と旅行なんて逝ってないよ! あんときはぁ、レミアラ先輩にさぁ、呼ばれても出てくんなって言われててぇ…… あ、ほんとはあたしもユカリン助けに行きたかったんだよぉ? でもさぁ、先輩怒ると怖いからさぁ……」
なるほど。女神の中でも上下関係があるのね。まぁ~、どこにでもぉ、カースト制度ってのはぁ、あるもんねぇ…… ほんとクソな文化だぜ!
「あ、あとさぁ、会いたくない人もいたからさぁ。まぁぶっちゃけホウライ先輩なんだけどぉ……」
へ? そうなの? てかやっぱホウライとも面識があるわけね。まぁ元女神のホウライとリリムさんが知り合いでも別になんもおかしなことはないもんな。でもなんで会いたくないんだろ?
「いやさぁ、まぁ色々あってさ。多分ホウライ先輩は気にしてないと思うんだけどぉ。あたしはあの人と顔会わせるの気まずいんだよぉ…… もお! この話終わり終わり!」
一方的に話を終了されてしまった。まぁ外野がとやかく言うことでもないだろうし、僕もそこまで詮索しようとも思わないからこの話題はもういいや。
「ねぇ、リリムさん、リーリエって元気にしてる? 久々に会いたいんだけど」
「あ~! リーリエちゃんか~! そりゃ会いたいよね~! ちょっと待ってね、今なにしてるか見てみるから」
そう言って彼女は一旦消えてしまった。なるほど、リーリエがこちらに来ている時は向こうではリーリエはいなくなってたってことか? まぁそりゃそうだよな。どっちにも存在してたらおかしなことになるしな。
しばらく待っているとリリムさんが戻ってきた。
「ユカリンごめ~ん! 今リーリエちゃん忙しいみたいでさぁ、また夜にでも連れてくるよ。また連絡するからね~。とりあえず一回帰るよ~ん! じゃねぇ!」
そりゃそうか。あいつにはあいつの都合があるしな。てかこっちに来るときは元いたところからはいなくなってるのか。そりゃ当然か。両方に存在してたらなんかおかしなことになりそうだもんな。
そのあと毎日の日課であるリハビリをして、ここ最近やり始めた魔法の訓練なんかを行った。すっかり外は暗くなり、いつの間にやら夜になっていた。
食事を終え、ひとり部屋で寛いでいると、突然後ろから声を掛けられた。
「あに、じゃなかった、姉上! お久しぶりです! リーリエ参上です!」
あ、リーリエが来た。
あら~、大きくなっちゃって~。昔はあんなにちっちゃかったのに~。もう掌に乗るくらいちっちゃかったのにね~。今じゃ僕とそんなに背かわんないんじゃない?
「リーリエ、久しぶり。元気にしてた?」
「はい! 私はこのとおり元気です! 姉上は大変だったとお聞きしましたが」
あんれ? この子ほんとにリーリエ? なんかちゃんとしゃべってるんだけど。ガワだけおんなじで中身別人なんじゃね?
「リーリエ、なんで我、とか、闇のなんとか~! って言わなくなったの? 僕にも普通にしゃべれるようになったなんて、お兄ちゃん感激」
「は、はわわ。いや、あれは姉上に命令されてやっていただけで本当は私は恥ずかしかったんですよ」
いや命令してねーし! なんでこいつの頭の中ではそう改変されてんだよ!
久々にコメカミぐりぐりしてやろうかと思ったが、ふとリーリエを見て、そんな考えはどっかにふっとんでいった。
こいつ、妹のくせに僕より胸がでけえ!
な、なんでだよ! 姉より優れた妹はいねえんじゃなかったんかよ!?あ、違った、兄より優れた弟はいねえだったわ。
まぁ嘆いても仕方ないのでそのことは一旦置いておくことにした。
「そういやリーリエ、なんか変わったことはなかった? 皆元気にしてる?」
「え? 姉上ご存じないのですか? ルーナさんとトーカ姉さまがそちらの反転の森に向かったってこと。あ、アルビオンさんも同行していったんですよ」
は?
は?
は? そんなの初耳だぞ! てかなんであいつらがこの反転の森に来るんだよ!? どういう流れなんだよ、それ。
「なんでもアルビオンさんのお兄様がこの反転の森の魔女だそうで。お兄様なのに魔女って、意味がよく分からないんですけどね」
は? アルビオンさんが父ちゃんの弟!? そうだったのか。た、たしかに同じエルフだ。でもそんな偶然があるもんなんか!? でも反転の森に来たんならなんで皆教えてくれなかったんだ?
「リーリエ、それっていつくらい前の話なんだ?」
「ええと、ここを出発したのはもう3年くらい前ですね。そちらには多分2年半くらい前に着いたのではないでしょうか? 一度手紙が送られてきましたので」
なるほど。僕が昏睡状態の時に来たのか。まぁ父ちゃん達は僕とルーナたちとの関係を知ってるわけないしな。わざわざそんな情報を病み上がりの僕に教えるなんてことはしないか。でも明日詳細を聞かなくては。
「姉上。今日はあの海鮮はないのですか? あれが食べたくてずっと我慢していたのですが」
「ねえよ! そんなもん! 海はこっから50キロは離れてるんだよ!」
「そ、そ、そうなのですか……」
あ、しまった、リーリエがしょぼんとしてしまった。
「あ~、ちょっと待ってて。ロベリアになんかないか聞いてきてやるから」
そういうとリーリエはパァっと顔が明るくなり、たまたまあった海老を塩焼きにしてリーリエに食わせてあげたのだった。
てかこいつメシ食いに来たのかよ。
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