第120話 お前本当に性格悪いな
「ギャハハッ! どうしてくれようかなぁ!? あたしらのことをずっと騙してたんだもんなぁ。それ相応の罰を背負ってもらうってのが道理だよなぁ」
右手を肘に当て、左手を顎に置きニヤニヤと嗤い続けるティザー。
一体こいつは僕らになにをさせるつもりなんだ? ていうかさっき聞いてたとおりとかって言ってたけど、さっきの行動は誰かの入れ知恵だったってのか?
ホウライだけじゃなく僕らも、いや、ユピテルのことさえも陥れようとしているヤツがいるのか?
「はぁ、別にお前たちを騙すつもりはなかったのだがな。彼女は正式なユピテルの代理。ユピテル本人がこの場に居たら大変なことになる。一応今回の件は我らからの配慮だったんだがな」
「はぁぁ!? そんな言い訳はどうでもいいんだよぉ! とにかくてめえらはユピテル本人が来るという約束を反故にした。その報いはきちんと受けてもらうぜ!」
顎に手を当てたまま叫ぶティザー。その後彼女は黙りこくって同じ所をグルグルと歩き回っている。なにか考え事でもしているのか?
「う~ん、どんな罰にしてやろうかなぁ」
暫くの沈黙の後、彼女は何かを閃いたのか、ポンと手を打った。
「あっ! そうだ! ちょうどあたしらの管轄する都市アルテラが手を焼いてる魔獣がいたんだ! そいつをお前らに討伐してもらおう! そうしよう! どうだ? あたしは優しいだろぉ!? こんなんで今回の件は許してやるぜぇ!」
魔獣の討伐? 一体どんな魔獣なんだ? いや、でもユピテル達神が相手をすれば魔獣なんて楽勝か? はぁ、よかった。一体どんな無理難題を押し付けられるか戦々恐々だったけど、これならなんとかなりそうだ。
だがその後、ティザーから出た言葉は僕が全く想像もしていなかったものだった。
「ただ~しっ! 魔獣討伐をするのは偽物! お前だ! お前がひとりでしろぉ! いいな!? 取り巻きのオッサン共は手を出すんじゃねぇぞ!」
はぁっ!? な、なに言ってんだ? い、いや、ハイドラなら可能なのか? 彼女は曲りなりにも魔女ルーペと神ユピテルの代理人。てことは奇跡の力を行使することもできるはず。
「彼女は神ユピテルの代理人だが、彼女に他者を攻撃するような力はない。それに彼女は死なないからその討伐は永遠に終わらないぞ。彼女に従者をひとりつけてやってもいいか?」
「あぁ!? そんなもん知ったこっちゃないねぇ! どうせあのスカーレットドラゴンをつけるつもりなんだろうが、そんなもん許すわけねえだろうがぁ! あぁ…… そうだなぁ……」
相変わらず嫌らしい笑みを口元を浮かべながら、辺りを見渡すティザー。
ティザーの顔を何の気なしに見つめていると、何故だか突然彼女と目が合った。左目の箇所だけが開いた彼女のアイマスク越しにだが、何故だか目が合ったのだ。
「ギャハハッ! いいこと思いついたぜえ! そいつだ! そいつなら連れてってもいいぜぇ! そのおかしなメラニアだ。人語を操るおかしな愛玩魔獣、お前その偽物のことが大事なら魔獣討伐を手伝ってやれよぉ!」
「は? 僕? い、いや、僕はメラニアだし、僕なんて無力だし……」
思わず断ろうと声を出しかけて、ふとハイドラの顔が視界に入った。いつのもように微笑んでる、だけどどこか悲しそうな顔……
そんな顔を見せられたら断るに断れない。
「あ~! もう! わかったよ! 手伝うよ! こんな僕になにができるのかは分かんないけど、付き合うよ!」
「メラニアちゃん……」
ハイドラの表情がパァっと明るくなる。よかった、この顔を見れただけで少し救われた気がした。
しかし…… 戦う術のない今の僕になにができるんだろうか? いや、悩んでいてもしょうがない。やれるだけのことを全力でしよう。
「ギャハハッ! じゃあ決まりだな! 魔獣はここアルテラからほど近い丘陵地帯に居を構えているぜ。そこまでの道案内はしてやるからよぉ、さっさと倒してこい!」
ティザーはそう言うと外に停めてあったあった馬車を指さした。
「おらっ、時間が勿体ないからよぉ! さっさと乗れや!」
「メラニアちゃん、ごめんね、行こっか」
「あ、あぁ……」
ハイドラは立ち上がるとスカートのしわを払う為太ももを手ではたき、そのまま歩き出す。僕も彼女の後ろをついて馬車へと歩き出したのだった。
◇
ふたりが馬車に乗り込んだ後――
「おい、ティザー、あの魔獣はキルスティアが討伐するのは待てと言っていたが、彼らに討伐させていいのか?」
「あぁ!? んなもん知ったことかよ! あたしの管轄するアルテラの問題だぞ! あんなクソみたいな魔獣いつまでも放っておけるか! キルスティアになにを言われようが、討伐するのはあいつらだ。あたしは関係ねぇ。そもそもあいつらが討伐できるとも思えないけどなぁ! まぁせいぜい暇つぶしにはなるだろうよ!」
「お前…… 本当に性格悪いな……」
◇
ティザーも馬車へ乗り込み、馬車は走り出す。出発してから数分経った頃ティザーが今回討伐する魔獣についての情報を語りだした。
「ギャハハッ! 魔獣の情報をくれてやる! そんじょそこらじゃお目に掛かれないような珍しい魔獣だぜ!」
彼女の話し曰く、魔獣の名前はロットンスライム。巨大なスライムらしい。体長は約3メートル、色はなんとも形容し難いと言っていた。つまり色々な色が混ざっている。言葉ではうまく言えないけど見ればそいつだとすぐ分かると言っていた。
そして一番重要な魔獣の攻撃手段。にわかには信じられないが、魔法を使ってくるという。これまでに確認したところ、火系と水系の魔法を行使してくるらしい。
今までそんな魔獣に出会ったことなんて一度もない。まぁこいつらが手を拱いているような魔獣だ。はなから簡単に倒せるなんてことは考えていない。
とにかくやるしかないんだ。
「ところでよぉ! ふたりのおっさんは馬車で待機だからなぁ! 討伐に行くのはこの偽物と愛玩魔獣だけだからなぁ!」
「ふん、わかっている」
「あぁ、承知した」
ユピテルふたりは表情をほとんど変えない。でもきっと約束を守らなかった僕のことに腹を立てているに違いない。
「ご、ごめんね、ユピテル。でも僕どうしても我慢できなかったんだ。だから後悔はしてないよ」
「あぁ、そうだな。お前は正しいことをした。だから私たちは別になんとも思ってないよ」
二番はそういって僕の頭を優しく撫でてくれた。
その時の彼の表情は心なしか笑っているように見えたのだった。
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