第110話 神様登場!
「あぁ、少し待ってくれ。今登場する準備をしているところだ」
え? 準備? どういうことだ? でてくるのに準備? 着替えでもしているのか?
ていうかこのふたりのどっちかがユピテルなんじゃないのか?
扉を開け、入って真正面、ふたりの男性が立っているちょうど真ん中には
しばらく待つと、ユピテルと呼ばれた60代くらいの男性がボソッと言った。
「準備できたみたいだ」
もうひとりの男性が続けて言った。
「すまないな、ホウライ、あいつはこれを毎回やらないと気が済まないようなんでな。付き合ってやってくれ」
「あぁ、もう慣れた。問題ない」
毎回やらないと? 慣れた? こいつら何を言ってるんだ? わけが分からない。
僕の疑問はほんの数秒後に解消された。
「来るぞ」
――ユピテルじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
それはどう見ても幼女。年齢は7,8歳くらいか? 銀色の髪の毛に桃色の虹彩、服装は…… どうなってる!? モザイクのようなものがかかっていて、見えない、認識できない。
「おい! ホウライ! なんでボーっと突っ立っておる!? 驚け! 腰を抜かせ! 慌てふためけ! この超絶えらい神ユピテル様がこうして登場してやったのじゃぞ!」
「あぁ、すまない、もう何度も見たからね。次は違う登場の仕方を頼むよ」
「ふんっ! 贅沢なヤツじゃ! あっ!!」
ん? どうした? ユピテルは突然何かを思い出したかのように大声を上げた。
「そうじゃったそうじゃった、もうおぬしとは口を聞かんと心に決めたのじゃった。心に誓いを立てたのじゃった。1万年前から決まっとるのじゃった!」
な、なにを言ってるんだ、この子は? いや、この神様は。
見た目は只の幼女で可愛らしさ全開だが、この子からは何故だか得も言われぬ怖さ、不気味さ、奇妙さを感じる。なんだろう、この気持ちは……
「私が予測するに、つい先ほど、何日前かはわからないが、誰かが訪ねて来ただろ? そして私がなにかよからぬことを企んでいると君に告げ口した。違うかい?」
「お前とはしゃべらんしっ! 絶対しゃべらんしっ! てかもう決めたしっ!」
「なぁ、意固地にならずに聞いてはくれないか? 誰が君に告げ口をしたのか、まぁある程度予想はついているが、それは全て出鱈目だ。私は常に安定を望んでいる。世界の均衡をどうこうするつもりはない」
「ふんっ! そんなんいくらでも言えるわぁ! もう決めたんじゃしっ! お前を書き換えると決めたんじゃしっ!」
書き換える? てことはやっぱり前回ホウライを女神から元女神へと落としたのもコイツの仕業だったのか?
「話を聞きなさい。何故私の意見ではなく相手の意見だけを信じる? 君と私は今まで良好な関係を築いてきたじゃないか」
「ふんっ! そんなもん! 向こうが先に来たからじゃ! 要は早いもん勝ちじゃ!」
な、なんなんだ、その理屈は!? そうだ、こいつに感じた不気味さ、無邪気さ、幼女が強大な力を握ってるという不安感…… 僕はきっと、こいつの匙加減ひとつで世界が傾くという恐ろしさを心のどこかで感じ取っていたんだ。
「なぁ、現在この世界に顕現している神がお前だけなのを良いことに、えらく気が大きくなってるんじゃないか? お前がその気なら私にも考えがあるぞ。お前を倒せはしなくても色々とやりようはある、お前がしたように、私にもな」
おいおい、ホウライのやつえらく挑発的な物言いして、どうしたんだ!? 喧嘩腰になってもなんの解決にもならないと思うんだが…… いや、聡明な彼女のことだ、なにか考えがあっての発言なのだろう。そう思おう、そう思いたい、そうだといいなぁ……
「あぁ!? なんじゃ! なんじゃ! えらそうに! そういうこと言うならもういいもんね! やってやる、当初の予定どおりやってやる! もう知らねっ! お前なんてもう知らねっ!」
あ、あかぁぁぁん! ダメやん、逆効果やん! 思ったとおり神様不貞腐れちゃってるじゃん! どうすんだよ、ホウライ……
だがここで、思わぬところから助け船が入った。
「待てユピテル。お前の気持ちも分からんでもないが、ここはホウライにもチャンスをくれてやってはどうだ?」
助け船を出したのはまさかのユピテル(若い方)だった。
「あぁ!? なんじゃユピテル! ワシの決定に文句あるんかぁ!?」
「いや、聞けユピテル。文句はないが、双方にチャンスを与えてやるのが神の務めなんじゃないのか? ホウライが無実を証明できればいいのだろう。元々我らには時間はたっぷりある。少しくらい待ってやるのも一興だろう」
ナ、ナァイス! 若年男性のユピテル! てか名前分けてくんねえかな、皆ユピテルってこんがらがるだろうが! だがもうダメかと思っていたところに蜘蛛の糸、もうこれに縋るしかない!
「う~ん、あぁ、まぁ? お前がそういうならそれでもいいけどぉ、でもなぁ、さっきワシに啖呵きってきたからなぁ、コイツ。どっしよっかなぁ~」
うわぁ、この神様本当にひでぇな。ホウライのやつ、こんなこと言われて耐えられるのか? 僕だったら絶対売り言葉に買い言葉で、ケンカ吹っ掛けちゃうなぁ。
だが僕の心配は杞憂になった。
「ユピテル、すまない。私が悪かった。つい感情的になってしまった。申し訳ない」
ホウライは深々と頭を下げ、ユピテルに許しを請うた。
す、すごいぜ、大人だぜ。さすがホウライ。くやしさも憎しみも心の中でグッと堪えて偉い! 僕は信じてましたよ!
「ふ~ん、まぁ? お前がそうまでして懇願してくるならぁ、許してやらんこともないけどぉ?」
かぁぁ! 面倒くせぇ神様だなぁおい! そこは素直にいいよって言えよ! まぁいいや、なんか許してくれそうな感じだしな。
「よしっ! 許した! そんでお前はワシにお前が無実だという証拠を持ってこい! いいな!」
「あぁ、分かった。ちなみにお前に告げ口をしに来たのは女神か? もし差支えなければ誰か教えてくれないか?」
「あぁ!? そんなもん教えるわけないじゃろが! あ~、なんじゃっけ? えぇぇっと、プ、プライバシーの保護じゃ! あ、でも来たのは女神じゃぞ」
「そうか、有難う。ちなみにそいつは私だけを告発しにきたのか?」
「あぁ!? う~ん、まっ、これはいっか。うんとなぁ、お前となぁ……」
神ユピテルが出した名前、それは全く予想だにしない女神だった。
――そいつはな、アーテーじゃ
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