番外編 ~お風呂でガールズトーク~

「ふ~、気持ちいいわね。ルーナちゃん、今日はありがとうございました」

「い、いえ! こ、こちらこそ、です」

「ところでさっき言いにくそうにしてたエグザの発動条件なんだけど……」



    ◇



 私の名前はルーナ。苗字は知らない。アリスミゼラルから難民として、ここトルナダ王国の中堅都市ラキヤにやってきた。

 私は産まれた時から奴隷だった。奴隷の母親と奴隷の父親から生まれた、まさに奴隷の申し子だ。私は幼い時から闘技場で賭けの対象となって、たくさんの人たちと戦わされてきた。

 一番最初に闘技場に立った時の相手は、同い年くらいの子だった。武器もなにも持たされず、素手で、ただただ殴り合った。相手が動かなくなるまで。

 しばらくすると、武器を持って相手と斬り合った。どちらかが力つきるまで。

 そのうち奴隷商が闘技場を盛り上げるために一つのスキルを教えると言ってきた。


 それがベクターだ。


 ベクターを闘技場の子ども全員に教えて、子ども同士で決闘させる。

勝負は一瞬でつく。当てれば即相手を倒し、当てれなければ自分に返ってくる。とてもわかりやすい。勝負が分かりやすいので、闘技場内でその勝負への賭けが流行った。


 ずっとそればかりやってきた。何回戦ったか分からないくらい。学校なんて、存在すら知らなかった。私の世界は闘技場しかなかったから。

 本当は自分の歳がいくつなのかもよく分からない。だからもしかしたらユーカくんよりも年上かもしれない。


 ある日、私の中でなにかが開く感覚がした。

 なにか新しい力が芽生えた、そんな、曖昧だけど、確かな実感。私はこの地獄を抜け出すきっかけになるかもと、毎日それがなんなのか自問自答していた。

 でもそれは長い間わからなかった。なぜかどうしても使えなかったから。


 ある日、闘技場に併設してある寝床にいた私は、外が騒がしいことに気づいた。

 どうやら複数の人達が戦闘しているようだった。はぁ、このまま私を殺してくれたらいいのに、そんなことを考えていた。

 後で知った話だが、隣国セルトゥ戦線共同体という国から攻めてきた兵士だったらしい。私はこの国が隣国と紛争状態だったことを知った、というかこのアリスミゼラルという国名すら知らなかった。

 その後、奴隷商の邸宅が襲われ、そこにいた、奴隷商売に関わる人達全員が殺害されたことで、私達はなんとか逃げ出すことになるのだが……

 闘技場の寝床でボーっとしながら、このまま殺されるのかなぁ、やっと楽になれるなぁ、なんて考えていたら、セルトゥの兵士たちが入ってきて、私達奴隷を見て「お前らガキんちょは、さっさと難民キャンプへ行け!」と、私達を逃がしてくれた。


 そしていろいろな縁があって、今このラキヤという街でいろいろな人達に助けられて私はなんとか生きている。



    ◇



 私はなぜかトーカさんとリーリエちゃんにここに来た経緯を話していた。なんでだろ。聞かれてもないのに。誰かに聞いてほしかったのかな。心配してほしかったのかな。私ってずるいなぁ。


「ルーナちゃん! 本当に、本当につらかったわね。でももう大丈夫よ。ここにはあなたを傷つける人間はいないわ。もしいたら私が全て排除してあげる。もしルーナちゃんがよければ、だけど私のことは姉と思ってくれてもいいからね。悩み事があったらなんでもいいなさい。」


「る、ルーナさん、そ、そんなつらい過去があったなんて…… あ、あたしのことも妹だと思って接してください! あたしもルーナさんをお姉ちゃんだと思って接します!」


「あ、あ、あ、ありがとうござい、ます! お二人とも…… す、すごく、すごく、うれしい、です」


 今まで涙なんて流したことなかったのに、二人の言葉を聞いたらなぜだかわからないけど、涙が止まらなくなった。今まで溜めてきた分が一気に放出されるかのように。

 なぜか二人ももらい泣きして、3人でお風呂でわんわん泣いてしまった。


 やっと涙も落ち着いて、トーカさんの最初の質問に答えていなかったのを思い出した。


「あ、あの、それで、トーカさんの質問、なんです、けど……」


「えぇ! エグザの発動条件だったわね」


「はい、え、エグザは、つ、強い気持ちがないと、発動しないん、です」


「気持ち?」


 はい、そ、それは――



 ――大好きな人を絶対守るって気持ちです。

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