第44話 お前ら普通に帰りなさいよ

 あ~、よく寝た。ロベリアの屋敷のベッドも最高だけど、ここのベッドはさらにすごいな。ベッドの上で10回はでんぐり返しできるぞ。

 でもさすがにROSEをつけっぱなしにしてたからちょっと体が重いな。もう取っちゃっていいかな。ダメかな……


「レット君おはよう。昨日は遅くまですまんかったな。お詫びに朝メシはワシが皆に振舞おうかの。レット君なにが食いたい? 刺身でもするか?」


 おぉ!! 最高! 多分数十年だろうか。刺身なんてずっと食べてないよお! 食いてえよお!


「イゾウさん! 是非刺身でオナシャス!」


 よしっ! イゾウさんはそう言うと、調理場にある生簀まで僕を案内してくれた。


「どうじゃ! こっちの世界にも日本と同じような魚がたくさんあるんじゃぞ! なにが食いたい? 鯛もある、ハマチもある。今なら甘鯛と車海老が旬じゃな。車海老は塩焼きにしてやろう!」


 あぁ! マジでここに来てよかった。朝から車海老の塩焼なんてこんな贅沢ある? 一緒にきた皆は刺身は抵抗あるかもだけど、車海老の塩焼は絶対好評でしょ!


「え、御爺様、その虫みたいなのなんですの? それ食べれるんですの?」


 海老はどうやら虫みたいに見えるらしくってアナスタシアが若干引いていた。でも焼いたやつを剥いてあげて、恐る恐る食べるとめちゃくちゃ美味しかったらしく、最初は拒否っていた他の奴らも競うように食べていた。しまった。自分が食う分が無くなってしまった。

 でもまぁいいか。自分が美味しいと思うものを仲間と共有できたんだ。こんなうれしいことないよね。


 刺身もやっぱうめえ。そりゃさっきまで泳いでたんだもんな。うまいに決まってる。その刺身をキサラギ財閥の関連企業で栽培したワサビをつけて食す。くぅ~、久々のワサビ! ワサビってこんなに辛かったっけ? この世界は基本味が薄いから味覚が敏感になってるんかな? 


 そんなかんじで超豪華な朝食を頂いて一休み。少し食休みしたらまた今日も海で遊ぶ! 今日はなんとイゾウ氏も一緒に海へ行くという。90歳で本当にこの爺さんすごいな!



    ◇



「レット君、どうだ? 海だけ見てると日本と変わらんなぁ」


 そう言うイゾウ氏は褌一丁だ。実に漢らしい。


 ですねぇ、と答える。やっぱりイゾウ氏は日本に帰りたいんだろうな。この世界に来て90年経っても日本が忘れられないんだろう。

 僕だって異世界転生前の両親や姉妹たちに会いたくないわけじゃないけど、やっぱりこの世界での出会いは強烈すぎた。

 何回も転生を繰り返して、もう一度会いたい、死んでしまったことを謝らなければならない人達がたくさんいる。

 日本に帰ることがもしできるとしても、僕が帰るのは今ではない。それだけは断言できる。



    ◇



 この日も海で目いっぱい遊んで、釣りなんかもしちゃったりして、釣れたお魚はお昼のバーベキューで焼き魚にして食べた。

 前々回の転生の時は釣りしても全然釣れなかったけど、今回は釣り竿も餌もちゃんとしてたのが功を奏したのか、かなりの釣果だった。まぁ釣った魚のほとんどはリリムさんとリーリエのおなかの中に消えていったのだが。


「あに、じゃなかった、姉上。そろそろ私達おうちに帰ろうかと思います」


 あ、そうなの? じゃあね~。


「ユカリ~ン、なんかさぁ、ただ単に帰るだけじゃ芸がないじゃあん。だからさぁ、ちょっとドラマチックに帰ろうかなと思うんだけどぉ。イケてたかどうか、後で感想聞かせてよぉ」


 え、何言ってんの? この人。いや、普通に帰りなさいよ。別にドラマチックじゃなくてもいいから……


 そんなことを思っていると、リリムさんの傍らには2メートルくらいの大きさのイカダがある。え? 何する気ですか?


「これねぇ、昨日夜なべして作ったんだぁ! すごいでしょ!」


 それを使って何をどうするつもりなんですか? 僕にはあなたの考えてることが全く分かりません。

 じゃあ行くよぉ! と言ってリリムさんとリーリエは皆に「はい! ちゅうも~く!」と声を掛けた。


「実はあたしたち東の大陸から海を越えてやってきたんです。とても楽しかったのですが、そろそろ帰らないといけないのです。美味しい海の幸を沢山有難うございました!」


「ふっ! 我も闇の居城へ帰るとしよう! 我が眷属たちよ! 何れまた会うことになるだろう! 努々忘れるな。我という深淵なる闇の主のことを!」


 二人はそう言うと、イカダに乗り込み大海原へ進みだす。他の皆はポカーンとしているが、部長だけ涙を流してリーリエにサムズアップしている。やはり同族同士惹かれ合うものがあったのだろう。


 そして二人はどんどん冲のほうへ行き、次第に見えなくなっていった。


 さっ、もうROSE外しちゃってもいいかなぁ。いろんな意味でドッと疲れました~。

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