第85話 魔人討伐共同戦線
宿屋で一晩を明かし、いよいよ出発の朝。
「それでは参りましょうか。ロベルタさん、二日酔いは大丈夫ですか?」
「え、大丈夫じゃない。頭痛い……」
久しぶりの揺れのない場所での宿泊にテンションの上がったロベリアは、飯屋で酒を飲み過ぎてしまい、なるべくして二日酔いになっていた。
ちなみに彼女達ビジランテは魔人討伐達成をお題目に掲げている冒険者チームだ。万が一ロベリアが悪意の魔人とバレてしまっては色々と不味いので、マーチ達には偽名を使うことにしたみたいだ。これはノナの提案。さっすが17ガーベラ、気が利くぜ。
「あぁ、馬車揺れる~。頭に響く~。もう揺れるのは嫌なのに~」
あ~はいはい。飲み過ぎたあんたが悪いんでしょ。ロベリアの戯言は無視してマーチに現状について色々と教えてもらう。
「マーチの所属してるビジランテってどんな冒険者チームなの?」
「えぇとですね、賞金首やお尋ね者を討伐するために作られた団体なんですが、現在メンバーは約20名ほど在籍しています」
へぇ、そんなにいるんだ。結構な大所帯なんだな。
「それで今回のアコナイト討伐はちょうど私達のチームが掲げていた魔人討伐という悲願を達成するまたとない機会だったので、ルーナさん達と共闘することと相成ったわけです」
「ふ~ん、魔人討伐がチームの悲願ってわけなんだ。それはまたどうして?」
魔人を倒すとなんかあるのか? 別にお尋ね者だけをターゲットにしてたほうが安全な気がするんだけど。
「それはですね、魔人討伐を達成した冒険者チームには数えきれないほどの多大な恩恵が与えられるからですよ」
「恩恵? えっと、それだけ魔人討伐は難しいってこと?」
「そのとおりです。今までに魔人討伐と、それに準ずる超高難度討伐作戦に成功した冒険者チームは世界中でも3チームしかありませんので」
そんだけしかいないの!? ふ~ん、なるほどね。魔人討伐っていう偉業を達成すれば名誉や名声とか、色々なメリットがあるってわけか。世界的に名前を知れ渡れば、たしかにその後の人生は薔薇色だ。なるほど、冒険者チームなら魔人討伐は是が非でも達成したいところだよな。
「ちなみにこれまでに魔人討伐を達成したチームはどんなのがいるの?」
――それはですねぇ……
――やはり一番有名なのは魔人落ちした元女神『エイシェット』を討伐したアイジタニア天命国の冒険者チーム『天使再臨』ですね。
――次に有名なのは120年前に2大悪魔の一柱『バアル』の封印に成功した老舗冒険者チーム『理の監視団』です。現在はほぼ活動がないようですが、過去の偉業で未だに世界的に名の知れたチームです。
え!? バアルを封印!? バアルって船で遭遇したアレだよな? あんなもんを封印したヤツらがいるのかよ? 信じらんねえ……
「ねぇ、魔人討伐以外でもさっき言ってた多大な恩恵ってのは受けられるんだ?」
「えぇ、悪魔は魔人の上位種ですからね。理の監視団はバアルを封印しただけで、討伐したわけではありませんが、まぁ、それほどの偉業だったわけですね」
なるほどね。たしかにあんな化け物倒せるイメージが沸かないわ。
――そして最後は勇者から魔人落ちした『ラムキル』を討伐した東の大陸にある小国アンフィスバエナの冒険者チーム『ディスオーダー』です。
勇者!? さすが異世界、やっぱり勇者なんてのがいるのか。でも勇者から魔人落ちって一体なにがあったんだ?
「ねぇ、なんでそのラムキルとかいうヤツは勇者から魔人落ちしたの? 勇者だったんでしょ?」
「えぇとですね、私もそこまで詳しくは知らないんですが、聞いた話によると魔王城へ魔王討伐に行ったものの魔王はいなくてですね、自分の存在意義が崩壊して精神異常をきたしたらしいです」
な、なんだそれ…… 魔王がいないんなら別にそれでよかったんじゃないのか? いや、その勇者は魔王を倒す為だけに人生を捧げていたのか? うーん、よくわからん。
しかしなかなか有益な情報を聞けた気がするな。
その後マーチに色々なことを教えてもらった。
今向かっているセルトゥの現状、アコナイトが潜伏していると思われる場所、そして冒険者チームビジランテの現状について。
セルトゥ暫定自治区は数年前までセルトゥ戦線共同体という名前だった。それまではアリスミゼラル連邦国の一部と紛争状態だったのが、なんとか和平案が批准され現在は自治が認められている状態になったらしい。ただ紛争終了からまだ数年しか経っておらず、治安は未だにかなり不安定だそうだ。
次にアコナイトが潜伏しているであろう場所。それはセルトゥのある場所にある遺跡らしいんだけど、どうやらその遺跡の内部は複雑に入り組んだ地形になっているらしく、攻める側としてはかなり不利なようで、現在はどのように攻め入るかを入念に打ち合わせしている状況らしい。
最期にビジランテだ。
ビジランテは数か月前に団長が戦闘中に死亡して、現在はそれまで副団長を務めていた男性が団長になったらしい。その彼はビーストテイマーらしく、服従させた魔獣を使役して戦闘を行うスタイルだという。
その団長の名前は『オスボ・K・レッド』という。
馬車は順調に走りノーステイルを出発して3日、いよいよセルトゥは目前に迫っていた。
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