第47話 イゾウとホウライ

「師匠ってどういうことだよ? 父ちゃんの師匠って東の森の魔女じゃなかったんか?」


 父ちゃんに師匠が二人いたなんて話初めて聞いたぞ。一体何もんなんだ、そのホウライってヤツは……


「あぁ、お前には言ってなかったからな。まぁ昔の話だしよ。ホウライには色々教えてもらってよ。まぁとにかくやべえヤツだから絶対に敵対するな、わかったな?」


 敵対するなって言われても…… 部長を攫ったグループのリーダーなんだろ? 否が応うにも敵対しちゃうと思うんだけど。

 それにしても父ちゃんよく部長が攫われたこととか知ってたな。そんな遠視の魔術が使えるなんて聞いたことないんだけど。


「父ちゃんなんで部長が攫われたこと知ってたの?」

「あ? あぁ、そりゃあれだよ。そいつが見てたんだよ」


 父ちゃんがそいつと言って指をさした人物――


 ――それはペルルだった。


「は? ペルル!? え、なんでペルルが見てたのさ。てゆうかどこで!?」


「ペルルじゃねえっていってんだろ! 母ちゃんって呼べ! ま、そりゃよ、おめえが心配でずっと近くで見てたに決まってんじゃねえかよ。そんでたまたまあのチビが攫われるとこ見ちまったんだよ」


 え? マジで? あ、もしかして初めての授業の日にきったない字の紙屑投げてきたのもペルルだったのか? 全然わかんなかったぞ。


「てかなんで見てたんなら助けなかったんだよ! ペルルなら助けれただろ!」


「あぁ!? あたいがホウライたち相手に勝てるわけねえだろ! しかもあいつら3人来てたんだ。そこにはホウライはいなかったけどよお! 近くにいたかもしんねえだろ!」


 ペルルがそこまで言う相手なんか…… ペルルはこんなんだが、体術はかなりのもんだ。僕は魔法なしでペルルと模擬戦をして、一回も勝ったことがない。そのペルルがそこまで言うなんて。


「いいか、レット。多分だけどよ、イゾウはフィガロを傷つけはしないはずだ。フィガロは精神的には疲弊するかもだが、命を脅かされるようなことはねえ。だが問題なのはイゾウのほうだ。多分だがイゾウがやろうとしてることは失敗する。だからよ、レット、お前に頼みたいことが有る。最悪の事態になる前にイゾウを止めろ。頼んだぞ」


 へ? どゆことだよ。なに言ってるのかわかんないんだけど! 分かるように説明して!

 父ちゃんに詳しい説明を求めても、父ちゃんは時が来れば分かる、としか言わなかった。


 一体どうなるっていうんだよ……

 とりあえず僕らは父ちゃんのいる森の中心部からアナスタシア達が待つ森の入り口付近へ移動した。


「えぇと、アナスタシア、クラウディア、言いにくいんだけど……」


「どうしたんですの? レットさん」


 あぁ! めちゃくちゃ言いにくいんだけど! なんて伝えりゃいいんだよ! 部長を攫った犯人がイゾウ氏だってことを。

 どうしようか足りない頭で考えていると、ロベリアがアナスタシアとクラウディアに向けて話し出す。


「アナスタシアさん、クラウディアさん、今回の件は非常に危険だとアトロポスに言われました。それであなた方二人には命の危険に関わる可能性が高いと言われたの。だから…… 分かるわよね?」


 ロベリアがそういうと二人は俯いて「そ、そうなんですか……」と言ってロベリアに反論してくることはなかった。二人の尊敬する父ちゃんを出しに使って悪い気もするが、これが最善策だ。ナイス! ロベリア!


 僕らが今できるのは3日後に来るエックスデイに備えることしかない。

 イゾウ氏が潜伏しているであろう場所は例の別荘で間違いないとのこと。

 でもさ、イゾウさん、もっと違うやり方があったんじゃないのか? こんな、誰かを傷つけてまでやることだったんか? そんなに日本に帰ることに執着してるならなんで僕に相談してくれなかったんだよ…… おんなじ転生者じゃねえかよ。こんなガキにはなんにもできないって思われたんかな。悲しいよ……



    ◇



「イゾウちゃん、どうしてもやんの? 君、皆に恨まれるよ?」


「ワシは日本へ帰ってどうしてもやらなきゃならんことがあるんだよ。お前さんには何回も話しただろうが!」


イゾウは3人のスーツ姿の集団の一人、背の高いスレンダーな男性に話しかける。イゾウに話しかけられた彼の口からはどう聞いても女性の声が聞こえてくる。


「分かってるよ。でもさぁ、君のお孫さんとかは悲しむんじゃない? 尊敬する御爺様がこんなことしちゃってさぁ」


「アナスタシアには悪いと思っとる。でもな、それでもワシは帰らなきゃならんのだ!」


「ホント君も頑固だね。そんな昔のこともう忘れりゃいいのにさ。まぁ私はあの子との約束もあるし、君との契約もある。最後まで付き合うけどさ」


「すまんな。ホウライ。ところでお前さんの本体は近くまで来とるのか?」


「あぁ、最初は3人だけ行かそうと思ってたんだけどね、なんか胸騒ぎがしてさ。もう大分近くまで来てるよ。」


「そうか。今まで世話になった。あの部屋であいつにもお礼を言わないとな」


 ――いいさ。君の最後だ。サヨナラは直接言わせてもらうよ。


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