第89話 作戦前夜
――作戦決行日前夜
「それにしてもレットさんて変わってるよね」
突然トーカ姉さまに言われて思わずリアクションに困る。
「え? そ、そうですか? ふ、普通だと思いますけど」
「えぇ~! 変わってるよ~! だって突然変な一発芸とかしだすしさぁ、よくわからない詩とか朗読しだすし、あとお洋服もそれ、ちゃんと毎日着替えてる? 毎日おんなじ服着てるじゃない。あと自分のこと僕って言うしさぁ。やっぱり君って変わってるよ。ねぇ? ルーナちゃんもそう思うでしょ?」
「は、はい! わ、わたしもそう思い、ます! ロベルタさんは素敵な、お、お嬢様ってかんじ、なのに、レットさんは…… あ、あ! す、すいません、し、失礼なこと言っちゃいました……」
謝んないで。余計に傷つくから。
なんだよ! そんなに僕は変か!? 普通のどこにでもいる可愛い系の女子だよ! そりゃ服は毎日おんなじもの着てるけど、これがエコってもんなんだよ。いいんだよ、僕はこれで。
ふたりに会えたのがうれしくてつい旅の途中に書き留めておいたネタ帳から渾身の一発を披露したんだけど不発に終わったし、詩もいまいち受けはよくなかったけども。
「でもね、なんか君を見てるとさぁ――」
――弟を思い出すんだよねぇ。
え?
「本当は弟なんていないんだけどね、でもね、いたんだよ。絶対。記憶があるから。それで彼はアコナイト、バーナード・クロムウェルに殺されたの。だから私たちは絶対にあいつを殺す。そしていつか弟に会えたら、なんで先に死んじゃったの! って叱ってあげるんだ」
「わ、私もです! 大好きだった彼にもしも会えたら絶対に怒ってやるん、です! この気持ちを、伝える前に、な、なんで死んじゃったの!って……」
もう耐えられない…… 自然に涙が溢れだして、それは止め処もなく頬を伝って流れていく。今すぐ伝えたい、僕がユーカだよ! って。
でも今それをしちゃったら彼女達の決意が、ここまで色々なことを捨てて、人生を投げうって成し遂げようとしてきたことに水を差してしまう。
だから! 伝えたいことは全部が終わってから、アコナイトを討伐してからだ。
いよいよ明日、明日だ。全てが終わる。そして始まるんだ。
アコナイトを討伐して前回失くしてしまった僕の物語を再び再開するんだ。
◇
いよいよアコナイト討伐作戦当日。
「皆いいかい? 打ち合わせ通り、僕の魔獣でまず第1波、遺跡内部をかく乱する。遺跡の地上1階部分にいるであろう野盗を排除、罠の確認、その後第2波だ。地上部隊と地下部隊に別れてアコナイトを追跡する。十中八九アコナイトは地下に潜伏していると思われる。なのでロベルタさんは地下へ、僕は別動隊を率いて地上を制圧する。大まかな作戦は以上だけど、質問はあるかな?」
地上部隊はオスボを隊長としてビジランテのメンバー15名、地下部隊はトーカ姉さまを隊長にビジランテのメンバーから副団長を含めた5人に、僕、ロベリア、ノナ、ルーナ、そしてトーカ姉さまの計10名で挑む。
地上メンバーのほうが数が多いが、地上のほうが遺跡の通路が広く、地下の通路が狭いということもあり、混戦状態になった場合を想定して地下は少数精鋭で編成することになった。
そういえばすっかり忘れていたが、ペルルの姿がここにいない。
ルーナとトーカ姉さまとの再会ですっかり忘れていたんだが、ペルルとも4年ぶりの再会、当然彼女の元気な姿が見たかった。
だが彼女は僕がここへ着く1週間ほど前に遺跡への突入方法を巡って、オスボと言い争いになって、怒って帰っていったそうだ。
彼女はオスボの提案した魔獣を最初に突撃させるという案に反発して、そんな方法を取るのなら帰ると言いだしたらしい。なら代わりの案を提示しろとオスボに言われたのだけど、彼女にそんな方法を考える頭があるはずもなく……
まぁ元々メラニアのペルルだ。同じ魔獣を捨て駒に使うのがどうしても許せなかったんだろう。でも僕達がここへ来ることを知らなかったのか、ノナが言っていなかったのか知らないけど、待っててくれたらよかったのに。思ったことをすぐ行動に移すペルルのことだ。頭に血が上ってなにも考えずに森に帰ったのかもしれない。ただ彼女がちゃんと森に帰れたのかだけ心配だ。あの単細胞の母ちゃんが途中で道に迷ってなければいいんだけど……
「えぇと、万が一遺跡の地上階にアコナイトがいた場合はすぐに思念魔法で知らせる。また遺跡の出口が正面入り口以外に2か所あることが確認されている。その2か所についてはビジランテの待機メンバーが常時監視するので問題はないかと思う。質問がなければ30分後に作戦を開始するけど、いいかな?」
誰もなにも言わない。散々作戦会議を重ねてきたんだ。今更なにか言ってもしょうがない。ここまできたらやるだけだ。
「レットさん、私、今回の作戦は待機メンバーで遺跡内には行かないのでこんなことを言うのもなんなんですが、作戦の成功、心から祈ってます! ご武運を!」
マーチの鼓舞でさらに気合が入る。マーチとは馬車で数日を共にした仲だ。絶対君にも最高の結末を見せてあげる。
よぉし! 両頬を思いっきり叩く。いてぇ、でも気合が入った。そんな時、ふとロベリアのほうに顔を向けた。
「お、おい! ロ、ロベリア、お前何飲んでんだよ!?」
マ、マジかよ…… こんな緊張感漂う中ロベリアはなにかを飲んでいた。小さい瓶に入った何か。
あれは絶対にあれだ。間違いない。こ、こんな時に……
「お、お前酒飲んでるだろ!」
さすがに回りの人達にばれたらまずいので小声で伝えたが、どうやら彼女が飲んでいたのは酒ではなかったようだ。
「ち、違うわよ! さすがにこんな時にお酒なんて飲まないわよ! これはね、デカにもらったものなの」
え? デカに?
「レットも知ってるかと思うけど、私デカに稽古をつけてもらってたの。自分のことだけじゃなくて、周りのみんなも守れるようにって。でも私には才能がなかったみたいで、中々稽古はうまくいかなかったの。旅の途中でもデカに色々教えてもらってたんだけど、結局うまくいかなくって……」
そ、そんなことがあったのか。稽古してるのは聞いてたけど、そんなに苦労してたなんて初めて聞いた……
「それでね、デカがいなくなっちゃう前、焚火をしていた時にね、デカが言ったの。君に教える時間が足りないかもしれないからもしもの時はこれを飲めって、ね」
あの、デカとの最後の別れになった、焚火を炊いてみんなで食事をして団らんしていたあの時にそんなやり取りがあったなんて…… 全然知らなかった。
「これを飲めば君の努力は報われる。これはズルなんかじゃない、君の背中を押すだけの、私の掌なんだよって。君がしてきた努力は決して無駄じゃない、全て意味があることなんだから、今はできなくても自分はダメだなんて卑下しないでって」
唇を噛みしめながら語るロベリア。ごめんね、君とデカがしてきた努力に対して泥を塗るようなことを言っちゃって。
でも君の決意は伝わったぜ! もう僕もうじうじなんてしてられねえ!
「ロベリア! 絶対アコナイトを討伐して笑顔で君の屋敷へ帰ろう!」
うっすら浮かんだ涙を拭い『よぉし!』と気合を入れるロベリア。
いよいよアコナイト討伐作戦の火蓋は切られるのだった。
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