第100話 女神の存在理由

「紫様、大変失礼いたしました」


 代わりの人に謝られ、代わりに出された精進料理を頬張りながら、彼の話を聞く。


「紫様、今回もいつもの如くガチャを引いていただいて、これから新たな転生がスタートするわけですが、その前にこれまでの紫様のご活躍を鑑みて、いくつか紫様からの質問にお答えしようかと考えております。如何でしょうか?」


 ほぉ! まさかあちらさんからそんなことを提案されるなんて夢にも思ってもいなかった!

 聞きたいことかぁ…… 山ほどあるけど、そうだなぁ……


「ちなみに3つまでお答えしましょう」


 大盤振る舞いじゃねえぁ! 3つか。とりあえずあのことについて聞いてみるか。


「じゃあひとつ目ね。イゾウ氏の屋敷の帰り道で、レミアラさんが僕らを襲ってきたのはなんでなの? もちろん結果として12歳の壁は越えられたけどさ。あんなことしなくてもあのまま生活していけばそのまま壁は越えられた気がするんだけど」


 未だに正座して膝に肉塊を乗せられ縛られているレミアラを見つめ、代わりの人に質問を投げかけた。


「えぇ、その件についてですね。お答えしましょう。まず現在罰を受けている女神レミアラの姿を見てください。これをご覧になれば自ずと答えはでるかと、思います!」


「あ、はぁはぁ、申し訳、御座いません、でしたぁ、はぁはぁ、あぁん!」


 僕らが食事をしている間もずっと悶えて続けていたレミアラ。彼女は一体いつまでこうしているのだろう。しかし彼女の姿を見れば? どゆこと?


「つまり彼女は独断で紫様にあのような行為をしたということです。ただ彼女としてもよかれと思ってしたとのこと。このように罰も受けておりますので、何卒お許しいただければ、と思います!」


 あぁ、そういうことね。だからこの状況なわけね。


「現在女神レミアラの膝の上で最高級の豚の肉塊が熟成中です。女神のエキスがたんまりと染みこんだ至極の逸品、あとでおふたりに召し上がって頂こうかと、思っております!」


 え、えぇ…… たしかによく見れば肉塊はチャーシューみたいな縛られ方をしている。レミアラの縛られ方はちょっとセンシティブな手法だが。ていうかそんなもん食いたくねえ。なんだよ、女神のエキスって…… あまりにもマニアックすぎるだろ。


「では次の質問よろしいでしょうか? どんな質問が投げかけられるのかわたくし、胸が高鳴り、興奮が抑えきれません!」


 え、そんなテンションなんだ? うーん、質問…… 改まって聞かれるとなぁ。あっ! そうだ! 今回の転生が終わってあれ、なんかおかしいぞ? って思ってたことがあった! あれについて聞こう。


「そういやさぁ、前回のガチャの時にさぁ、色々でたじゃない? でもさぁ、今回の転生で、まだもらってないスキルがあると思うんだけどさ、どうなってんの? 運営さんのミス?」


「? なんのことでございましょう? 前回のガチャで排出されたものは全て紫様はすでに手にされているかと思いますが」


「いやいや、ふたつまだもらってないって!」


 ――悪魔の首飾りと惡の華だよ!


 そうだよ! このふたつは結局手にすることはできなかったんだよ。どうなってんの?全く。


「あぁ、なるほど。ではひとつずつご説明いたしましょう。まず悪魔の首飾り。こちらは今も紫様の首に飾られているではありませんか?」


「は? 今も? どゆこと? 僕首飾りなんてしてないけど」


「鏡をどうぞ」


 代わりの人がズボンのポケットから取り出した手鏡に僕が映し出される。やっぱり首飾りなんてしてない。あるのは紫色の痣だけ……


「あ! も、もしかして、この痣のことなの?」

「ご名答で、ございます! そのとおり、その痣が悪魔の首飾りでございます。元女神ホウライの寵愛を受けしそのスキルがあればホウライとその眷属を自由に使えます。まさにハイパーウルトラレアに相応しい逸品で、御座います!」


 な、なるほど。言われてみればたしかに凄いアイテムだ。だけど…… 分かりにくすぎんだろ……


「ではもうひとつのスキル『惡の華』ですね。これもすでに紫様は手にしておられます」


 は? いや、だからどこに? そう尋ねると代わりの人が指をさす。その指の先にあったもの、それは……


 ――ロ、ロベリア!?


 は? どゆこと? 理解不能だぞ。あっ、そういえばロベリアがなんでここにいるのか疑問に思ってたんだよ。ロベリアに再開できたことが嬉しすぎて、完全に頭の中からそのことが飛んでいってたわ。


「んっと、ここからは私が説明するわ。てか私もさっきレットが目覚める少し前にレミアラから聞いたことなんだけど……」


 ロベリアの話を要約すると、イゾウ氏の屋敷の帰り、レミアラに襲われた際僕の巻き添えを食って攻撃されたロベリア、あれは実は当初、僕を攻撃するのではなく、ロベリアだけがターゲットだったそうだ。

 その方法…… それはロベリアを一度殺害して、ホウライがストックしていた精巧な人形にロベリアの魂を乗せ換え、そしてホウライの命を吹き込む能力とロベリアが最後にひとつ残しておいた命を吹き込む能力を使い、レミアラの攻撃によって欠けた部分を補う。


「それが『惡の華』を完成させる方法だったみたい。普通なら命を吹き込む能力じゃ命令されたことしかできないんだけど、私の場合悪意の魔人だったこと、あとホウライと私の能力を両方使ったことで前と変わらない私のままの人形を作りだせたってわけ」

「え、てことは、ロベリアは……」

「うん、私途中から人形だったみたい。ここに来て初めて聞いたのよ! 生きてる間自分が人形だったの知らなかったなんて酷くない!? まぁでもこうしてまたあなたと会えたんだし、人形になったあとも別に不便もなかったし、まぁいいかなって」


 くそっ、そんなことがあったなんて…… ロベリアと再会できたのはうれしいけど…… それって完全にロベリアの都合は完全に無視じゃねえかよ! なんなんだよ、ガチャででたからそれをこいつら女神が実行したってか? 


「あ、あぁん、ゆ、紫様、も、申し訳ございません、はぁはぁ、でした。仕方が、はぁはぁ、なかったのです…… あぁん!」


 レミアラの悶える姿を見ていたら怒る気も失せた。とはいえ彼女には罰が必要だな。


「レミアラさん当分その恰好しててね。女神なんだから耐えられるよね? あと1週間くらい」

「えっ!? 1週間、ですか…… はぁはぁ、畏まりました。わたくし、あぁん! 耐えて、はぁはぁ、みせます。甘んじてこの罰をうけましょう、はぁはぁ」


 悶えるレミアラを尻目に代わりの人が口を開く。


「そういったわけでですね、ロベリア様は紫様の眷属としてここにおられるわけです。ですので、彼女は次の転生でもあなたのお役に立てるかと、存じます!」

「よろしくね! レット! あ、眷属っていっても別にどっちが上とか下とかじゃないからね。前みたいに友達としてよろしくね! あ!あと私がお姉ちゃんだからね!」


 はぁ、癒される。多分この場に僕ひとりだったら罪悪感や無力感で僕の心は潰されていた。彼女がいるおかげで僕は今もなんとか立っていられる。


「では最後の質問はもうお決めでしょうか? わたくしどんな質問が来るのか楽しみで仕方がありません! では紫様、どうぞ!」


 なにを質問しようかあれこれ考えたけど、やっぱり最後はこれを聞いておきたい。


「女神ってなんなの? なんで元女神って存在がいるの?」


 代わりの人に問いかけると彼は腕組みをしてなにやら考え込んでいる様子だ。なんだ? 答えにくい質問だったのか? だけど彼はなんでも答えると言った。なら答えてもらおうじゃあないのさ!


「紫様、中々いい質問です。わたくし感服、いたしました! いいでしょう。お答えすると言った以上、答えさせて、いただきます!」


 やっと女神についての情報が得られる。代わりの人はゆっくりと語りだす。


「女神は元女神を含めて全員で8名おります。エストリエ、リリム、レミアラ、ホウライ、アーテー、エイシェト、エリーニュース、そしてフォルトナ。彼女たちの出自は様々、元人間だったもの、紫様と同じく異世界から転生してきた者、もちろんそれ以外も御座いますが、彼女達女神が存在する理由、それは……」


 やっと聞ける。女神の存在理由。


「異世界の人間をこの世界へ転生・転移させる。これが女神が存在する一番の理由です。まぁ何のためにそれを行うのかは、色々理由がありますが、ここでは『世界の均衡の為』ということにしておきます。その辺りはお察しください。そして女神はひとりで数名の転生者をこの世界へ召喚することができるのです。役目を終えた女神は女神の任を解かれ、次のステージへ移行するのですが、今回、とある女神の反逆のおかげでこのシステムに異変が生じました」


 え? 誰だ? アーテーか? それともホウライ? いや、冒険者チームに討伐されたっていう、魔人落ちした女神エイシェトか?


「その女神の名はエリーニュース。彼女は女神という立場にありながら、我らに反目し、この場から去っていきました。彼女は自分の眷属を増やしながら今も活動を続けております。彼女の反目のおかげで、本来なら役目を終えたはずのホウライやアーテーは現在のような元女神という宙ぶらりんの状態に留まっているというわけです」


 エリーニュース? まだ僕が出会ったことのない女神か。そいつが諸悪の根源ってわけか? いや、全てを鵜呑みにするのもな……


「女神が8名というのは確定されたルール。本来8名の女神がその役割を終えると次の8名の女神が誕生します。ですがエリーニュースの反目のおかげでその循環が滞っているのが現状です。つまり紫様、あなたが繰り返し転生するのは彼女の反目のせいなわけですね。要は次の転生者を迎えることができず、紫様の転生を延々ループしているのがこの現在も続いている連続転生の真相、なのです!」


 代わりの人は語り終え、自信満々にポーズをとっている。


「ふーん、まぁなんとなくだけど理解した。ツッコミたいとこも色々あるけど、教えてくれてありがと。とにかくエリーニュースって女神が連続転生を引き起こした張本人ってことね」

「はい! そのとおりで、御座います!」


 笑顔で答える代わりの人。うーん、なんつーか胡散臭い顔だ。この人物凄いイケメンだけど、なんつーか、笑顔が作り笑顔っていうか、なんか得体の知れない怖さがある。


「さっ! では質問コーナーも終了したことですし、紫様お待ちかねのガチャガチャタイムと参りましょうか!?」


 代わりの人の押しの強いガチャガチャタイムのお知らせによって、僕はあらたなスキルを手にする時が来たのだった。

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