第9話 くらえっ!奥義!ファイアボール!

 おっさんが村から旅立って数か月、今日も僕は愛しのミッちゃんと共に、森へ木のみとキノコを採りに来ております。今日はついでに川に行って、お魚も採りたいと思います。


「ユカリ~! 見て! あそこにお魚いるよ~! 採れるかな~?」


 可愛くはしゃぐミッちゃん、よっしゃ! おっさんに任せとけ! いっぱい採っちゃるからな! 釣りなんてそんなアウトドアなこと一回もしたことないけどな! ナハハのナ!

 僕はその辺にあったよさそうな木を見繕って、即席の釣り竿を作る。家から適当に持ってきた糸を括り付け、その辺にいる虫を適当に持ってきて、先っぽにそれっぽくくっ付ける。


「よっしゃ! いっちょやったる! 採り過ぎてこの川の生態系が変わっちゃったらごめんなちゃーい!」


 そういって思いっきり釣り竿を振る。よしっ、イケる! なんかわかんない、根拠はまったくないけど釣れる! 僕はそう確信した!



    ◇



 あれから3時間、全く釣れる気配はない。なんでやねん! おかしいやろ! 一匹くらい釣れろや! 金返せ!

 これがバイトだったらどれだけよかっただろう。こうして釣り竿を握って、ボーっとしているだけでお給金がいただける。だが現実は違う。3時間経ってもお金はいただけない。

 現実なら3000円やぞ! とやり場のない怒りに震えていたら、なんか50メートルくらい離れたところで見覚えのある人影が見えた。


(あっ! 布の人だ!)


 急いでミッちゃんに教える。布の人の方を見ると、どうやら川で洗濯をしているようだ。たくさんの布が川辺に干してある。何枚あるのだろうか? 1枚、2枚、3枚…… 数えたら10枚もあった。あれ布の人の服だよな? 何枚溜めとんねん!

 とりあえずこの前のお礼を再度言いに、ミッちゃんと布の人の所へ行ってみることにした。


「布の人~! こんにちは! この前はどうもありがとうございました。おかげでおっさん助かりました!」


「あ? なんじゃおまえら、あ、あんときのガキんちょどもか! おぉ! そうか、あのおっさん助かったか! よかったな。さすがわしじゃな! あ、そうそう、おまえら暇じゃろ? ちょっとこの服洗っといてくれ!」


 そう言うと布の人は少し離れたところで横になりだした。もしかしてこれ僕達にやらせて自分は昼寝するつもりか? しゅ、しゅごいメンタル!


 川の中を見ると、袋に大量に入った布、もとい服がまだまだ大量に入っている。いったい何枚溜め込んでんだよ! 出不精にも程があるだろ! だがまぁおっさんの命の恩人。仕方ない。

 この人はプロの引きこもりの人だ。ここまで出てくるのにも大層エネルギーを使ったことだろう。僕にはわかる。なぜなら僕もまたプロの引きこもりだったから!


 そんなことを考えつつ、ミッちゃんとキャッキャッウフフしながら洗濯をする。あ~、楽しい、こんなクソつまらん重労働でも、ミッちゃんとするとこんなにも楽しい! あ~、恋って最高!!

 そんなかんじでだらしなく口を開き、涎を垂らしながら洗濯をしていると、布の人が徐に立ち上がり、こちらへ歩いてきた。


「おぉ、ちょうどええわ。こいつも洗っといてくれ」


 そういうと突然布の人が布を脱ぎだした。これでは只の人になってしまう。そんなことを考えていると、布の中から現れたのは――


 幼い少女だった。


 は? は? なんで? ばあちゃんじゃなかったの? いや、声は歳の割に若いですねぇ、って思ってたけどさ! どうなってんだこれは


「なんじゃ! 人のことジロジロ見て! あ~、こんな美しい美女だとは思っとらんかったんか! ひゃっひゃっひゃ! 眼福じゃろ!」


 そう言って先程まで寝ていた場所へ行き、再度昼寝に突入する元布の人。

 あれどう見ても僕たちと同い年くらいなんだけど…… どゆこと??


 カァカァ鼾をたてて速攻眠りにつく元布の人。寝るの早え。正体が気になったが、寝てしまったので、仕方なく洗濯を終わらせ、再度釣りへ戻る。



    ◇



 そうこうしている間にもう夕方。結局一匹も釣れず、しょぼくれる二人の子ども。

 暗くなってきたから帰ろうかとミッちゃんと話をしていると、やっとのことで元布の人が深い眠りから覚め、起き上ってきた。


「はぁ、よく寝た。おぉ! 坊主ども、あんがとな。乾いとるかの? よしよし」


 そういって彼女は洗濯ものを回収する。そしてこちらの方をちらりと見て……


「なんじゃ、おまえら、あんだけ釣りしとって一匹も釣れんかったのか! 才能ないの、坊主。しゃーない、家族何人じゃ?」


 へ、家族? 僕んちは4人で、ミッちゃんちは3人ですけど~、と答えると、ちょっと待っちょれ! というと元布の人は川の近くへ歩き出した。


「おりゃああぁぁぁぁっ!!」


 元布の人が大声を出すと、川面が光り、7匹の魚が飛び上がった。そして、どうやってるのかわからないが、魚を空中で操り、一纏めにして川岸まで運んできた。


「よしっ、今日の駄賃じゃ。持ってけ。ほれっ、さっさと帰らんと暗なるぞ! 帰れ! さっさと帰れ!」


 元布の人はそう言うと乾いた洗濯ものを袋に入れて、洞穴に帰っていく。


 僕は思わず元布の人に大きな声で叫んだ。


「名前はなんてゆーんですか~??」


 あ? あ~、名前は~――――


 ――ミューミューじゃ


 予想外に可愛らしい名前にちょっと拍子抜けしてしまった。



    ◇



 翌日学校帰りにミッちゃんとふたりで布の人、もとい、ミューミューの住む洞穴に行ってみる。何故かふたりとも、あの洞穴に住む謎の少女が気になって気になって仕方ないのだ。


「ねぇ、ユカリ~、あのミューミューって子、なんで一人で洞穴に住んでるんだろうねぇ」


「オ、オラ、バ、バカダ、カラ、ワガン、ネ」


「あはは~、へんなユカリ~」


 ミッちゃんは僕のクソのようなボケでも笑ってくれる。あぁ、かぁいいよぉ! ミッちゃん!

 ってまぁ本当に分からないのだが。そんなこんなで、プロ引きこもりのミューミューには悪いが、お宅訪問で、いろいろ根掘り葉掘り真相を探ってみることにした。



     ◇



 暫く歩いて、ミューミューの住む洞穴につく。洞穴の隅っこをよくよく目を凝らして見ると、小さな文字で「ミューミューの家」と書いてあった。こんなんじゃ気づかねぇよ! 小さすぎんだろ!

 暗闇でしばらくの間目を馴らしてから奥へ進む。一応松明も持ってきたが、勿体ないので使いたくない。

 洞穴の中をしばらく進むと、なにかの鳴き声がした。


 ――ィャン!ィャン!


 なんだ? この鳴き声は? 聞いたことない鳴き声なんだけど…… おじさん怖い……

 鳴き声はここから少し離れたところから聞こえてくるようで、僕は鳴き声のほうへ行ってみようかとミッちゃんに提案してみたが、ミッちゃんはミューミューに会いたい、というので、ミューミューを優先することにした。


 そしてそのまま進むと、なぜか洞穴なのに扉があった。洞穴なのに扉があった。大事なので二度言った。なんで? どーやって扉つけたの? 扉の向こう側からは明かりが漏れている。意を決して扉を開けると、そこには下着姿のミューミューが相も変わらず、毛布もかぶらずに昼寝をしていた。やはりここはミューミューの部屋だったようだ。


「ユカリ~! 見ちゃダメ! ミューミューもそんな恰好で寝てちゃダメ!」


 ミッちゃんが慌ててミューミューにベッドの下に落ちていた毛布を被せる。いや、こんなガキんちょの下着見たってうれしくもなんともないわい! あ、ミッちゃんは別ね、グヘヘヘヘ。


 そんな僕の脳内妄想をキャッチしたのか、ミッちゃんが再度僕に、見ちゃダメ! と重ねて言ってきた。だ、大事だから二度言ったのかしら。


「んあ~、はっ! なんじゃ、お前ら! わしの家になに勝手に入っとるんじゃ!」


 突然の来訪者に昼寝から突然起こされて、何がなんだか分からないミューミューに、僕らはしこたま怒られた。本当すいませんでした。


 なんとかミューミューを宥めて、遊びに来たと告げる。ミューミューは帰れ! 帰れ! を連呼していたが、二人して食い下がっていたら、そのうち諦めたのか、僕らに帰れと言わなくなった。


「なんなんじゃ、おまえら。こんなとこ来てなにが楽しいんじゃ? ここにはお前らガキんちょが遊ぶようなもんなんぞなんにもないぞ!」


「いや、ミューミューが昨日川でやってた、アレが気になって」


 あ~、と言って、魚をどうやって採ったのかを教えてくれた。ミューミューは口では帰れ! とか言ってる癖に意外と優しい。話している時も僕らに謎のお茶を出してくれた。


「あ~、あれはじゃな~、わしが食べようと思って泳がせといた魚を採っただけじゃ。わしがマーキングした魚を引っ張り上げただけじゃ」


 マーキング? なに言ってんのかさっぱりわからん


「あ~、要は魔法じゃ。魚に刻印を打って、わしの所有物として、そいつは好きな時にわしが手元に持ってこれるってわけじゃ、分かったか! このバカ坊主が!」


 酷い言われよう…… 


「ねぇ、ミューミュー、魔法ってさ、訓練したら誰でも使えるようになるものなの?僕も魔法使ってみたいんだけど」


 それを聞いてミューミューはふんっ、と鼻で笑って僕に言った。


「やめとけやめとけ! 魔法なんて使えても碌な事ないぞい。それに才能の無い奴はどんだけ鍛錬しても使えんわい。そもそも魔法なんぞ血の滲むような努力をして、仮に身に付けたとしても、報われる対価なんてたいしたことないしの」


 やっぱそんな甘い話ないよなぁ。はぁ、頭を抱えて落胆していると、ミューミューが僕の手の辺りを見て、なにかに気づいたのか、


「おい、坊主ちょっと左手見せてみい」


 え? なになに? あ、この前森で木の実とか採ってた時に土いじりしてたら痒くなって、掻きむしっちゃったんだ。なんだろ、傷口治してくれるんかな?


「お! 坊主! お前バカ坊主の分際で、刻印が浮かび上がっとるじゃないか! すごいの! こんな田舎じゃあそうそうお目にかかれん代物じゃぞ。こりゃ、え~っと、火の刻印じゃな」


 な、な、な、なんですと! それってもしかしてあれですか? とうとう僕魔法デビューしちゃう流れですか!?

 長かった、異世界転生3回目にして初めてファンタジーっぽいムーブかまします! 

いやあ、今まで辛かった! 打突! 打突! 打突! 強化! なんなの、これ、どんだけ恵まれてなかったの、僕。

でもこれで今までの全てが報われます! よっしゃファイアボールを鍛えに鍛えて、魔王城まで魔王倒しに行って、魔王倒したら魔王城奪って、そこでミッちゃんと一緒に暮らしたる! よしっ!


 はっ! でも魔法ってどうやって打つんだ? そういや前回のアホ兄上はなんか唱えてたな。全く覚えてないが。


「ねぇ、ミューミュー、魔法ってどうやって打つの? おせーて」


「あぁ? あぁ、普通は呪文の詠唱がいるんじゃが、お前の場合は火の刻印があるから指先の刻印に火のイメージを念じて、指先を対象物に向けて呪文を詠唱すればでるぞい。あ、でもな……」


 マジ!? そんな簡単でいいの!? やばい! 無双しちゃう!

 あ、でもそういやアホ兄上は普通に詠唱してたよな。てことはあいつ刻印とか言うやつは持ってなかったんか。じゃああいつ案外すごい奴だったんかな。


「よしっ! ちょっと試し打ちしてくる!」


 僕は一目散に洞穴の外へ走り出した。なんか後ろでミューミューが叫んでるのが聞こえたような気がするが、気のせいだろう。



    ◇



 外にでて、ちょうどいい広さの原っぱに来た。よっしゃ! ゆかり様の初魔法や! 森が火事にならないように気を付けて撃たないとな。


「よし、いっちょやったりますか! 指先に火のイメージを念じて、指先を対象に向けて」


 ――ファイアボール!!


 ごごごおおぉぉぉぉぉ!!!――――


 うおぉ! 出た! つうか予想よりデケえ! アホ兄上のよりかなりデカいぞ! 多分直径30センチはあったんじゃない!?

 よしっ、なんか思ったより簡単にでたな。コツを忘れないようにあと何回か打っとくか。

 僕は何の気なしに全部で合計6発のファイアボールを打った。一発一発に魂を込めるように、思いっきり念じて撃つ! 気のせいか、一発撃つ毎に火の球がデカくなってるような気がする。

あと最期にもう一発! と思って、指先を対象に向けて、火のイメージをした瞬間――


 ――ブッ!


 えっ? なに? なんの音? なにが起こったか分からず周りを見渡す。洞穴の方を見ると、ミューミューとミッちゃんが走ってくるのが見えた。


 そしてふと自分の服を見てみると、何故だろう、血だらけ……


 へ? な、なにこれ? めっちゃ血がでてるんですけど。てか止まんない。あ、これ鼻血か? え、本当に止まんないんですけど……


 あ、やば、なんかクラクラしてきた。僕は気づくと膝から落ちて、地面にそのまま倒れこんでいた。





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