第3話 異世界転生第一回目どんどんぱふぱふ~

 知らない天井だ


 うん、まあそうだ。よっしゃ転生成功! ん? やっぱ赤ん坊からスタートってわけね。

 よ~し、おじさん頑張っちゃうぞ~! 赤ん坊だけど!


「おぉ! 元気な男の子だね。よくやったぞ!」


「えぇ、あなた。あなたに似てとってもハンサムよ」


 このふたりが僕の両親か~。

 うーん、ふたりとも美男美女。なんだろな~、肌白~い。きめ細か~い。目が青~い。こりゃあ僕も将来美男子になるなこれ!

 よ~し、僕様のスーパースキル“打突”(ノーマル)を鍛えに鍛えて、いっちょ魔王でも倒しに行きますか~!


「あなた、名前はなんにしましょうか?」


「そうだな~、ん~、この子には特別な名前を付けてあげたいな」


 なになに!? 僕はゆかりだけど~、こんな女の子みたいな名前嫌だったし~、スーパーかっこいい名前つけちゃってよ!!


「決めた! この子の名前は――――」


 ごくり……


「トンズラだ!」


 は?


「あなた~! なんて素敵な名前なの~! トンズラはこの世界の神様ヌスット・タンソクと並ぶ三大神のひとりね~(説明口調)」


「あぁ、いい名前だろ? きっと三大神トンズラ様のように素晴らしい人物になってくれるに違いない!」


「あぁ、あなた!」


「あぁ、トンソク!」


 ママンの名前トンソクかよ……いや、こんなきれいなのに。酷いだろ。いじめか? いや、でもこの世界はこれが普通なのか。じゃあトンズラはこの世界ではイカす名前なんだろう。よしっ、名前なんて慣れれば気にもならなくなるだろう。やったる、僕はやったるで!


 そして美人のママンのおぱーいを飲んだりママンのおぱーいを飲んだりして僕はすくすくと元気よく育った。そして――――



    ◇



 ――やーい!トンズラ~! う〇こと逃げ足だけ早いトンズラ~!!


 おぉぉい!! この世界でもトンズラっておかしい名前じゃねぇか!


 成長してから知った。トンズラって言葉にはいろいろ意味があって、もちろん最初に言ったこの世界の三大神トンズラ、あとなぜか日本のとんずらと同じ逃げるという意味、あとこれが一番きつい、う〇こという意味があったのだ。


 ふっざけんな~!! いや、仕方ない。僕のパパンとママンは木こりが家業で、どっちも学校にも通っていなくてあまり学がなかったのだ。三大神の話はこの世界では有名な御伽噺で知っていたのだが、それ以外の意味は知らなかった。

 両親が一生懸命考えてつけてくれた名前だ。う〇こだろうが、僕は誇りを持って生き抜いて、このスーパースキル「打突」を究極スキルまで高めてやる!


 両親は木こりをしながら僕を学校に通わせてくれた。木こりの生活はきつい。朝から晩まで木を切っても、売る時には大したお金にはなりゃしない。だからうちにはお金がない。

 だけどふたりは僕を学校に通わせてくれた。この世界の学校なんて足し算と引き算くらいしか教えてくれないから行かなくたって問題ないのに!

 二人には感謝しかない。トンソクママンとトンジルパパン、あとで知ったがトンが日本で言う苗字だそうだ。なぜかこちらでは普段の呼び方でも苗字と名前をいっしょに言う。どうせなら名前だけで呼ぶ風習だったらよかったのにぃ! いや、それだと僕はズラになるのか…… どっちにしろ詰んでるな……


 そうこうしている間にあっという間に僕は11歳になった。


 こちらの世界では11歳で一人前の男だ。異世界転生したっていうのに、名前のせいでいじめられ続けて友達はひとりもいない。みんなう〇こするだろ! そんな毛嫌いするなよ!

 だが僕はめげない。なぜなら僕にはスーパースキル「打突」があるから。

 僕は毎日毎日打突を極めるために、裏庭にあるでっかい木に打突を繰り返した。想像していた異世界転生では、視界にステータス画面とかが表示されて、レベルがあがるとピロリロリン! とか言ってお知らせしてくれると思っていたんだが、実際そんなことはなかった。

 でもなんか毎日打突していたらすんごい強くなってきた気がする。

 何年も何年も打突を打ち続けてきた木には特になんの変化もないけど、今日は旅立ちの日。これから僕はこの村を出て近くの街へ行って冒険者登録をしに行くのだ。

 パパンとママンは僕を必死で止めたが、僕の決意は固い!

 打突を極めてパパンとママンに楽させてやる。そんで魔王を倒して魔王城に住んで、この村に住んでる村人どもの首に鎖を繋いで、一生奴隷としてこき使ってやるのだ。わっはっはっは。

 まぁ冗談はさておき、半分は冗談ではないが、街へいくぅ! ことにするぅ!

 お父様、お母様、この不肖トンズラ、英雄への旅路へ、行ってまいります!!



    ◇



 村をでて30分、初めてのモンスターに出会った。ゴブリンだ。あぁ、ゴブリン、夢にまで見たゴブリンだ。やっぱいるんだ、この世界にも。やっぱ雑魚キャラといえばこいつだよね。ほんとはスライムとかがよかったんだけど、あの、なんでもスキル奪っちゃうスライムだったら打突奪われちゃうし、やっぱゴブリンでいいや。


 よっしゃっ! いっちょ初陣かる~く決めちゃいますか!


 よしっ、スキル「打突」!――――


 ――ぽんっ!


 あれっ? 死なないぞ。僕の鍛えに鍛えた「打突」が!!

 おい、こいついわゆるネームドモンスターとかいうやつなんじゃね? こんな村から出て30分のとこにこんな強いやつでんじゃねーよ!


 ――ゴブリンの攻撃!! 「殴る」


 ぐえ~、死んだ~、ってマジでやばい、えっ、めっちゃ血でてるんですけど……

え、強すぎだろ。マジで逃げないと、死ぬ――――

 右の脇腹にいいのを喰らって、物凄い痛みに耐えながら、なんとか村まで戻ってきた。村の入り口を過ぎると、いつもは虐めてきたやつらが、心配そうな顔して僕を見てる。

 なんだよ、そんな顔して心配できるんじゃねーかよ。だったらなんで普段からそうやって相手の心配しねーんだよ。おまえら、そーゆーとこ・だ・ぞ。

 意識が朦朧としてきたが、なんとか家までたどり着こうとする。パパン、ママン、ごめんよ、おバカな息子で。打突はどうやらクソスキルでした。どんだけ鍛えてもレベルとかあがるやつではありませんでした。

 パパンママン、毎日夢を語っちゃってごめん、僕強くなって二人を楽させるんだ、なんて。無理でした。こんなクソ野郎のダメ人間には到底無理な話でしたよ。


 そんなことを思っていると、パパンとママンが駆け寄ってきた。

 ふたりともそんなに泥だらけで、途中でこけちゃったかんじ? 気をつけてよね。ふ、ふん、べ、別にあんたたちの心配なんかしてないんだからねっ!

 あ~、意識が遠くなる……

 ふたりともそんなに泣かないで。こんなクソスキルもらって転生してきちゃってごめん。もっといいスキルもらってきてたら、ふたりにもっと楽させてあげられたのに……

 あ~、やばい、もうやばい、これ死ぬやつだ。で、でも最後にふたりに会えてよかった。あ~、現実世界でも……お父さんと、お母さんに、ありがとう、って言ってから死にたかった――





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