第46話 17ガーベラ

 奴らは依頼者から請け負った事案を確実に遂行する集団。ギルドに属さずに任務を遂行する、いわゆる野良ハンターのようなものらしい。

 メンバーは最大で17人。今現在何人いるかは不明だ。

 リーダーは女性。名前はホウライと言う。


 彼女は――


 ――魔人だ。


 ――絶望の魔人


 巷ではそう呼ばれているらしい。彼らは印象的な黒のスーツを身に纏い、任務を遂行する。男女の比率は分かっていない。見た目のインパクトがあるので、襲われた人はすぐに奴らにやられたと気づくという。


 彼らは元々中央大陸をメインに活動しているらしく、この北の大陸にまで来るなんて今までに聞いたことがないらしい。


 中央大陸で猛威を振るう二人の魔人「裏切りの魔人」と「絶望の魔人」


 ちなみに絶望の魔人はこの世界で最古の魔人だという。そんなやばい奴らに拉致されたなんて…… 部長、大丈夫なんか。どうすりゃいいんだ。


 僕はない頭を絞って、絞って、絞りつくして考えた。

 そして出た答え。てゆうか一つしかない。


 父ちゃんに助けを乞うしかない。


 僕らはすぐに父ちゃんのいる反転の森へ急いだ。



    ◇



「アナスタシア、クラウディア、二人は森の外で待ってて。父ちゃんのいる森の中心部まで行くと絶対碌でもないことが起こるから」


 二人にはこの反転の森がどれだけヤバいかを伝えて外で待っていてもらうことにした。

 二人になにかあったら大変だしね。


 森に入るとすぐに見知った顔が僕らの事を待っていた。


「よお。レット! 待ってたぞ。もうじき来る頃だろうと思ってたんだよ」


「ペルル! な、なんで僕らが来るってわかったんだよ!?」


「ペルルじゃねえだろ! 母ちゃんだろが! 母ちゃんのことを呼び捨てで呼ぶんじゃねえ! ちょっと前まで俺のおっぱい飲んでたくせに!」


 え、いや、それ今言わなくてもよくない? なんで言ったの? ねぇ、ねぇ、ホント、やめてね。泣くよ。僕。


「あ~、詳しい話は面倒くさいから置いとくとしてだな。なんかあったんだろ。あのバカ親父も待ってるから早く行くぞ」


 僕にはわかった。彼女は細かい話をするのが苦手なのだ。頭では理解していても言葉にするのは難しいのだ。まぁいい。とにかく父ちゃんだ。父ちゃんに話すのが先決だ。


「よお! おかえり! 父ちゃんが恋しくなったんか?」


「ちゃうわい! 父ちゃんに聞きたいこと、つーか、探してほしい人がいてさ。頼む! おんなじ学院に通ってる先輩なんだけど、拉致られたみたいで……」


 あぁ、と一言呟いて父ちゃんは竈にぶっ刺さって程よく焼けたトカゲを僕とロベリアにくれた。


「でけえだろ。こんなん獲れるの滅多にねえからよ。感謝して食えよ」


 いや、こんなん食ってる場合じゃねえんだけど、で、でも確かにすげえデカい。よくこんなトカゲゲットできたな。とりあえず食うか。あ、うめぇ。めちゃくちゃうまい。

 僕がむしゃむしゃ食いだすとロベリアがそれを見て若干、どころかかなり引いていた。


「レ、レット、そ、そんなの食べたら、お、おなか壊しちゃうわよ。や、やめときなさい」


「おい、ロベリア、俺がだしたもん食えねえのかよ? 食わねえんだったら帰れや!」


 そう言われて額に汗を滲ませるロベリア。父ちゃん食い物残すの五月蠅いからなぁ。代わりに食べてあげてもいいけど、絶対父ちゃんは「お前が食うな!」って言うしなぁ。


 なんとか目を瞑って、涙を溜めながらトカゲを口にするロベリア。

 何口か口にしていると、あれ? まぁまぁイケると言って普通に食べだした。



    ◇



 ロベリアがなんとかトカゲを平らげると、父ちゃんは満足げな顔をして言う。


「どうだロベリア? 森の食いもんもまぁまぁイケるだろ? お前が普段食ってるもんも、ここにある食いもんも、見た目は違うかもしんねえけど、おんなじなんだよ。まぁいいや。腹も膨れたことだし、本題な」


 そう言って父ちゃんは今回の事件について語りだした。


「あぁぁぁ、今回のはなぁ、端的に言えば犯人はだなぁ」


 ――イゾウだ。


 は? な、なんで? なんでイゾウ氏が部長を?


「まぁ聞け、レット。お前が部長と呼んでる、フィガロだっけか? その子は普通の人間にはないもんがついてるだろ?」


 え、なんだ…… 厨二病? いや、あ、あれか……


 ――闇の刻印


「そう。それだ。闇の刻印は他の刻印と違って、魔法を発動するためだけのもんじゃない。あれは異界の門を開くための触媒だ。大方イゾウの野郎はそいつを使って元いた世界へ帰るつもりなんだろう」


 た、たしかにイゾウ氏は元居た日本へ帰りたがっていた。でもだからと言って、部長を犠牲にしてまでそれを遂行しようとするなんて……

 てか父ちゃんイゾウ氏が転生してきたこと知ってたのか。

 あっ、でもそうなら一刻も早く部長を助けに行かないと!


「父ちゃん! こんなとこでのんきにトカゲ食ってる場合じゃねえじゃんかよ! 早く部長を助けに行かないと!」


「まぁ落ち着け。 まだ猶予はあるから急がなくてもいいんだよ。今行ったらあいつらと戦闘になる確率が高いしな」


 猶予があるってどゆこと?


「闇の刻印を使った儀式はいつでもできるわけじゃねえ。簡単に言えば皆既月蝕が起こる時にだけ使えるんだよ」


 あ? あぁ、月が地球の影に入るアレか。え、それっていつなん?


「ちなみに皆既月蝕は3日後だ。だからとりあえずその時まではフィガロは無事だ。だから慌ててもしょうがねぇ。それよりも厄介なのは17ガーベラ、てかホウライだ。あいつはマジでヤバいから絶対に戦うなよ」


 は? 父ちゃんがヤバいっていうなんて、どんな奴なんだよ? ん? てことは父ちゃんとそのホウライってのは知り合いなんか?


「ねえ、父ちゃん、そのホウライってヤツと父ちゃんて知り合いなんか?」


 ――あぁ、俺のもうひとりの師匠だ


 は? マジかよ……


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