第23話 5人目のメンバー

 色々あった模擬戦から早1か月、季節はもう冬。

 そうだ。12月がやってきたのだ。僕は1月2日で12歳になる。今までの転生で超えられなかった12歳の壁がすぐそこまでやってきているのだ。

 これまでに3回、3回もだ。僕は12歳を目前に力尽きた。3回目なんて本当に誕生日目前だった。これはなにか大きな力が働いているような気がしないでもないが、やるしかない。今度こそ、この12歳の壁を突破してやる。


 この学院は8年制の学校で、4年目の終わりに中等部への進級試験がある。中等部への切り替わりは年始めだ。年末、12月20日から3日間、近くの森で、泊りがけでの進級試験、5人一組のチームで、3日間を過ごすというものだ。

 あぁ、嫌な予感しかしない、絶対になにか起きる。それも僕の命に関わるような重大ななにかが。だがそんなことも言ってられない。とりあえずチームは5人ということで、あと一人をどうするかエクソダスのメンバーで話し合っていた。


「あとひとりですかぁ。どなたか僕達のチームに入ってくれる方はいますかねぇ。できればドS な方がいいんですが…… 挨拶は”氏ね、豚野郎”がいいですなぁ」


「うーん、うちに入ってくれるような奇特な人いるかなぁ。いや、ほらだって、この匂いに耐えられる人なんて僕らの他にいると思う?」


「あ、女子は、い、嫌かな、え、えへへへ」


 うーん、どうしたものか……


 そんなことを話し合っていると、すぐ近くで何人かの生徒達が揉めているのが目に入った。


「おい! 大罪人の手下! なんでてめぇはまだ学院に残ってんだよ!? さっさと牢獄にでも入ってろや!」


「うわっ! くせえ、こいつくせえぞ! あぁ! 左手が腐ってるんだっけか~! 近寄んなよ!臭いがうつるだろうがぁ!!」


 二人の生徒が一人の生徒に対して、罵倒を繰り返していた。


 相手はマルコだった。


 マルコは模擬戦事件以降ずっと、大罪人の手下として、ほぼ全員の生徒から苛められていた。生徒だけじゃない、先生からも明らかな差別を受けていた。

 バーナードの攻撃によって亡くなったシーファ先生は、生徒の人望も厚く、他の先生からも好かれる存在だった。そんな先生を殺したバーナード、その仲間のマルコにも敵意の刃が向いたのだ。

 だがマルコも犠牲者だ。マルコは指輪のことを、少し力が上がるくらいにしか聞いていなかったそうだ。知らずに悪事に加担させられたのだ。しかもマルコは力の代償まで支払った。


 もう見過ごすことはできなかった。


「おい、お前ら、お前らはマルコになにかされたんか? 百歩譲って、マルコと戦って怪我させられたジャコが言うならまだわかるわ。お前らはマルコになにかされたんか?」


「もう僕はマルコのことは許してます。君らあれですか? 自分らより下にしかえらそうにできない、バーナードみたいなクソ野郎ですか? マジで不愉快なんで消えてください」


 あぁ、ジャコ! そういうとこ好きよ、僕。


 僕らに言われて、舌打ちをしながら逃げ去る二人。あぁ、マジでカッコ悪いなぁ。自分がなにかされたわけでもないのに、鬼の首取ったみたいにえらそうに……


「あ、あ、あ、あり、がと。た、た、たすか、ったよ。」


 マルコは指輪の後遺症で、うまく話せなくなった。左手も半分が欠損している。やはり治癒魔法でも治せないらしい。まぁ他の被害者の二人よりはこれでも軽症なのだが。


 僕はいろいろ考えた。エクソダスのメンバーはどう思うだろうか、とか。でもきっとあいつらならなんやかんや言いながらも受け入れてくれる。そんな確信があった。


「マルコ。今度の進級試験のチーム、うちに入れ」


「え、え、え、い、いいの?」


「いいだろ?ジャコ」


「まぁ、僕は別に。クッサいユーカくんに耐えれるくらいですから、誰が来ても大丈夫ですよ」


 ふふっ、一言余計だね。


「じゃ、決まりね。マルコ、皆にも報告するから一緒に来なよ」


「う、うん!」


 そんなこんなでエクソダスのメンバーにマルコが加入することを伝えた。意外にも二人ともマルコのことを歓迎してくれた。あぁ、僕このメンバー大好き。



    ◇



 3日間の進級試験の前日、僕らのクラスを受け持っていたエリスクレア先生から担任を引き継いだボルケノ先生から試験に関しての説明があった。


「あ~、いよいよ試験は明日からだが、持ち物について少し説明がある。持ち物はチームでテント一式、寝袋、あとは個人でひとつだけ好きなものを持ってきてもいい。ナイフでもいい。火を起こす道具でもいい。いいか、ひとつだけだ。二つ以上持ってきた者はその場で失格とする。ここにいる全員が無事進級できることを祈っている。以上だ」


 なんだってぇ!? ひとつだけ、だと…… あぁ、迷う。夜の宴会芸のためにネタ帳を持っていこうか、それとも…… うーん、悩む。

 はっ!! 僕はものすごく重大なことに気が付いた。いや、僕天才なんじゃないかな。

 今だよ! あれが光輝くのは今しかないでしょ! そうだよ、この時の為にあれを引いたんだよ!


 ――エルフレーダー!


 もう決まった。速攻で決まった。僕はエルフレーダーを持っていくことに決めました。


 速攻で持ち物が決まってしまった有能な僕ちゃんは、エクソダスのメンバーがなにを持っていくのか聞きに行くことにした。


「拙者は悩みに悩みぬいた結果、これにいたしましたぞ!」


 彼がそう言ってみせてくれたのは、木彫りの人形だった。

 は? な、な、なんで? なんでこれ? あ、あのね、もっとね、さ、サバイバルなんだよ、もっとあるじゃん、ほら、ナイフとか、縄とか、ね、こ、これはないわぁ。


「むむむ、ユーカ氏にこれの良さは伝わりませんでしたかぁ。まぁ致し方ないです。拙者実はこれがないと寝れないのです、はい。なので、皆さんには申し訳ありませんが、これをチョイスさせていただきました!」


 まぁ、こいつになにを言っても無理そうだったので、諦めた。次にジャコが持っていく持ち物を聞いてみた。


「あぁ、僕が持っていく持ち物はこれです。今トルナダの首都で流行っているという、南の地平線の魔女が書いたという小説です。これすごく面白いんですよね、君にも今度貸してあげますよ。あ、においつけないでくださいよ」


 あぁ、小説いいよね、うんうん、時間忘れて読んじゃうよね、っておい! おかしいだろ、さ、さ、サバイバルだよ? 分かってる? 進級試験なんだよ?はぁ……


 こいつになにを言っても無理そうだったので、諦めた。次にマルコに持っていく持ち物を聞いてみた。


「あ、あ、あぼ、僕は、こ、お、これで、す」


 マルコが見せてくれたのはダガーナイフだった。刀身が少し長めのナイフ。おぉ!初めてまともなやつに出会ったぞ。いいぞ、いいぞ。マルコよくやった。この調子で頑張れ。


 最期にうちの紅一点ルーナさんに持ち物を聞いてみた。


「え! わ、私は、これ、です!」



 そういって彼女が見せてくれたのは――


 ――人形だった。


「と、トーカさんが、作ってくれたん、です! わ、わ、わ、わ、私と、ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、ユーカくんなん、です!」


 それは可愛らしいお人形さん、男の子と女の子のお人形さんだ。姉上こんな特技があったんだ。いやぁ、知らなかった。人は見かけによらないもんだなぁ……


 ――っておいっ!!!


 おまえもかよ! ルーナだけはまともだと思ってたよ! なんだよ、人形って! いいじゃん、サバイバルに人形持ってかなくてもいいじゃん……


 いいじゃん――――――


 絶望しても仕様がない。なるようにしかならないからな。まぁ僕らは模擬戦の優勝者だ。他のチームへのハンデだと思っておこう。


 そんなこんなで試験前日の夜になった。

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