第24話 粉々に砕け散った夢

 試験前日の夜、僕は姉上に進級試験について姉上の時はどんなかんじだったのか、聞いてみることにした。


「姉上、姉上の進級試験の時はどんなかんじだったんですか?」


「それを言っては試験にならないわ。自分の力でなんとかしなさい。ここで私がアドバイスしてもあなたの為にはならないわ」


 はい、予想通りの返答いただきました~。

 絶対姉上はこう言うと思ったんだよ。しゃーない、兄上に聞いてみよう。


「兄上、進級試験どんなだったか教えてください」


「あぁ、俺の時は天候を操る魔法で、ものすごい猛吹雪にされて、その中で3日間過ごしたな。3日間とも猛吹雪だぞ。めちゃくちゃつらかったな」


 なるほど。そういうかんじなのか。あ、姉上が教えてくれなかったってチクっとこ。


「あぁ、あいつの進級試験の時は、たしか中型の魔獣が放たれて、それをチームで討伐するって内容だったと思ったが。まぁ、ここだけの話、あいつも進級試験の前日に俺に試験内容を聞いてきたんだぞ」


 ま。マジかよ!? あんの~! 人には「自分の為にならない~」とかなんとか言っときながら~!


「まぁお前の気持ちは分かるが、あいつなりの優しさなんだよ。自分は俺の話を鵜呑みにして、その対策だけして行ったもんだから、試験ではえらい目にあったみたいだからな。だからお前には先入観なく、試験に挑んでほしかったんだろう」


 ふーん、な~んか納得いかないけど、まぁそういうことにしておくかぁ。


 僕は兄上に試験の話を聞いた後、明日持ってくエルフレーダーを取りに、自分の部屋へ戻った。多分1年半ぶりくらいにエルフレーダーを見るなぁ。ずっと放置してたし。



    ◇



 自分の部屋に戻り、エルフレーダーを仕舞っておいた引き出しを開ける。


「あ、あれ? こ、これなんか反応してることない?」


 う、うそやろ!? どゆこと? 半径50メートルだぞ。なんで今更反応してるんだよ。僕はとりあえずレーダーが指し示す場所へ行ってみることにした。



     ◇



 屋敷を出て、ほんのすぐ、レーダーが指し示す場所は――



 ――使用人たちの住居棟だった。


 な、なんでなん? 2年前エルフレーダーを使った時この辺も歩き回ったけど、反応なんてなかった。わからん、うちの敷地内にエルフがいるなら絶対に気づくはず。

僕は高鳴る鼓動を抑えつつ、住居棟の中へ入っていった。

 中に入って、レーダーが指し示す方向へ歩を進める。10メートル、9メートル…… どんどんその場所へ近づいている。3メートル、2メートル、1メートル、とうとうレーダーが指し示す場所へたどり着いた。


 そこは風呂場だった。


 い、今、え、エルフが! ふ、風呂に入っている! あぁ、どうしよう、出てくるまで待つか、いや、でももし疾風の如き速さで逃げられてしまったら……

 風呂場の洗い場からガラス越しに中がぼやけて見える。はっ!!


 エルフの耳らしきものが見えました!


 かなり長身のエルフのようです。エルフ特有のあの! 耳が! うっすら見えましたぁ!


 殴られてもいい! 僕は唾を飲み込みながら、意を決して、ドアを開ける決意を固めた。


 えいやっ!――


「あれ? ユーカ様、どうなさったのですか?」


 え、うそん……


 ――――アルビオンさんだった……


 あ~、そっか~、女のエルフがいればそりゃあ男もいるわなぁ……


「え? どうされたんですか? あ、入ります?」


 い、いや、だ、大丈夫です……


 あとでアルビオンさんに聞いた話によると、別にエルフなのを隠していたわけではなく、アルビオンさんは背が高いので、耳が壁とか棚によく当たる為、畳んでいたとのこと。


 ――そっかー、エルフの耳って畳めるんだぁ。



    ◇



 僕の密かな夢は粉々に砕け散った。男の耳を至近距離で見ても仕様がない。

 僕は女性のエルフの耳が見たかったんだ。はぁ、まぁ簡単に夢が叶っちゃ面白くないもんな。次の機会にお預けってことか。

 そして僕はふと、大変な問題に直面していることに気づいた。


 明日持ってくものが決まってない!


 どうしよう、ザクシスとジャコとマルコには思いっきりエルフレーダーでエルフの耳を見つけるって宣言しちゃったぞ。あぁ、困った。


 結局、ネタ帳か木剣の二択になって、散々悩んだ挙句、僕は木剣を持っていくことに決めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る