第133話 久々のロベリア
ホウライとの念話からどれくらいどれくらい経っただろうか。もうよく分からない。本当にこの森にいると時間の感覚がおかしくなる。まだ数日しか経ってない気もすれば、数か月経った気がしないでもない。
その日も特にすることもなく嬉野一家の双子ちゃんとボールで遊んでいた。
ふたりはユピテルとは違い、ボールを優しく投げてくれるので、なんとか僕でもキャッチすることができる。なんだろう、メラニアの本能なのだろうか、投げられたボールを追わずにはいられない。早朝から昼食の時間まで延々ボールを追いかけていた、それも一心不乱に。
ちなみにボールはホウライからもらった魔獣が入っているというボールだ。結局このボールも、あの森での戦闘では使うことはなかったなあ。できることなら今後も使う機会がないといいんだけど。
そういえば双子と遊んでいて気付いたことがあった。
10歳になる双子ちゃん
話は戻ってその日も双子とボール遊びをしていると、突然頭に電撃が走った。
これはあれだ――
――ホウライからの知らせだ。
どうやら彼女がこの森に到着したらしい。僕は急いで森の入り口へと向かった。
◇
「ホウライ、久しぶり。で、どうだった? 犯人わかったの?」
僕の前に佇む彼女は見るからにやつれていた。
女神でもやつれるのかと一瞬思ったけど、ホウライの表情を見て察した。彼女が思ったような成果を上げられなかったのは一目瞭然だった。
「すまない、振出しに戻った。犯人はルシフェルではなかった」
「マ、マジかよ…… で、でも! まだ時間はある! もう一回探そうよ!」
「あ、ああ、そうだな……」
こんなに落胆したホウライを見るのは初めてだ。いつも飄々としていて何処か自信に満ち溢れているような佇まいをしていた以前の彼女はそこにはいなかった。
約束の4年まであと1年しかない。でもこのまま手を拱いていても時間は待ってはくれない。やはり僕が当初睨んだ通りエリーニュースの行方を追ったほうがいいのではないか。僕はホウライにそう提言することにした。
しかし彼女から返ってきた答えは意外なものだった。
「彼女だけはありえない。彼女がそんな女神の使命から大きく逸れた行為をするはずがない。彼女は誰よりも女神の役割に忠実で最も尊敬される女神なのだよ」
「いや、でもロストルームでルシフェルは確かに言ってたんだ。女神の反逆、そしてその首謀者がエリーニュースだって!」
「しかし……」
頑なにエリーニュースの反目を信じようとしないホウライ。よほど彼女のことを信頼しているのだろう。
確かにルーニーが言ったことが本当なのか分からない現状、エリーニュースが犯人だと決めつけるのはよくないのか……
結局なんの手掛かりのない、完全な振出しに戻ったことだけは確かだった。
「そうだ、久しぶりにロベリアのところへ顔を出そうと思うのだけれど、君も一緒に来るかい? ユピテルは当分起きないのだろ? ふたりのユピテルからは君を連れていってもいいとお墨付きももらったしね」
「え! も、もちろんついてくさ! てかダメって言われてもついてくし!」
全く予想していなかったホウライからの申し出に心が躍る!
ロベリア……僕の大切な友人。僕と同じ転生者で僕と前回の転生の記憶を唯一共有する大切な人。ロストルームではなんでか彼女が僕の眷属になったなんて言われたけれど、彼女はそんな安っぽい言葉で片づけられるような関係ではない。そう、まさにソウルメイトと言ってもいい。
彼女に会いたい。前に会ったのは3年前だ。今では13歳になってるってことか。彼女に会えると思うと今から居てもたってもいられない感情が込みあげてくるのだった。
◇
「やあセツコ、ロベリアはいるかい?」
「ホウライ様お久しゅうございます。暫しお待ちください。直ちにお連れいたします」
ロベリアの屋敷の前、メイドのセツコさんがロベリアを呼びに走っていった。
前回の転生で何年も暮らした懐かしい屋敷はあの頃となにも変わらずここにある。色々と込みあげてくるものはあるものの、そんな感傷に浸ってる場合じゃないことは僕でも分かっている。
セツコさんが屋敷の中へ戻ったほんの数十秒後、前回訪れた時と同じようにドタドタと騒々しい音を響かせながら、この屋敷の主がやってきた。
「レット! あなた一体何年待たせるのよ! あっ、女神様、ご無沙汰してます。てゆーか酷くないですか!? 何年も連絡も寄越さず、ずっと放置するなんて!」
「ああ、すまないね、こちらも色々とあってね。まあ何も問題は解決してはいないんだがね。ロベリアはすっかり大きくなったね」
「えへへ、そうですか? ちょっとは大人っぽくなったかな? 身長も大分伸びたんですよ。学院にも相変わらず通ってますし」
前回会った時よりもずっと大人っぽく成長したロベリア、可愛らしい女の子から美しい女性へとその姿を徐々に変えて、少女以上大人未満といったところだろうか。
「ロベリア久しぶり。随分大きくなったね。元気してた?」
「は? は!? レット、あなた喋れるようになったの!? てかどこから声出てるのよ……」
あ、そうだった、前にロベリアに会った時は喋ることができなかったんだった。
ロベリアにこれまでの経緯を説明すると、彼女も納得した様子。
彼女は彼女で学院で前回の転生時、僕が学院に入るまでは面識のなかったアナスタシアやクラウディア、フィガロ部長なんかともすでに仲良くなったらしい。
よかった、僕が一緒にいなくても友達ができたんだ。前回の転生よりも彼女の周りに人が増えたみたいで、自分のことのように嬉しい。
「あっ、そうだ……」
「どうしたの? レット?」
ロベリアからかつての学友たちの名前を聞き、大事なことを思い出した。
学院で知り合った仲間のひとりアナスタシア。
彼女はキサラギ財閥という超大企業のご息女なのだけど、彼女にはその財閥を一代で築き上げた祖父がいた――
――イゾウ・キサラギ。
彼は前回の転生時、僕が11歳の時に日本へ帰ることができないのを知り、絶望して自死したのだけれど、今はその事件の約2年前だ。
もしかしたらイゾウ氏の自死を止めることができるかもしれない。
何故だろう、僕にとって彼の死を止めることは、とてつもなく重要なピースのような気がしてならなかったのだ。
「ロベリア、アナスタシアの御爺様と面識ある? イゾウ氏」
「ええ、あるわよ。今回の転生ではあたしも前みたいに避けるような態度はとらなかったしね。今ではすごくよくしてもらってるわ」
なるほどね、ロベリアは前回は確かにイゾウ氏に余所余所しい態度をとっていた気がする。前回の記憶があるロベリアは、そんな同じ轍は踏まなかったってわけか。
「ホウライ、少しだけ時間をもらってもいい? 少し寄りたい所ができた」
「ん? ああ、構わないよ。イゾウちゃんに会いに行くのかい?」
――ああ。
僕はホウライの問いにそう答え、そのままホウライ、ロベリアを連れ、イゾウ氏の住む邸宅へと向こうことに決めたのだった。
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