第10話 え?もしかしてペットってこの子ですか?
知ってる天井だ。
そこはミューミューのベッドの上だった。どんだけ寝てたんだ? あれ、調子に乗って魔法打ち過ぎて、倒れて…… そっか、際限なく打てるわけじゃないのか、そりゃそうだよな。
ゆっくり起き上がると、地べたでミューミューが大の字になって寝ていた。下着姿で枕も引かず毛布も被ってない。この人すごいな、いろいろな意味で。
それにしてもほんと、僕どんだけ寝てたんだろ。洞穴の中だと今が昼なのか夜なのかもわかんないや。
ベッドから起き上がろうと地面に足をつく。よっこいしょっと起き上った瞬間、立っていられずバランスを崩し、ミューミューの上に倒れこんでしまった。
「ぎゃー! な、なんじゃあ!!」
びっくりして目を覚ますミューミュー。僕は受け身が取れず、ちょうどいいかんじに顔面を地面に強打して、また鼻血が噴出してきてしまった。
「おまえはアホか! 大人しく寝とらんかい! 全く、わしの言うことも聞かずに浮かれて飛び出して行きおってからに! お前、アホ! あとちょっとで死んどったんじゃぞ!」
え、マジ? あれそんなヤバい状態だったの? 体は全然痛くなかったんだけど……
「当り前じゃ! 体内にある魔力は量が決まっとるんじゃ! 魔力が切れれば死んじまうんじゃぞ! 魔力は加齢に応じて増えたり、周りの精霊からもらえたりもできるが、お前そんなん知らんかったじゃろ! ほんとに死なんかっただけ有難いと思え! このバカたれが!」
口は悪いけど心配してくれてるんだね、有難う。ミューミュー。口は悪いけど。
あ、そういえばミッちゃんがいないな。どうしたんだろ。
「ねぇ、ミューミュー、ミッちゃんは?」
「ん? あぁ、あの子なら一旦家に帰らせたぞい」
え、そうなんだ。てか僕は一体何時間寝てたんだろう。時間の感覚が完全におかしくなっちゃってるや。
「ねぇ、僕って何時間寝てたの?」
「あ? 5日くらいかのう」
え…… そんなに寝てたの? マジで? うわ、お父さんとお母さん怒ってるだろうな。どうしよう。
「お前んちにはあの子が事情を話しに行ってくれとったぞ。そんで4日前にお前の両親もここに来て、理由は話しておいてやったから心配せんでいいぞ。バカ息子をよろしくと言っとったわ。ほんとに世話のかかるアホたれが」
ほんと口悪いね、この人。でもやっぱ優しいなぁ。なんか本当のおばあちゃんみたいだ。見た目は同い年くらいかちょっと下くらいにしか見えないけど。はぁ、現世のばあちゃん元気かなぁ。
でもうちの親はよくここに僕が何日も寝てくのを許したな。普通こんな怪しい少女、信用しないと思うんだけど。まぁ実際口は悪いけど、すごくいい人なんだけど。
「ねぇ、ミューミュー、うちの親ここに僕が泊まってくのなんにも言わなかった?」
「あ? あぁ、お前の親の親、つまりお前の祖父と祖母じゃな。そのふたりのこと知っとるからな、わし。昔よく遊んでやっとったんじゃ。そのこと話しとったら安心したみたいじゃぞ」
へ? 僕のじいちゃんとばあちゃん? 僕も知らないんだけど。僕が生まれる前に死んじゃってたと思うんだけど。その二人と遊んであげたって、ミューミュー何歳なんだ??
「あの、つかぬ事お伺いしますけど、ミューミューって何歳なの?」
「あ?
え~!? マジかよ…… うちの死んだひいじいさんより上じゃねえか! どうなってんだこれ。でもまぁいいか。ここは異世界、なにがあっても不思議じゃない!
でもミューミューには感謝しかないな。体が全快したらうちに招待してなにかおもてなししてあげたいな。
「ねぇ、ミューミュー、僕の体が回復したらうちに来てよ。お礼がしたいからさ」
「あ? いい、いい。そんなんいらん。それに村には行きとうないしな。そんな気を遣うんじゃったら、この部屋でも掃除していけ! このアホたれが!」
なんか村に嫌な思い出でもあるのかなぁ。まぁいいや、無理強いすることでもないしな。よし、回復したら部屋の掃除と洗濯と肩もみでもしてあげよう。
その後、一日に一回はミッちゃんがお見舞いに来てくれて、意識が戻って初めて会った時は大泣きされてしまった。心配かけてごめんよ、ミッちゃん
――そして2日経ち……
「はぁ、もうすっかりよくなったみたい。よっしゃ! ミューミュー、掃除と洗濯と、あとやってほしいことあったら言って!」
「あ? あぁ、じゃあ薪を拾ってきておくれ。あと、そうじゃの、あいつらの世話も頼もうかの」
ん? あいつら? 誰ですか、それは。
ミューミューがそういうと、立ち上がり、どこかへ歩いて行った。そしてしばらくして戻ってきたのだが、ミューミューの後ろを何か小さいものが歩いている。
ウ~、ィヤン、ィヤンィヤン!
なんじゃ!? こりゃ。きゃ、きゃわわ! ん? でもこれどう見ても……
「可愛いじゃろ、わしのペットじゃ。ペロとペロロともう一匹はまだ名前はつけちょらん」
そこにはとても可愛らしい、どう見ても犬が3匹ウロチョロしている。
こ、これなんだっけ、たしかぁ…… あぁ! そうだ! ポメラニアンだ! しかしミューミュー、名前のセンスねぇなぁ。ペロとペロロってめっちゃ被ってるじゃん。呼びにくくねえか?
しかももう1匹は名前ねえし。
「かわいいじゃろ、わしが40年くらい前に、師匠が住んどる東の森からもらってきたんじゃ」
えっ、めっちゃ長命やん。
「ね、ねぇ、ミューミュー、あのさ、これって…… 犬だよね?」
「あ? 何言っとんじゃ! これは魔獣じゃ! れっきとした・ま・じゅ・う! でも愛玩用じゃがな」
えぇ…… 魔獣ってこんなきゃわわなのもいるんかい…… いや、でも本当かわええなぁ。
「じゃ、こいつらのお世話も頼んだぞ! わしゃちょっと寝るから!」
僕はこの時閃いた! ペットってもしかして……
「ごめん! 寝る前にひとつだけいい? この子たちってさ、育てたら強くなるの?」
「なんじゃ、うるさい、そんなもん、なるわけないじゃろ! こいつらが強そうに見えるか? バカかおまえは」
そうか、じゃあ僕のペットになる子はこの子たちではないってことか。まぁ可愛さにステータス全振りだからな、この子たち。
まぁいいや、ペットはそのうち華々しく登場するんだろう! 今はやるべきことをやろう。掃除に洗濯、薪拾いにペットのお世話。僕すげぇ、こんなこと前世じゃあ一個もやったことなかったわ。やっぱ僕ってやればできる子なんじゃない!?
そんなこんなで一日は過ぎて行った。
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