第28話 全員進級!
薄々気づいてた。
たしかにあいつはバーナードの金魚の糞だったもんな。でもあいつはバーナードの言いなりになっていた代償を支払った、それで終わった。
そう思いたかった。でも違った。実際は何人もあいつらの被害に遭った人達がいたわけだ。そりゃ、バーナード達にいいようにやられてた人たちからすりゃ、マルコも同じ穴の狢だ。
そんなことを考えながら、ようやく僕達のテントに辿り着く。
「よぉ、マルコぉ! お前は元気そうだなぁ! なんでてめえはここにいるんだよぉ!」
「あ、あ、ゆ、ユージーン…… ご、ごめ、ごめんなさ、い……」
くそ、いつもならやめろ! って止めるはずなのに、体が、いや、心がうまく動かない。僕はいつもそうだ、ここで決めなきゃって時にうまくやれない。
僕がうじうじしていると、ルーナが堰を切ったかのように話し出した。
「ま、マルコくん、あ、あなたのやったことは、き、聞いたわ。ど、どういう理由があるにせよ、あ、あなたは加害者よ。許して、も、もらえるかは、分からないけど……」
ここまで言うと、ルーナはこの先の言葉を言い淀んだ。
「ほ、ほん、とうに、すまな、い。い、いや、すまないで、済むは、話じゃないことは、わ、わかってる、な、なんな、ら僕を、お、同じ目にあ、あわしてくれて、も、いい。い、妹さんの、ち、治療費は、ぼ、僕が、僕が、一生、掛けて、は、払う! 親に、は、頼らない!」
マルコは地面に膝をついて、ユージーンに頭を下げる。
ユージーンはちっ! っと舌打ちをすると、マルコを起こして胸倉を掴み、思いっきり顔面を殴りつけた。
「許したくねぇけどよ! おめえもあのクソ野郎の言いなりになるしかなかったんだろうが! 妹の治療代払ってくれるっつーんなら許してやるよ!」
殴られて、口から血を流すマルコ、痛そうだ。でもマルコの顔は笑ってた。笑ってたけど、泣いてた。そしてそのまま頭を地面につけて、わんわん声を出して泣き出した……
なにが正解なのか分からない、けどユージーンはマルコを許したと言った。
お前はすごいよ。僕なんかよりずっと……
結局その日はその後、なにも起こらず、完成したかまくらに9人の大所帯。ぎゅうぎゅう詰めだったけど、なんだか楽しいひと時だった。
ちなみにナルミはチームのメンバーにヒールを使える子がいたらしく、骨折が完全に治ったわけではないけど、腫れは引き、なんとか睡眠がとれる状態までは回復したそうだ。
僕の鼻血もある程度落ち着いて、多少はふらつくものの、前回みたいなことにはならなさそうだった。
皆で夕食を取り、後は寝るだけとなった時、ふと気になった。
なんで先生たちはあれだけの騒ぎになってたのに誰も見に来たりしなかったんだ? いくら試験だとはいえ、あれだけの悲鳴や大木が倒れる音がすれば森の外まで聞こえたはず。
なにかがおかしい。そんな気がしてならない、でも確かめる術はなかった。
◇
次の日の朝。ようやくあと数時間で試験が終わる。多少の体のふらつきはあるものの、鼻血は完全に止まり、意識はもちろんしっかりしている。
「ゆ、ユーカくん、だ、大丈夫? む、無理して、ない?」
ルーナが心配してくれる。自分では誤魔化してるつもりなんだろうけど、ルーナは察しがいいから気づかれちゃうのかな。
「だいじょぶだいじょぶ! あともう少しだ! 油断せず行こう!」
なんとか表面上取り繕って、その場を濁す。
しゃーない、虫でも食って、元気出すか。よし、生でいっちゃる!
僕が
「昨日は大変だったみたいだね。僕らも手伝えればよかったんだけど。ちょうど皆食料を探しに行っていて…… 本当に申し訳ない」
「な~に言ってんの! ぜんぜん平気よ。カルミアのその気持ちだけで有難いよ。本当サンキューな」
普段あんまり話したことはなかったけど、優しいヤツだな。僕ももっと周りの人に優しくしていかなくちゃな。
そうして何事もなく試験は終わろうかとしていたが、最後の最後にタグ付きの魔獣が出てきて一瞬焦ったけど、さすがにこの人数だ。楽勝で倒して皆で森を後にした。
結局脱落者は一人も出ず、無事全員進級試験合格と相成ったのである。
◇
「え~、生徒諸君、3日間ご苦労だった。突発的な雪の中の行軍になったが、一人の脱落者もなく、進級試験が滞りなく終了したことに安堵しつつ、皆に賞賛の言葉を贈りたい。皆、3日間本当によく頑張った!」
学年主任のバクア先生がスピーチを終え、教員用テントへ戻ろうとする。
「先生! 試験中にメガアンガーが出現したんですが、あれも仕込みだったんですか!? ナルミが腕の骨を折る大怪我をしたんですが……」
バクア先生は持っていた木剣を落とし、明らかにメガアンガー出現のことを知らない様子だった。
「め、メガアンガーだと!? そ、そんな危険な魔獣を進級試験で出すわけないだろうが! ユーカ! お前冗談言ってると落第させるぞ!」
やはり、全く知らなかったみたいだ。とりあえず当事者となったルーナ、ユージーン、ナルミ、マルコを呼び、バクア先生に経緯を話した。
「お前たちの話を要約すると、そのメガアンガーはユージーンとナルミを執拗に狙っていたということか。そしてルーナとユーカとユージーンが協力してその2体を倒した、と……」
僕がやったというと、ROSEの件で疑われるかもと思い、ルーナとユージンとで共闘して倒したということにした。
「二人はバーナードと確執があったんだよな。となると、やはり今回の件にもバーナードが絡んでいる可能性が高いのか…… しかし、俺たちは寝ずの番で森を監視していたが、そんな一大事が起こっているような様子は微塵もなかったんだが……」
どういうことだ? なんで先生たちは森の異変に気づけなかったんだ?
「多分結界の魔法ですわね。外部と内部の情報を遮断する魔法。結界にもいろいろとありますが、今回使われたのは、外部の映像はそのままに、内部で起こった事象を表に見せなくする結界魔法かと思います」
魔法理論を専門とする、シャロン先生が今回のトリックの答えを提示してくれた。
「たしかに今回はそれで間違いないだろうな。くそっ! どこかにバーナードか、もしくはその仲間が潜伏していたのか? 森の周辺はもちろん、森の内部も試験当日まで先生たちと、ラキヤの治安維持部の皆さんで見回りを徹底していたのだが…… すまん! 本当にすまん! 俺たち教員一同の落ち度だ。この件はまた明日にでも皆に謝罪させてもらう」
深々と頭を下げるバクア先生。まぁ終わってみればナルミは怪我をしたが、ヒールである程度の治癒は済んでいる。誰も落第せず、誰も命に係わるような怪我もしていない。不幸中の幸いといったところだろう。
「俺たちはラキヤの治安維持部と共にもう一度森の捜索をしてくる。なにか不審なものが残されてるかもしれないからな。お前たち、3日間の試験で疲れたろう。早く家に帰ってゆっくり休め、いいな!」
はい! まだまだ仕事が終わらないバクア先生に、皆で大声で返事をした。
はぁ、長い長い3日間が終わった。やっと家に帰れる。とりあえず早く風呂に入りたいぜ。さすがに今日くらいは姉上もスパルタ稽古は休みにしてくれるだろう……
◇
――あ~あ、虎の子の魔獣2体出したのに一人も殺せないなんてな~
試験が終了して生徒達が家路につく中、一人佇む男。
バーナード君には申し訳ないけど、まぁ仕様がないよね。彼は予想を超えて強かったから。魔獣をもう1体用意しとけば全員殺せそうだったけど…… まぁそんな味気ないことしてたらおもしろくないしね。
独り言を長々としゃべる少年、なのだろうか、分厚いローブを被ったその男は、彼「ユーカ」について思いを巡らす。
彼は…… 多分僕と同じだ。あの通常では有り得ない攻撃、普通じゃない。彼からはなんかしらの人為らざるものの力の存在を感じる。
多分彼は…… 転生者だ。
一体何番目なんだろう。僕より前だろうか、後だろうか。
いやぁ、楽しみだ。993番はすでに把握している。そして僕は994番。
彼は…… まぁいい、楽しみはまた今度にとっておこう。いずれ否が追うにも逢うことになるのだろうから。
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