第27話 結局僕も上辺だけのクソ野郎だった

 あぁ、くそ、やっぱ納得いかない。あの状態で明日の正午まで放っておくなんて……

 テントに戻った後も、あのことが気になって仕方がない。


 時計がないので正確な時間はわからないが、多分まだ昼を少し過ぎたくらいだ。まだ試験も3分の1は残してるってのに、こんだけいろいろ起こると、先が思いやられるぜ。


 ――あっ、そうそう、ROSE今日はもう使っちゃダメだからねぇ。分かったぁ? ユカリーン?


 あれ?リリムさん? あぁ、そうか、1日にそう何回も使えないのか。マジか、この後なんにも起こらなければいいんだけど…… ていうか木剣も折れちゃったしな。


 だが、こんなフラグを立ててなにも起こらないはずもなく……


 ――ドォォォォォン!!!


 なんの音!? なにかデッカい物が倒れるような音か? これ。しかもさっきメガアンガーが出現した方向から音が聞こえてきたぞ。

 まさかまたでたのか? どうすんだ、いや、でも……


「ゆ、ユーカくん! 今度は、わ、私が何とかします、ので! は、早く! また、被害が出る、かも!」


 あぁ、情けねぇな、僕。そうだ、さっきみたいなことになる前になんとかしないとな!


「ザクシス、ジャコ、マルコお前ら3人はここで待っててくれ。1時間しても僕たちが戻らなかったら、先に言っとく。本当にすまん! 進級できないと思ってくれ。その時は急いで、森の外の先生達を呼んできてくれ」


「な~に言ってるでござるか! 拙者らがそんなことでユーカ氏を責めるとでも思ってるでござるか? 拙者たちを見くびらないでほしいでござる」


 ジャコもマルコもうんうん、と頷いてくれている。本当、お前ら最高だぜ。


「じゃあ行ってくる!」


 いや、本当に最高のチームだぜ、エクソダス。現世ではこんな友達は僕にはいなかった。周りはみんな僕のことを何をしてもいい奴としか認識してなかった。ここに来て、こんなに分かり合える仲間ができるなんて…… あぁ、あかん、泣きそう。


 そうこうしてる間に、音のしたであろう場所へ到着した。というか一目でわかった。10メートルはあろうかという大木が薙ぎ倒されていたのだ。

 かなりの老木ではあったが、こんなものを倒すなんて、一体どんな魔獣なのか、戦々恐々としていると、やはり嫌な予感は的中した。

 魔獣はやはりメガアンガーだった、が、先ほどのヤツよりさらにデカい。4メートルはあろうか。今度こそヤバイぞ。もうイヴィルレイは撃てないし、どうすんだ、これ。


 メガアンガーが腕を振り回して暴れているその先には、驚くことに、ユージーンとナルミがいた。ユージーンが剣を取り、腕を添え木で固定したナルミが後衛で、身構えている。


「おい! ナルミ! 早くバフかけろや! 攻撃、防御両方かけろ!」


 わ、分かった、とナルミが言うと、ナルミは膝をついて、詠唱を開始した。


「慈悲深き光の女神よ、我が求めに応じ、闇虚ろに抗う彼の者に聖なる光の加護を与え給え!」


 ――アタックインクリース! ディフェンスインクリース!


 ナルミが唱えると、ユージーンの体が眩い光に包まれる。


「くそがぁ! 死にやがれ、このでくの坊! おらっ! おらっ! おらっ! おらぁぁ!」


 おぉ! ユージーンのヤツやるじゃねえか! つーかナルミってあんなすごい強化の魔法なんて使えたんだな。でもユージーンの攻撃はあんまり効いてるようには見えねぇ。やっぱり相手が悪すぎる。あっ! そうだ、ルーナにも強化のバフをかけてもらえるように頼むか!


「ご、ごめん、私もう魔力が尽きそうで、もう加護の力は使えそうにないの」


 マジか…… どうする、どうすんだ。あぁ、くそっ! イヴィルレイもう一回撃ったらどうなるんだ? でも、撃たなけりゃ結局こいつに殺されちまうなら……


「ユーカくん! 私が行きます! 目玉! ベクター!!」


 ルーナがベクターを放つと、持っていたダガーナイフがメガアンガーの目玉に突き刺さる。メガアンガーの巨体がまるで風船のように吹っ飛んだ。


 おぉ! やったぞ! ルーナ! た、倒したぞ!!


 そういってルーナの元に駆け寄ろうとした、だが、決着はそう簡単にはついてはいなかった。


 ま、マジかよ――


 メガアンガーはゆっくり、その巨体を起き上らせ、目玉に突き刺さったダガーナイフを思いっきり引き抜いた。


「あぁ、な、ナイフじゃ、ち、致命傷にな、ならない……」


 くそっ! 剣がありゃ、もっと奥まで突き刺せたのに。

 あぁぁぁ!! こうなりゃもう一回イヴィルレイを撃つしかない! この後どうなってもここで全員死ぬよりマシだ。


「おい! ユージーン! 剣を貸してくれ! 僕が仕留める!」


「はぁ!? お前になにができんだよ!? ここで死ぬくらいなら自分でやって華々しく散ってやるわっ!」


 あ、そうか、こいつ前の模擬戦で僕の試合見てなかったから、イヴィルレイも知らないんだ。あぁ、もう本当に打つ手なしじゃんかよ!


 ――はぁ、もう見てらんないですぅ。今回は特別ですからねぇ。


 また前に見た光景、世界は反転し、世界は色を失くす。そこで動けるのは僕と、彼女だけ。


「あんま何回もユカリンのこと助けちゃうとぉ、上司に怒られちゃうんですけどぉ、ほんとのほんとのほんとぉぉぉぉに! 今回だけですよぉ!」


 あぁ! 女神様! おねげえしますだ! 助けてくださぁい!


「んもう! んじゃねぇ、ROSEを~、火の刻印のあった指にぃ、つけてみ!」


 え? いいんか、ROSE使っても。いや、まぁしゃあない! 後の事考えてても今死んだらなんにもなんねーからな。


 そういって僕は火の刻印があった左手のひとさし指にROSEをはめる。


「いい? これ本当はユカリンにはまだ撃てない魔法なんだからねぇ! 今回はあたしが手伝ってあげるけどぉ、次からはぜぇぇぇったい撃っちゃダメだからねぇ!」


 じゃ、いくよぉ――


 ――ヘルフレイム


 模擬戦の時のイヴィルレイの時と同じく、魔法の名前も知らないのに、リリムと同時に魔法を唱えていた。

 するとその瞬間、メガアンガーの体の中に黒い炎が灯り、ゆっくりと大きくなっていく。その黒い炎はゆっくり、ゆっくりとメガアンガー全体を包んでいった。


 ぐああああああぁぁ!! ものすごい絶叫を上げながら膝をつき、燃え盛る炎に包まれる魔獣。そのまま前のめりに倒れ、ゆっくりと黒い炎で焼き尽くされていった。


 はぁ、な、なんとか終わった……


 そう思った瞬間、後頭部を鈍器で殴られたような衝撃。そして鼻からは前に経験したことのある鼻血。あぁ、やべえ。これヤバイやつだ。


 でもなぜか今回はまだなんとか意識ははっきりしていて、なんとか立っていられる程度で済んだようだった。


「お、おい! ユーカ、大丈夫か!? お、お前こんなにすごかったのか? おい! しっかりしろ!」


 あぁ、だいじょぶだいじょぶ。てかユージーンってちゃんと人のこと心配できるやつだったんだな。知らんかった。


「ユーカくん! しっかりして! 私がおぶっていくから! すぐテントに着くから!」


 あぁ、ルーナ、ごめん、心配かけちゃって。だいじょぶ、だいじょぶよ僕。

 ふらつきながらもハッキリした意識の中、これだけは言っとかないと。ユージーンとナルミにどうしても伝えとかないといけないことがあった。


「い、いいか、ユージーン、あの魔獣はどう考えてもお前らを狙ってた。お前がどうしてそこまで試験に拘るのかはわかんないけど、ここにいるのは危険だ。だから僕達のテントに来い。頼むから」


 ユージーンはひとしきり考え込んだあと、わかった、と言って他のメンバーも引き連れ、一緒に来てくれることになった。



    ◇



「な、なぁ、ユージーン、なんでそんなに試験に拘るんだ? そこまで拘るんならなんでしょっちゅう休んだりしてたんだ?」


僕の問いに被せるようにナルミが口を開いた。


「あ、あのね、ぜ、全部私が悪いの! ユージーンが学院を休んでたのは全部私のせいなの!」


 ユージーンがうるせぇ! 黙れ! とナルミの言葉を遮ろうとしたが、それを無視してナルミは語りだした。


「去年ね、私とユージーンはおんなじクラスだったの。そこにはバーナードもいたの。私達は平民で、特に私はバーナードの恰好の餌食になってたわ。あいつは下と見なした相手なら男も女もおかまいなしだったから……」


 あぁ! なんでだろ、なんとなく話の想像がついてしまう……


「それでね。それを見てたユージーンが私を助けてくれたの。もちろん矛先はユージーンに向かったけど、ユージーンは剣術も魔法もすごくて、バーナードは手をこまねいていたわ。そこであいつが目を付けたのがユージーンの妹だったの」


 聞きたくねぇ。聞きたくねぇ。バーナードも話せばわかるやつだって心のどこかで思ってたのに…… 


「あいつはユージーンの妹に殴る蹴るの暴行を与えたわ! まだ9歳の女の子よ! 殴られて倒れこんだところに運悪く大きい石があって、それに頭をぶつけて…… ユージーンの妹は今も病院で寝たきりのまま。バーナードは上級貴族だからそんな事実は簡単に闇に葬り去ったわ。ユージーンは妹の入院費を稼ぐ為に仕事をしながら学院に通っているの。本当は学院をやめるつもりだったけど、親がせっかく金を出してくれたのにって言って、なんとか通っているのよ」


 何も言わず、俯きながら歩くユージーン。そうか、お前にそんな事情があるとは知らずに…… 僕はただの先入観でお前のこと、いい加減で碌でも無い奴だなんて思って……


 あぁぁぁぁぁ! 自分が嫌になる! 結局僕も上辺だけのクソ野郎だ!


「ユーカ、まぁバラされちまったからもうどうでもいいけどよ、そんな経緯でよ、なんとか試験は受かりたかったんだが、さすがにこんな事態になっちまっちゃな。もし次なんか問題がおこりゃあ、棄権するわ。親には悪いが、命より大事なもんはないしな」


 ユージーンは僕たちの前を、手を頭の後ろに組んで、呟くように話しながら歩いていた。ところが、突然踵を返して、予想していなかったことを言った。語気を強めに。

 いや、予想していなかったわけじゃない…… 目を逸らしていたんかな……


「でもよぉ! バーナードはともかく! もう一人ぜってえ許せねえ奴がいる! 誰だか分かるか!? 薄々分かってんだろ!?」


 あぁ、多分僕が思ってるヤツだ。


 ――マルコの野郎もバーナードのクソ野郎と一緒に妹に暴行を加えてたんだよっ!!

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