第25話 進級試験突入じゃい!

 いよいよ今日は12月20日、進級試験の当日と相成った。

 僕らは学院から試験会場の場、通称「試されの森」へと歩を進めていた。


 ここで予想外の出来事が起こった。まず朝起きて、窓から外を見渡すと、なんと、一面の銀世界だった。この地方は雪は降るが、例年、降っても積雪3センチ程度、降るには降るが、そこまで大したことはなかったのだが、なぜ!? 今日に限って! こんなに積もってるの? てゆーか今も牡丹雪がシンシンと降り続いている。


 くそ、どうする? 雪対策の道具に変えるか? でも木剣もなにかあった時に必要になるかもだし…… まぁきっと誰かが持ち物を変更して、雪対策用のスコップとか持ってくるだろう。

 しかしこの雪は天候の魔法じゃないよな、どう見ても自然に降ってる雪だもんな。な~んか嫌な予感がすんだけど……



    ◇



「みんなおはよう。雪すごいね。そーいやさ、誰か雪対策の道具持ってきた? 僕は一応必要かな、と思って、木剣持ってきたんだけど。魔獣とか出るかもしんないしね」


「え、拙者、誰かが持ってくるだろうと思って、当初の予定通り、木彫りの人形を持ってきてしまいました」


「あ、僕も誰かが持ってくると思って、それに娯楽は必要かなと思って、小説持ってきたよ」


「あ、あ、あ、私も…… です……」


 なんてこったい! どいつもこいつも!


「あ、あ、ぼ、僕、す、スコップ、も、持って、きたよ」


 な、な、なんと! マルコ! お前だけだ! お前がエクソダスの良心だ!

 意外に有能なマルコに思わず抱き着いてしまった。こんな言い方はどうかと思うが、バーナードの顔色ばかり見て生活してきたせいで、空気を読むのがうまいのかもしれないな。


 よしっ、そんじゃあ、進級試験に挑むとするか!

 でもこんな大雪の中で決行するのかな、さすがに人工的に降らせた雪じゃないし、危ないんじゃないかな。


「何言ってるんだ、ユーカ。やるに決まってるだろ」


 ボルケノ先生にきっぱり言われてしまった。はい、やるそうです……


    ◇



 30センチは積もっているであろう、雪を踏みしめながら、なんとか森の入り口まで辿り着いた。

 ここにくるだけで、かなりの体力を消耗した。雪上を歩くなんて慣れてないからこりゃ先が思いやられるな。


「進級試験を開始する前に一通り説明する。試験内容は至ってシンプルだ。3日間を無事に森の中で生き抜けばいい。それだけだ。森から出た者は失格、一人失格すればチーム全体で失格になる。要は連帯責任だ。まぁ言わなくても分かると思うが、チームワーク、仲間を助け、思いやることが重要になる。また試験中、どうしても無理だ、と思ったら棄権してもいい。一チームにひとつ、緊急用のベルを渡す。それを鳴らせば、すぐに救助に駆けつける。こちらからは以上だ」


 なるほどね、安全面の対策は万全といったとこみたい。さぁ、3日間の長丁場だ。焦らず落ち着いて行動しないとな。

 そんなことを考えていると、ボルケノ先生が最期に一言、と言って皆を注目させる。


「いいか! この試験は皆が上の中等部へ上がる為の試験だ。誰かを蹴落として優劣をつける試験ではない! ここにいる全員で試験を突破する! そういうつもりで試験に臨むように! 私からは以上! ではこれより第150回中等部進級試験を開始する!」


 進級試験って150回もやっとるんか! 知らんかった。なかなか歴史のある学院なのね。

 まぁいい、僕達は絶対進級する! それだけだ!

 そうして僕らの進級試験はスタートしたのだった。



    ◇



 とりあえずまずは拠点づくりからはじめることにした。

 絶対倒れそうにない大木の下辺りの、雪が少なさそうな平地ひらちを設営場所に選んだ。雪は降り続いているが、他の何もない場所に比べたら雪は少ない。

 マルコの持ってきたスコップで、多少あった雪をどかす。


 なんか雪がシンシンと降り続いているのに意外と暖かい。風があまりないせいだろうか。

 せっかく大量の雪があるので、食事場所用にかまくらを作ることにした。

 二人と三人で別れ、テント設営と、かまくら作りを平行して行う。テントは2時間かからず設営が終わったが、さすがにかまくらはそう簡単にはできそうにない。やはり二手に分かれて、今度は周辺の探索とかまくら作りを行うことにした。


「よしっ! ザクシス、僕といっしょに周辺の探索に行くぞ」

「ユーカ氏! 承知しましたぞ! ついでになにか食べ物がないかも見てきましょう」


 おっ、ザクシス君珍しくいいこと言うねぇ。でもこの雪だし、雪をほじくってキノコ探すか、川に行って魚を採るかくらいしか方法はなさそうだなぁ。

 しまったなぁ、干し肉でも持ってこればよかった……

 ていうか、魚を釣る道具もないぞ。釣り竿は良さそうな枝があればなんとかなりそうだけど、釣り糸はどうすりゃいいんだ……

 これからの3日間、食料のことを全く考えていなかった事実に気づかされ、僕とザクシスはこうべを垂れながら、皆が待つ設営場所へ戻った。


「みんな、聞いてくれ、僕達は大変な見落としをしていた。いいか、心して聞け。それはな、食料がねえんだ! 食うもんないんだよ。ど、どーしよう……」


 僕が驚愕の事実を皆に告げると、ある人物がキョトンとした表情でこう告げた。


「え、ゆ、ユーカくん、た、食べ物なら、い、いっぱいある、から大丈夫、です!」


 へ? マジ? ど、どこにあるのかなぁ? おじさんにはぜんぜん見えないんだけどなぁ。


 ルーナはそういうと、マルコにナイフを借りて、どこかへ歩いていく。それに僕とザクシスもついていくことにした。

 しばらく歩くと、ルーナは枯れ木の根っこの辺りを雪をどけ、手で掘り出した。そしてしばらく掘ると、なにかを発見したようだった。


「い、いました! 冬眠ネズミ、です! ね、ネズミって普通冬眠しないけど、このネズミは、なぜか、と、冬眠するん、です! 6匹もいま、した!」


 ね、ネズミ…… それは脂肪をたくさん蓄えた丸々太ったネズミだった。うーん、ネズミかぁ。ネズミ食うのかぁ…… い、いや、そんなことも言ってられんか。うん、しゃーない。


 獲ったネズミはルーナが着ていた防寒着の袖を縛り、即席の袋を作ってその中に入れる。ルーナはさらにしばらく歩き、さっきとは違う種類の枯れ木を発見して、それはそれは喜んで僕らに興奮した様子で話しかけた。


「皆さん! 見てください! あの木、中にめちゃくちゃたくさん食料が詰まってるんですよ! すごい、この木すっごく珍しいんですよ! うわぁ、やったぁ、こんなとこでこの木を発見するなんて私達めちゃくちゃついてますよ!」


 ルーナはなぜかめちゃくちゃ興奮して、話し方もいつもの吃音きつおんもなく、饒舌になっている。てかこの木になにがあるっていうの? ただの枯れ木にしか見えないんだけど。

 僕が疑問に思っていると、ルーナがおもむろに枯れ木にナイフで穴を開け、手を突っ込んだ。


「みなさん! めっちゃいます!めっちゃいますよ! 大漁です! てゆーかもう3日分の食料あるんじゃないですかね、これ!!」


 そういってルーナが手に握っていたのは――


 ――大量の虫だった


 ヒ、ヒエッ…… ま、またまた~、いくら何でも、それは~、ねぇ――

 だが、ルーナの満面の笑みを見ると、そんなことはとても言えそうにはなかった。僕は己を殺して、嬉々として虫を引っ張り出すルーナから虫を受け取り、袋に入れる作業に没頭した。


 そうして当面の食料? を確保した僕達はやはり野菜も摂らなければ、と、これまたルーナがその辺の雪をかき分け、よくわからない野草を引っこ抜き、設営場所へ持ち帰ることにした。


 おぉ! かまくら大分できたじゃん! すごいすごい。

 設営場所へ戻るとジャコとザクシスがせっせと集めた雪を叩いていた。とりあえず大量に集めた雪を圧雪して、後で中身をくり貫く作戦らしい。

 回りを見渡すと、二つのチームが僕らと同じようにかまくらを作っていた。やっぱりみんな考えることはおんなじだなぁ。


 とりあえず冬眠ネズミと虫たちを違う袋に分けて、食料の確保完了! ルーナは明日雪が止めば、川で魚を釣るらしい。彼女曰く、釣り糸はその辺の蔓で十分だと言う。なんてたくましい人なんだ。

 今日中にはかまくらは完成しなさそうなので、大木の下で適当に穴を掘って、そこに枯れ木を入れて焚火をしようと思ったのだが、そう、今は雪が降っている。薪にする木がほとんど湿っていた。どうしようと悩んでいたら、またルーナが手際よく木を削りだした。


「あ、ぬ、濡れてる木も、中は乾いてるものがあるんで、外側だけ剥いでやると、火が、つ、着きやすい、です」


 る、ルーナさんすごすぎませんか? 一家に一台ルーナさんだよ、これ。

 そんなかんじでルーナの指示に従い、薪をくべ、濡れた枯れ木は火の回りに置いて乾かす。

 火は火の刻印を持っているマルコがファイアボールでつけてくれた。


 一日目は非常に幸先のいいスタートだ。ルーナが虫をそのまま生で食べて、「こ、こうやって食べるのが、い、一番美味しいし、栄養価が、た、高いんです!」と言っていたのにはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ引いた。


 そしてそろそろ就寝、一応念のため2時間交代で見張りを立てることにして、眠りについた。試験はあと2日、この調子で行ってくれれば…… そんな楽観的なことを考えていた。


――でもそんな簡単にはいかなかったのだった。

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