第101話 原初の搾取君(仮)
「では今回も張り切ってまいりましょう! 第6回目のガチャガチャタイムで、御座います!」
いよいよ始まった。今回の司会進行はどうやら代わりの人らしい。あ、そういえばいい加減代わりの人呼びも失礼か? この人なんつー名前なんだろ?
「ねぇねぇ、代わりの人ってなんて名前なの? そういや聞いてなかったわ」
「あ~、え~、そうですね、わたくしのことはルーニーとでもお呼びください」
ルーニーね、オケオケ。
「では今回のガチャを開始する前に、ひとつだけ紫様に残念なお知らせが、御座います!」
え? どゆこと? 残念な? なんだろう……
「実はですね、前回搾取君(仮)を改修した時にですね、女神リリムがかなり無茶な改造を施したらしく…… え~、っとですねぇ」
「え? なんだよ、なんで口籠ってるんだよ?」
「搾取君(仮)がですねぇ、故障してしまいました! 現在修理中なんですが、今回のガチャ開催に、間に合いませんでした! 申し訳、御座いません!」
え、え、どうすんの!? ガチャ引けないってこと!? 困るよ、それは困るよ!
「ですがご安心ください! 今回搾取君(仮)の替わりと致しまして、あらたにご用意したものが御座います! 今回はこちらで紫様にガチャガチャタイムをお楽しみ頂こうかと、思っております!」
――ミュージック・スタート!
天井に吊るされたミラーボールがキラキラ光る。なにもない部屋は煌びやかな眩い、色とりどりの光で照らされる。
そしていつものBGMが流れてくるのと同時に、どこにあるのか分からない扉から数人のダンサーたちが華々しく登場した。
「え、え、え? 誰? 何あの人たち?」
「今回の為に特別に雇ったダンサーたちです! どうです!? 素晴らしいでしょう!?」
サンバの衣装で激しく踊り狂うダンサー達。呆気にとられ、呆然とその様を眺めている僕に、ルーニーがさらに語り掛ける。
「彼女達は時給銀貨2枚、日本円にして約4000円で雇われております! 非常に好待遇なのですが、彼女達はこの日のために日夜特訓に特訓を重ねてまいりました! 彼女達のたゆまぬ努力の結晶を、とくとご覧ください!」
彼女達の踊りはその後15分ほど続き、全員息も絶え絶え、膝に手を当て前屈みになり、ゼエゼエ言っている。
「い、いや、すごいよ、すごかったんだけど、こ、これって必要だったの?」
「だめよ! レット! 彼女達すごかったじゃない! そんなこと言ったら失礼よ!」
あ、ああん……
何故かロベリアに諭され、僕は言葉を失った。彼女は知らないんだ。僕はこんな目に何度も合ってるんだ。きっとこれが初体験だったら僕もロベリアと同じ反応をしたかもしれない。でも僕はもう経験済みなんだ。非〇女なんだよ。
「さぁ! いよいよお待ちかね! ゼロから生まれた新生搾取君(仮)の、登場です! アシスタントカモーン!」
疲れてハァハァ言っているダンサー達を尻目に再度登場してくるバニーガール姿のリリムさん。彼女がカートに乗せて運んできた新生搾取君(仮)と言われた物体……
「え、なにそれ…… 箱?」
リリムさんがカートに乗せて運んできたそいつは、どう見ても只の段ボールの箱だった。
段ボールには穴が開けられていて、その段ボールにはマジックで書いたのか、ウサギや猫のイラストが描かれていた。忖度なく言えば、下手くそな絵だ。
「おーっと! 紫様、驚きの余り言葉を失っているぅ!? 有難うございます! 有難うございます! そこまで喜んでいただけるとは、わたくし歓喜の余り今にも絶頂してしまいそうです!」
「ちょ、ちょい、おっさん、これ絶対ユカリン引いてるって。だから言ったじゃん、これはいくらなんでも酷いって。だからまじぱない搾取っち(仮)使おうって言ったのにぃ」
いや、どっちもどっちだからね。もういいや、なんでもいい。ガワなんてどれも一緒。ガチャ引かせてくれるんならなんでもいいよ!
「紫様もご納得のご様子なので、話を進めてまいりましょう。今回のガチャマシーン名前はずばり『原初の搾取君(仮)』です! やり方は簡単! 箱に開いている穴ぼこに手を突っ込んでその中に入っているガチャを取り出すだけ! 至ってシンプル! シンプルイズベスト! さぁ、時間も押してきたことですし、どんどん進めてまいりましょう!」
ア、 アナログ…… ま、まぁいいや。こんなことでいちいちツッコんでたらキリがない。僕はスルースキルも一級品なんだ。冷静になれ、ユカリ!
「そんで今回は何回? 何回引かせてくれるん?」
「そうですね、今回のガチャは転生6回目ですので、6回、逝っちゃいましょう!」
おぉ! また前回よりも増やしてくれた! てかどうせなら10回くらいひかせてくれりゃあいいのになぁ。まぁ贅沢は敵だからな。我慢するとしよう。
「今回はガチャのカプセルの色でレアリティが変わります。例えば白色のカプセルはノーマル、みたいなかんじですね。ではわたくしが引かせていただき、中身の確認は女神リリムにお願いすると、しましょう! では、参ります!」
ルーニーが箱に手を突っ込む。だが何故か彼はそのまま手を箱に入れたまま動かない。どうした? 微動だにせず、数十秒後、彼は突然箱から手を抜き、神妙な面持ち、それから一言……
「申し訳ございません。今回予算の都合上、ガチャ演出のBGMが御座いません。ご了承くださいませ」
そんなことかよ! どうでもいいわ! なんかあったのかって一瞬心配しちゃったじゃねえかよ!
はっ! そういえば前回あって今回ないものにもうひとつ気が付いた。アレだ、アレがない。アイツがいない。
「ねぇねぇ、リリムさん、今回はリーリエのヤツ来てないの? 久々に会えると思ったんだけどさ」
そう、リーリエだ。前回海で会ったっきりだ。まぁきっと彼女のことだ、元気にしてはいるだろうけど、やっぱり可愛い妹。直接顔を見たかったんだが。
「あぁ、リーリエちゃんね、一応打診はしたんだけどぉ、なんか恥ずかしいらしくってぇ拒否られちゃったぁ」
「なにが? 何が恥ずかしいのさ?」
「いや、この衣装着るのが」
そう言って彼女が指さしたのは現在彼女が着ている衣装、要はバニーガール。
「いや、そりゃ恥ずかしいだろ! 年頃の娘だぞ! 別に普通の服でもいいだろが!」
「え~、だってさぁ、ユカリンが喜ぶと思ってぇ。なんかリーリエちゃんお胸が大きくなってさぁ、そういうシルエットが強調された格好するの嫌なんだってぇ。あたしなんて全然気にならないんだけどぉ」
「いや、あんたとうちの妹を一緒にしないでよね」
くそっ、そんなくだらない理由でリーリエは……
まっいっか。そのうち会えるだろ。
「ではそろそろよろしいでしょうか?」
ルーニーの催促でいよいよガチャがスタートする。
「では参ります! はっ!」
6つのカプセルを勢いよく取り出すルーニー。取り出したカプセルはリリムへと渡されていく。
「もらったよぉ! どんなんが入ってるんかなぁ? 楽しみだね~!」
「さぁ! 大役を任されわたくし満身創痍では御座いますが、引き続きスキルのランクを確認して参りましょう!」
カプセルの数は6つ。黒いカプセルがひとつ、ピンク色のカプセルがひとつ、金色のカプセルがふたつ、虹色のカプセルがふたつ……
あの虹色絶対いいやつだろ!? キタコレ! 勝った! これはもう約束された勝利! エク〇カリバーでちゃうかも!?
あっ! そういえば白はノーマルって言ってたよな? てことは今回ノーマルはない! ハイ来た! これで勝つる!
「ではひとつずつ確認して参りましょう! まず黒いカプセルから!」
「オッケ~! スキル名の発表をするのはこのヤバかわ女神リリムちゃんだよ~ん!」
――黒のカプセル…… スーパーすべしゃるレア!
――剣の極意レベル2
あぁ、今? 今くる? 前回煮え湯を飲まされた、こいつがあればイヴィルレイの上位スキルを撃てたであろう、こいつが今来る?
いや、まぁいい。今後なにかの役に立つかもしれん。有難く頂戴しておこう。
「さぁ! 紫様もにっこにこ! 残りもどんどん逝っちゃいましょう!」
――ピンク色のカプセル…… ウルトラレア!
――呪いの人形
は? なんて? の、呪い? いや、なんでこんな物騒なスキル名ばっかなんだよ!? このガチャはよぉ! まぁいいや、もらえるものはもらっておこう。
「紫様! 興奮冷めやらぬご様子! 涎ダラダラ今にもわたくしに襲い掛かりそうです!」
いや、だからあんたの目に僕はどう映ってるのさ!? マジで襲い掛かるぞ。
「も~、おっさんうるさいって! 次逝っちゃうよぉ!」
――金色のカプセル…… ハイパーウルトラレア!
――モ〇スターボール
え!? 今ピー音入った? どゆこと?
「おぉ! これはかなりのレアアイテムを引きましたね! ユカリ様。これは強力なモンスターが入っているカプセル、いわゆるモ〇スターボール! 一体どんなモンスターがでるのか!? 乞うご期待!」
やっぱりそこにピー音入るのね。まぁいいや。こういう時に時間を掛けて育ててきたスルースキルが生きてくるよね。
「もぉ! さっさと次逝っちゃうよ! お次はどんなのがでるのかなぁぁぁ!?」
――虹色のカプセル…… レジェンドレア!!
おぉ! やっぱ虹色はレジェンドか!? やったぜ。しかも2個だろ? こいつは夢が広がりんぐだぜ!
――悪魔のしっぽ
「おぉっと! これはすごいスキルがきたぁ! おめでとう御座います。これで紫様の人生は薔薇色! さすが幸運を手繰り寄せる才を持った紫様万歳!」
ま、また悪魔なんたらかよ…… いやまぁ、今までも役に立つスキルやらアイテムだったけどもさぁ、もうちょっとネーミングなんとかならない? 不吉すぎるんだよ。
「さぁ、早いものでガチャも残すところ最後のひとつ! ガチャの色は虹色でしたので、レジェンドレアは確定しております! 一体どんなスキルが飛び出すのでしょうか!? わたくしもうすでに絶頂し終わり賢者タイムで、御座います!」
いや、そんな報告いいから。
いやでもまぁ、最後だ! いいやつは確定してる! 頼む! 次の転生に役立つやつ頼む!
「いい? ユカリン、逝っくよぉぉ!!」
リリムさんの掛け声とともに虹色のカプセルが開かれる。一体どんなスキルが飛び出すのか……
――ペット
え? ペット……
また? 嘘でしょ? またメラニア?
「おめでとう御座います! レジェンドレアのペット! これはすごい! 一体紫様にどんな加護をもたらすのか!?」
え? やっぱレジェンドレアだとペットも前回とは違うかんじ? あ!! もしかして今回こそフェンリルとかドラゴンとか、すんごい強力な魔獣を使役しちゃうかんじ!? よしっ! 完全に勝ち組ルートに乗りました!
「紫様! そろそろ次の転生へ赴く時間となりました! 紫様のご武運を心より願って、おります!」
あ、はい、あざす。
「レット! 私も頑張るからさ、きっと楽しいことがいっぱいあるよ! ねっ!」
あぁ、ロベリア。君がいてくれるなら次の転生にも希望が持てるよ。よっしゃ! じゃあいっちょやったりますか!
「では! 異世界転生第6回目、逝ってみましょう!」
ルーニーの掛け声によって僕の連続転生6回目はスタートした。
だけどまさかあんな形で6回目の転生がスタートするとは……
この時の僕は知る由もなかった。
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