第29話 あっけない最期

 あぁ、よく寝た。

 久々のベッドはやっぱり気持ちがいい。地べたに寝袋スタイルはもう当分経験したくないな。

 今日から1月10日までは学院は休みだ。長い休みが明けたら晴れて全員中等部。中等部の学舎は今いる学舎のすぐ隣にあるから、そこまで環境が変わるわけじゃないけど、やっぱり学び舎は変わるし、年明けからは、気分を一新して頑張るとしますか!


 はぁ、それにしてももうすぐ年が明ける。年が明けるとどうなるか、そう! 1月2日は僕の誕生日なのだ。誕生日が来ると! 僕はとうとう転生してから初めての12歳になる! あぁ! 苦節転生4回目。これまでいろいろなことがありました。それももうおしまい。きっと僕はここでこれからの人生を過ごしていくんだろう。


 これから成長していったら、まずミッちゃんとミューミューに会いに行こう。そしてトンソクママンとトンジルパパンにも一目会いたいなぁ。一体どこに住んでるのか、見当もつかないけど。東の森の魔女にも会ってみたいし、やりたいことは山ほどある!


 でも…… まだ油断はできない。いつのもパターンだと期待させるだけさせといて最期に突き落とすパターンで今まで来ている。1月2日になるまでは絶対に気を抜かないでおこう。


 こちらの世界にはクリスマスはなく、12月31日がこの世界の女神様「レミアラ」の生誕の日ということで、その日は各地でいろいろな催しや、祝賀行事が執り行われる。

 12月31日にはみんなで街をぶらぶら探索して、買い物したり、おいしいものを食べようと約束している。

 でもまだその日まで数日ある。僕は相変わらず姉上のスパルタ稽古に朝昼晩と付き合わされて、毎日へとへとだ。こんな年の瀬くらい稽古も休みにしてくれたらいいのに!


     ◇



 12月30日、夜の稽古が終わり、風呂にも入って、後は寝るだけ。ネタ帳にふと思いついた宴会芸のネタを書いたり、自作の詩を書いたりする。明日は皆に会ったらすぐに新作を披露しよう。きっと大爆笑の渦がおこるに違いない。


 休みが長すぎて、なにも起こらなさ過ぎて、多分僕は気が抜けていたんだろう。なぜかわからないけど、耳がずっと重くて、ピアスを付けてる耳が重くて……

今日くらいいいや、と軽い気持ちでピアスを外して机の中に閉まって寝た。



    ◇



 夜も更けていよいよ12月31日だ! 今日はうまいもん食って、うまいもん食って、うまいもん食うぞ! 服は全く興味がないのでどうでもいいのだ! 

 待ち合わせ場所にぞくぞくエクソダスのイカれたメンバーたちが集まってくる。


「おぉ! ユーカ氏! 相変わらず学院の制服でござるか!? 今日はユーカ氏の服を拙者が見繕って差し上げますぞ!」


 いや、いい。絶対いい。お前のセンスで選んだ服なんて絶対着たくない。

 そうだ、今更だが、僕は服には全く無頓着だ。僕が所持している衣類は、下着にパジャマ、あとは制服だけだ。普段着は一着もない。そう言うとおかしい奴だと思われるかもしれないが、安心してください。制服だけで20着あります。大丈夫なんです。


「皆さん待ちましたか? 皆さんどこにいるか一瞬迷いましたが、においですぐに分かりましたよ。ユーカくんもたまには役に立つんですね」

 

 うんうん、よく来たね。


「あっ、み、皆さんお、お待たせしま、した! ど、どうです、か? 今日の服。きょ、教会で一緒の部屋に住んでる、仲のいいおねえさんが、貸してくれたん、です!」


 うん! めっちゃ似合ってる! でも胸元がえらい開いてることない? いや、僕的にはめっちゃうれしいんだけど。


「あ、あ、皆さん、お、お待たせしました。し、進級試験、お、お疲れさまでした」


 おぉ! マルコも試験じゃいろいろ大変だったな。今日は一緒に楽しもうぜ!



 そんなこんなで今年最後のエクソダスイカれたメンバーの集いは恙なく進行していくのであった。



    ◇



 はわわわ、あ、兄上が留守の間に兄上のネタ帳を見なくては!

 あのネタ帳は闇の法典、闇を統べる者として絶対に見ておかなくてはなりません。たしかこの引き出しの中に~っと……


 ――あった!


 ン? なんですか、これは? 


 はっ! これは兄上がいつも付けているネコちゃんのドクロピアス!

 うぅむ、かっこいいぜぇ。これぞ闇を統べる者にふさわしい一品。あっ、私はピアスの穴開けてないからつけれない…… 残念。


 これが指輪とかだったらよかったのになぁ……


 ――呼んだぁぁ? あ、あり? ユカリンじゃない……


 はっ! はっわわわっわぁぁぁぁ!!!!――



    ◇



 いやぁ、遊んだ、遊んだ。いっぱいうまいもん食べたし、宴会芸の小道具になりそうな雑貨も買った。やっぱりザクシスの服のセンスはやばかった、けど本当に有意義な一日だった。

 でもやっぱ友達とこうやって遊んだりするのって楽しいんだな。前の転生じゃミッちゃんと二人で遊ぶことが多かったし、大人数で遊ぶのもいいもんだな。


 もう辺りは真っ暗になってきたので、エクソダスのメンバーとはここで別れ、僕は家路についた。また学院が始まったら会おうと誓って。


 家に着いたら豪華な食事が用意されていた。毎年恒例の年越しの豪華な料理。今日は使用人さんたちも一緒にテーブルを囲んで、皆で食事を摂る。

 今年一年は本当にいろいろあった。きっと来年もいろいろ、楽しいこともつらいこともあるんだろう。でも今年よりいい一年になったらいいなぁ。


 あぁ、疲れた。まだ新年にはあと1時間くらいあるけど今日はたくさん遊んだから眠い。なんかもったいない気もするけど、まぁいいか。長い人生の一日に過ぎないんだから。ベッドの上で横になる。あぁ、うとうとする。



 そういって僕はそのまま眠りに着こうとした……



 ――おい



 はっ?


 真っ暗な部屋で誰かに呼ばれた。どこかで聞いたことがある声。

 真っ暗なはずなのになぜか色を感じる。青?いや、群青色の霧……

 そう思った瞬間、のどに焼けるような熱い痛みが走る。


 ――がっ、がっはっがはっ!!


 よお、久しぶりだな。メイフィアの次男坊……


 いつからそこにいたのか、まったく気づかなかった。気づいたときには奴は僕の上に馬乗りになっていた。


 しゃべれねぇだろ、喉んとこ切ったからな。はぁぁぁぁぁ、やっとだ。待ちに待った。


 ――やっと先に進める


 奴はそう言うと、持っていたナイフで僕の腹を何度も何度もついた。

 僕は抵抗しようとROSEを探したが、どこにも見当たらない。

 あぁ、そうだ、机の引き出しに閉まったままだったんだ。リリムさんにいつも身に付けとけって言われてたのに……


 口から血を吐き、刺された痛みも感じなくなって、でも意識はまだはっきりしていて……

 僕のことを刺し続けてるバーナードの顔がよく見える。

 笑ってるのか?泣いてんのか?よくわかんねえや。


 ――やっと終わった…… 俺はこれで生まれ変われる。俺はバーナード・クロムウェルを捨てる。俺の名は今日から「復讐の魔人アコナイト」だ。

 じゃあな、メイフェアの次男坊、いいや、只のゴミ屑……


 意識がだんだん遠くなる。もう体の感覚も消え失せて……

 はぁ、ここからの逆転劇はもう無理そうだなぁ。今日買った雑貨で皆に新しい宴会芸見せたかったんだけどなぁ。

 こんな風に終わるなんて……

 あぁ、父上、母上、兄上、姉上、リーリエ、エクソダスのみんな……


 ごめんなさい……

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