第88話 ロベリアの決意
「それでは今回のアコナイト討伐作戦の詳細を詰めていきたいんだが、まず僕の使役する魔獣を先頭に遺跡内部へ侵入する。ある程度の敵を倒し、罠の有無を見極めた後突入することになるんだが……」
パイラの街へやってきて3日目。討伐作戦立案も詰めの段階に入ってきた。まず先手はビジランテ団長オスボの使役する魔獣を突入させ相手の混乱を誘う。
ニグラ遺跡は地上4階と地下に連なる遺跡で、斥候として送り込んだ小型の魔獣によれば地下2階までは確認済みだという。さらに地下があるらしいけどそこへ到達する前に群青色の霧によって倒されてしまったみたいだ。
「それで、本当にいいんだね? ロベルタさん。非常に危険な役目になると思うんだが……」
オスボがロベリアを見つめて問いかける。
話はさかのぼること1日前――
「第2陣は私が行くわ」
作戦会議中、突然ロベリアが席を立ちこう宣言した。
は? 突然何言いだすんだ? どういうつもりだ、ロベリア……
「皆には言ってなかったけど私には特殊な力があるの。それは全ての攻撃を反射する力。初手の魔獣投入であらかた削いだ敵の兵力なら私の力で問題なく遺跡内部を進んでいけるはずよ。もちろん皆には罠の解除とか、イレギュラーへの対応とかいろいろとやってもらわなくちゃいけないんだけど…… どうかしら?」
僕になんの相談もなしに突然話し出したロベリア。
な、なんで事前になんにも相談してくれないんだよ!?
あ、先に僕に話したら絶対却下されるって思ったのか? うぅん、たしかに事前に聞かれたら断固拒否ってたかもしれないな。ロベリアのことを見くびってるわけじゃないけど、心のどこかでお姫様扱いしてるのかもな。彼女は対等な仲間なのに。
「えぇと、にわかには信じられないわね。あの、一度試してみてもいいかしら? もちろん手加減はするけど」
トーカ姉さまがロベリアへ提案する。姉さまもどうやら半信半疑の様子だ。そりゃそうだ。素性も分からない助っ人が突然作戦の要を担うって言ってるわけだし。
「えぇ、良いわ。ただ木剣でお願い。反射は手加減ができないから、どれだけ相手にダメージが行くかわからないの」
「もちろんよ。あなたを傷つけるなんてしたくないもの。では準備ができ次第、外へ行きましょうか」
ソファに立てかけてあった木剣を手に取り、立ち上がるトーカ姉さま。なんでだロベリア? 君がそんな危険な任務を背負うことなんてないのに。
ロベリアは対等な存在。頭では分かっていても心ではそれが認められない。彼女は僕のことを一蓮托生の存在と言ってくれた。でも僕は彼女に傷ついてほしくない。籠の中に大事に仕舞っておきたい。
本当に僕は自分勝手で、エゴの塊みたいな存在だ。全く自分が嫌になる……
◇
「いいわよ、いつでもどうぞ」
「えぇ、では遠慮なく行かせてもらうわ」
屋敷の外、広場の中央でロベリアとトーカ姉さまが対峙する。一呼吸おいたあとトーカ姉さまが物凄いスピードでロベリアへ突進していく。
――あ、アガッ!
え? なにが起こった? 突然トーカ姉さまがなにかに躓いたように倒れこむ。受け身が取れなかったのか額を思いきり地面に叩きつけたみたいだ。
「だ、大丈夫!? ト、トーカさん!?」
ロベリアがトーカ姉さまに駆け寄り倒れこんだままの彼女の体を抱え込む。
「え、え、えぇと、ご、ごめんなさい、なにが起こったのか、よくわからなかったわ」
そりゃなにが起こったか、てんで理解不能だろう。でも姉さまはまだ攻撃する前だったと思ったんだけど、なんで悪意が飛んでいったんだ?
「私剣撃の前に蹴り足であなたの顔面に砂をかけようとしたんだけど、それが反射したのかしら? でもあなた本当にすごいわね。無敵なんじゃないの?」
どうやらトーカ姉さまは剣撃を入れる際の踏み込む足でロベリアの顔に砂を掛けて目を潰す作戦だったらしい。でもその砂がロベリアに向けられた悪意と判定されて、トーカ姉さまは敢え無く悪意の反射の餌食となったのだ。
「す、すごいですね! ロベルタさん! そんなにすごい人だとは思ってませんでした! すごい綺麗な貴族のお嬢様だとばかり、って! す、すみません、私失礼なことを言っちゃって……」
マーチもロベリアの悪意の反射に驚いている。
「マーチさん、全然気にしてないから大丈夫よ。でも綺麗なお嬢様ってのは誉め言葉として受け取っておくね」
「は、はい! 本当にロベルタさん綺麗なのにこんなに強くって…… 私も見習いたいです。見習いだけに、なんつって……」
マーチの見習いギャグは不発に終わったみたいだけど、ロベリアを見るマーチの目は輝いている。ロベリアがこんな羨望の眼差しで見られると僕までうれしくなってくるな。
「き、君すごいな! うちのチームのメンバーも挑ませてもらっていいかい?」
オスボの提案でビジランテ副団長テオ・ザハークがロベリアに挑むことになった。
「あの、別に構わないんだけど、絶対に相手を殺傷するような手は使わないでね? どんな反射が相手に飛ぶか私にも分からないから」
「あぁ、もちろんだとも。私には相手を殺傷するような力はないからね。もっぱら敵の拘束や危険探知の魔法を得意としてる云わば補助役なんでね」
「分かったわ! じゃあいつでも来ていいわよ!」
「では行かせてもらうよ!」
――慈悲深き光の精霊よ、我が求めに応じ罪深き者を拘束せしめる白銀色の鎖をここに顕現せしめよ!
副団長テオが詠唱を開始して呪文名を唱える刹那、それまで腕を組んで待ち構えていたロベリアが唐突に声を出した。
――イテッ
――チェインオブパニッシュメント!
テオが呪文名を詠唱し終わり、空間から白銀色の鎖が出現する。その鎖はロベリアを拘束しようととぐろを巻いて襲い掛かるが、予想通り鎖はロベリアを拘束する前に霧散した。代わりにテオがなにか大きな鉄球にでも殴られたかのように後方へ吹っ飛んでいく。
辛うじて受け身はとれたものの、すぐに起き上がれないテオ。だが数十秒も経たないうちになんとか自力で起き上がった。
「す、すごいな。なにが起こったのか全く分からなかったよ。気づいたら後ろに飛ばされていた。これは確かに無敵だ」
ふたりから無敵と誉め称やされて得意げになるロベリア。
でも何故か少し腑に落ちないような表情もしている。
少ししてからロベリアが僕に話しかけてきた。
「ねぇ、レット、さっきさ、なんかおでこに石ころかなんかが当たったのよね。別に大して痛くもなかったんだけど、思わずイテっって声が出ちゃったわ。もしかして聞こえてた?」
うん、聞こえてたよ、と素直に言うとロベリアは『聞こえなかったって言いなさいよね!』と恥ずかしそうにしていた。
でもなんでだろな? 敵意のない、なにかの拍子で飛んだ石ころが偶然当たってしまったのかな? こういうイレギュラーには周りの僕達が気を付けてあげないとな。
そんなこんなでロベリアを矢面に立たせる作戦が正式に決定された。
ロベリアを危険な目に合わせる、本当なら絶対にしたくない行為だけど、ロベリアの意思だ。僕は彼女を守るために最大限できることをする。でも……
心のどこかで一抹の不安を抱えたまま作戦決行のエックスデイは迫っていった。
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