第15話 君って典型的な悪役だよね

 俺の名前はバーナード・クロムウェル。このラキヤにある三大上級貴族の一角「クロムウェル家」の三男だ。

 優れた兄二人を手本に今まで剣術に勉学に励んできた。

 俺は人の上に立つ人間だ。父上にもクロムウェル家の名に恥じぬようにと、人心を掌握する術を日頃から学んできた。


 下層民共を手っ取り早く支配するには、暴力による支配が圧倒的に早い。日頃から圧力を掛け、思考する力を奪い、時々飴をくれてやる。そうすれば自頭の弱い下層民共は大抵の場合、向こうから勝手に服従してくる。

 見せしめを作るのも効果的だ。見せしめに暴力を受ける奴を見て、他の奴らは自分はそうなりたくないと、媚びへつらってくる。


 これでずっとうまくやってきた。これが支配者層の正しいやり方なのだ。

 なのに……


 あのクソ忌々しいメイフィア家の次男坊がっ!!

 あのクソ野郎が現れてから、全てがうまくいかない。あの野郎はゴミ屑共に優しくして自分の仲間として囲っている。あんなゴミ共に優しくしてなんになる? なんの生産性もない、こちらの利には絶対にならないような生きたゴミ屑共だ。


 『支配する側は支配される側に一方的に優しくしてはいけない』これは父上から賜った金言だ。被支配者層は優しくされれば、それが当たり前と感じるようになる。そうすると一度やつらに負担になるようなことがあると、支配者層に不満を募らせる。被支配者層とはいえ、数が増えれば脅威になる。

 そうさせない為にも、普段から抑圧されるのが当たり前だと認識させておかなければならないのだ。ユーカ・メイフィア! 奴にはそれがわかっていない。

 綺麗ごとだけでゴミ屑共に優しくする。そんな上辺だけのクソ野郎のことが、俺は心底嫌いだ……



    ◇



「バーナード様! 今日も大変凛々しく、神々しく御座せられますね! さすが上流貴族クロムウェル家のご子息です!」


「はぁ、そんな世辞はいらんわ。ふん、またユーカがゴミ屑共と戯れているのか、上流貴族ともあろう者が、あのような下賤のクソ共と行動を共にするなど、本当に忌々しい偽善者だぜ」


 取り巻きのマルコが何時のも如く、調子のいい世辞を言ってくる。ふん、まあいい、中流貴族の子息のマルコは上流貴族の金魚のフンだ。自分ではなにもできない、強いものに媚びへつらうことでしか奴らには生きていく道はないのだ。

 他のやつらもそうだ。だが、俺の利益になる者は重宝してやる。甘い蜜も吸わせてやる。支配者の資質とは、如何に飴と鞭をうまく使い分けれるか、だからな。

 あぁ、なんとかしてユーカを消し去りたい。蹂躙したい。亡き者にしたい。この学院から綺麗さっぱり存在を消し去りたい……

 だが奴は上流貴族の子息。父上に奴をなんとかしてくれと懇願したが、上流貴族の子息と事を荒立てるな、と念を押された。

 まぁそうだ、下手に問題ごとを起こされれば、尻拭いをするのは父上だ。そんな面倒ごとは御免被りたいのは当然のことだろう。


「バーナード君、ちょっといいかね?」


「? なんでしょう? フランシス先生」


 彼はフランシス・デュバリエ、この学院で魔法理論を教える教授のひとりだ。彼の専門は古代魔法具の発掘、鑑定。まあ要は魔法具のスペシャリストだ。そんな奴が俺になんの用だ?


「いや、実は君に折り入って頼みがあってな、次の授業が終わってからで構わんから、少し時間をもらってもよろしいかな?」


「はぁ、構いませんが……」


「よろしい。では授業後私の部屋まで来てくれ給え」


そういうと彼は教室の外へと去っていった。



    ◇



「おい! メイフィアの次男坊! 今日もゴミ屑共を従えてお山の大将気取りか!?」


「くさ、なんかくさ、なんかすんごい臭いのが来たぞ、みんな。鼻で呼吸するなよ、いいか、こういう時はな、口で呼吸するんだぞ。鼻で息したらな、死ぬぞ!」


 くそったれ! マジでむかつく。自分が上流貴族なのを良いことに、この俺様に対してあの態度だ。絶対に許さん。他の屑共とまとめてどうにかしてやりたい。剣術の模擬戦の時にボコボコにして、あわよくば再起不能にしてやりたいが、如何せん奴もそこそこ腕が立つ。

 俺は拮抗した戦いなんてしたくねぇんだよ! 相手を蹂躙してえんだよ!!


 くそっ! 俺に圧倒的な力があれば……


 あんな奴ら、直ぐに、ぶっ殺してやるのに――――



    ◇



 授業が終わり、フランシスのいる魔法具の研究室へやってきた。

 研究の手伝いとかだったらマルコ共中級貴族達にやらせるか。俺にはそんな無駄なことをやっている時間はないんだよ! クソユーカをぶっ殺す為に剣術と魔法の訓練をしなきゃあならないんだよ!


「やぁ、よく来た、座り給え。貴重な時間を割いてもらって申し訳ないな。あぁ、今回来てもらったのは、他でもない。君に折り入って頼みたいことがあったのだよ」


「はぁ、なんでしょうか?」


 くそ、絶対こいつの手伝いだ。なんでこの俺様がそんな小間使いをしなきゃあならんのだ。


「君にひとつ提案がある」


 ん? なんだ? 提案だと?


「君はメイフィア家の次男坊を毛嫌いしていたな。彼を蹂躙したくないか? 圧倒的な力でねじ伏せてやりたくないか?」


 は? こいつはなにを言っている? そんなことできるのならばとっくにやっている。


「先生、一体どういうことですか? 話が見えないのですが…… 端的にお願いしてもよろしいでしょうか?」


「あぁ、 すまない。君が疑心暗鬼になるのも仕様がない。いやな、君とメイフィアの次男とは因縁があるように見えたからな、少し協力してあげようかな、と思ったのだよ」


 くそっ、勿体ぶりやがって! なにかいい手があるんならさっさと言いやがれ!


「く、詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか? もう少し、具体的に……」


「あぁ! もちろんだとも! いやな、最近近くの遺跡で発掘した魔法具にな、少し変わったものがあってだな、それを調べていく内にその魔法具には素晴らしい効果があることを突き止めたのだよ」


 なんだ、なにが言いたい?


「その魔法具は真品がひとつ、贋品、まぁいわゆるレプリカだ、それが3つ、とある遺跡から発掘された。その魔法具は、それを身に付けた者の力を限界を超えて引き延ばす。様々な検証の結果、未来の鍛錬の結果を身に付けたものに与えるという魔法具だったのだ。真品で約100年、贋品で約10年の鍛錬の結果をその身に受け取ることができる。素晴らしいとは思わないか? 11歳の君が加齢の衰えもなく、100年分の鍛錬の成果をその身に宿すことができるのだ」


 そ、そんなことが有り得るのか!? いや、だがこいつは魔法具のプロフェッショナル、そんな奴が鑑定を間違えるとは思えん。しかしなぜだ、上流貴族とはいえ、俺はただの三男坊、教授が俺に取り入って何かメリットがあるとは思えんが……


「その魔法具を俺に渡す意図が読めないのですが。確かに俺とメイフィアの次男坊には、浅からぬ因縁があります。でもそれにあなたが手を貸すメリットがあるとは思えないのですが……」


「さすが聡明なクロムウェル家のご子息だ。君がそう思うのも無理はない。だが大した理由ではないのだよ。私は魔法具の探求家。自分が発掘した魔法具が、如何に有益か、如何に素晴らしいのかを世に知らしめたいだけなのだよ」


 なるほど、こいつの言ってることにはまぁ一応の筋は通っている。だがなにか妙な違和感が……


「さぁ、どうする? バーナード君、君がいらないのであれば他の者にこれを託そうと思っているのだが。別に君以外にこれを使いたがっている人物がいないわけではないのでな」


 くそっ、どうする、これはまたとないチャンスだが……


「ふん、もういい、帰り給え。そこまで煮え切らないなら他の者に託すとしよう。君のメイフィアの次男坊へ対する気持ちはそんなものだったのかね。見損なったよ。そんなことでは人の上に立つ支配者なんぞなれるわけがなかろう」


「待ってくれ! わかった。俺にそれを使わせてくれ! 俺がその魔法具の効果を実証する」


「そうか、いや、よかったよかった。他の者に話を持っていく手間が省けたよ。ではこれを渡そう。大変貴重な品だ。失くさないよう気を付け給え。そうだな、来週の剣術の模擬戦、たしか団体戦だったか、その時に使うといい。ただしその試合の時まではつけないように。効果が薄れてしまうからな」


 フランシスにそう言われ、俺はその4つの魔法具を受け取った。どうやら指にはめて使う魔法具のようだ。来週の模擬戦は4対4の団体戦だったか、ちょうどいい。あいつらクソ共を完膚なきまでにぶちのめしてやる。



    ◇



 ――プルルッ、プルルッ……


 フランシスが石のような物を耳に当ててなにかをしている。

 それはなにか現代の通信機器のような代物。


 ピッ――


「わが師よ、種は撒き終わりました。全ては師、あなたの計画どおりに事は進んでおります。また進展があり次第連絡差し上げます」


 石のような通信機器の向こうで男が囁く


「あぁ、ご苦労だったね。静かな水面には風が必要だ。風が無ければ波は起きないのだから。風は強ければ強いほどいい。さぁ、僕を飽きさせないでくれよ……」


 ――ゆかり

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