第4章 転生4回目
第14話 勝ち組コースに乗ってしまいました!
皆さんのご期待には添えられないかもしれません。皆さんは僕がまたどこか田舎の村へ転生するだろうと思っているかと思います、が! 今回は違います!
わたくし
今回お邪魔するお宅はな、なんと! 上流貴族! 僕はそこの次男坊です!
上に長男、僕は次男、そして姉が一人、妹が一人、そして父上、母上という布陣で今回は逝かせていただきます。
僕が転生した先は、この世界の中央大陸のほぼド真ん中にある国「トルナダ王国」の東部にある「ラキヤ」という中堅都市。
この都市はトルナダの中で第3の規模を誇る都市で、人口は推定10万人。
あと、ここに転生して来て、いろいろと分かったことがあった。
まず生まれて初めてこの世界の地図を見た。そしてこの世界にどんな国があるのかを知った。
中央大陸は大きく分けて3つの大国と6つの小国から成り立っている。
中央大陸は多少入り組んではいるが、三つに分けるように、向かって左から最も国土が巨大な国家「アリスミゼラル連邦国」、真ん中に今僕がいるトルナダ王国、そして右手に3国の中で最も国土が小さい「ディスティナ帝国」があり、あとは周りを囲むように大小6つの小国がある。
中央大陸の他に世界には4つの大きな大陸があり、それぞれ様々な国家が存在しているようだ。
一番驚いたのは、この世界には各地に魔女がおり、有名な魔女は東の森の魔女、北の反転の魔女、南の地平線の魔女、そして西の洞穴の魔女が、この世界の4大魔女と呼ばれているらしい。
西の洞穴の魔女って確実にミューミューだろ! あんな子どもみたいなナリして102歳っておかしいやん! って思ってたけどどうやら魔女だったらしい。まぁ別に驚きはしない。他の魔女もみんなミューミューみたいに優しいおばあちゃんだったらいいんだけど。
あと東の森はラキヤから東へまっすぐ進んだ先にあるらしく、ミューミューが東の森で、師匠からペロン達をもらってきたと言っていたが、多分この森のことを言っていたんだと思う。
そんで、今回は先に目標を立ててみた。まずは体を鍛えて、簡単には死なない強さを手に入れる。次にミューミューとミッちゃん、ペロンに会いに行く。
ミッちゃんたちの村へ行くには、アリスミゼラル連邦国を横断していかなければいけないみたいだけど、いつか必ず行ってみせる!
あとはできたら東の森の魔女にも会ってみたい。
あ! そうだ! エルフを忘れていた。異世界といえばエルフ! これは絶対に外せない。
僕はずっと気になっていたことがある。
エルフの耳がどうなっているかだ。マンガやアニメではわからない。エルフの耳を至近距離で観察したいのだ。できれば5センチくらいの至近距離で確認したい。
この変態があ! と罵る人もいるかもしれない。でも仕様がないのだ。たぶんこれは神様に与えられた僕の使命なのだから!!
◇
「ユーカ! 起きなさい! ユーカ!」
「あぁ、おはよう、トーカ姉様。って、まだ4時じゃん! 起こすの早いよ!」
[なにを言っているの! 昨日約束したでしょ! 早朝訓練をするって!]
僕は今11歳。もうすでに前回死んだ歳まで成長した。この歳になるまで、特にこれといったトラブルもなく、平穏無事に過ごしてきた。
今回の転生は素晴らしい! まぁ前回もそうだったが、まず家族がみんな優しい! 父上と母上は両方共人格者で、市民のこと、街のこと、そして家族のことに対して、常に真摯に向き合っている。多少父上が母上に尻に敷かれているところはあるが、そんなことはどこにでもある話だ。
父上も母上も時に厳しいが、本当に子ども思いで、尊敬に値する両親だ。
そして兄上、名はカイリ、僕の4つ年上だが、剣術の才に秀でていて、尚且つ魔法も風と水の刻印を持っている。でもそんな才能に奢らず、それをひけらかすようなこともしない。前々回のピーターとは大違いのできた兄上だ。
問題は姉上と妹だ。
現世の姉と妹とは違い、氏ねとかキモいとかは言ってこないのだが、両人ともかなり個性的である。
姉上は名はトーカ、僕の3つ年上なのだが、なにかにつけて僕の面倒を見たがる。面倒を見てくれるのはいいのだが、それが度を越している。
今朝の剣術の訓練もそうだ。昨日の夜には朝7時から行う約束だったのだが、なぜか朝4時からに勝手に変更されていた。彼女の言い分は「ユーカが強くなるために必要だった」だ。
食事でもそれは顕著だ。もっと食べないと強くなれない! と言って、大量の食事を無理やり食べさせようとしてきたり、訓練後にはマッサージが必要だ! といって、ものすごい激痛の伴う謎のマッサージを強制してくる。
あと寝る時は、僕が寝るまでずっと枕元で座っている。
怖えんだよ! もういい加減にしてっ! 大丈夫だから、僕大丈夫だから!
そして妹。名前はリーリエだ。
僕の妹はただいま10歳。僕とは年子だ。とても可愛い、見た目は。
中身がおかしい。かなりおかしい。
妹は8歳の時に指先に闇の刻印を発現させた。
その刻印はとても珍しく、この大陸でも数えるほどしかいない大層貴重な刻印らしいのだが、その刻印が発現してから、「我は闇に選ばれし者!」みたいなスタイルを貫き通している。
要は厨二病だ。その言動はとてつもなくイタい。
朝起きたら、「我漆黒の闇より目覚めし者なり! 常世全てを暗黒へ還せし暗闇の使者なり!」と言って起きてくる。彼女にとってはこれがおはようの挨拶なのだ。
朝食の時も「覇道を進みし我の血肉となりし全ての贄よ! 刮目せよ!」がいただきますだ。
妹は剣術の稽古はしていないが、常に短剣を所持していて、よくベロで短剣を舐めている。そしてたまにベロを切って泣いている。
多分バカなんだろう。
ちなみに闇の刻印は、忘れ去られた魔法と言われており、どんな魔法があるのかすらわかっていない。なので妹は闇の刻印があっても、特に普通の人と変わらないのだが、本人は自分は特別だと思っているようで、厨二病へと自らを魔改造したわけだ。
僕らは同じ学校へ通っているのだが、妹とは学舎が違うので、普段妹がどんな生活をしているのかはわからない。あんなに厨二病を全開にしていて、苛められてなければいいのだが。
そんな感じで頼れる兄上と愉快な姉妹に囲まれて、僕はすくすく育ってきた。
今日は朝の4時から姉上に叩き起こされて、剣術の稽古だ。本当は朝7時からなのだが、なにを言っても聞く耳を持たないので、仕方なく稽古に付き合う。
「ユーカ、構えなさい! 行きますよ!」
ぐおっ! うわっ! ひっ!!
姉はとにかく容赦がない。僕を強くさせたい一心でスパルタ教育を強制してくる。兄上が口を挟んでも「ユーカの為に必要なの!」と言ってやめようとしない。
姉は兄上と同じく剣術の才能に秀でていて、水の刻印を持っている。
そうだ。我が家はメイフィア家、ミドルネームに「ウォルタ」の名を持つ貴族だ。このウォルタの名を持つ者は代々水の刻印を与えられる。
かく言う僕も10歳の時に水の刻印が発現した。
前回あった火の刻印だが、なぜか薄っすら残っている。試しにファイアボールを撃とうとしてみたが、発動しなかった。
「ユーカ、今朝の訓練はこの辺で終わりにしましょう。有難うございました」
「はぁはぁ…… あざした~」
時刻は7時50分。おい! 朝食食う時間ないやんけ! 学校は8時20分からだっつーの! 速攻で着替えて家を出ないと間に合わねぇ! シャワーを浴びる時間もねぇ! くそっ! いい加減にしてくれ!
こんなかんじで姉上のスパルタのおかげか、前々回の転生の時と比べて格段に強くなったと思う。レアの打突も、訓練で10連撃まで出せるようになった。威力も前回とは比べ物にならないだろう。
ただガチャで引いた剣の極意レベル1は未だに発現していない。
そうだ! 大事なことを忘れていた! エルフレーダーだ。
こいつは2年前僕が9歳の時に、屋敷の倉を探検していた時に偶然発見してしまった。僕はもう飛んで喜んだ! やった、やった、エルフに、エルフの耳に会える! と。だが、このエルフレーダーはとんだポンコツだった。なんと探索範囲がたったの50メートルだったのだ。半径50メートル内にエルフがいたらもうすでに気づいとるわい! と僕は憤慨し、それ以来部屋の机の中に閉まってある。
「は、はわわ、が、学校に遅れちゃう~。パンを咥えてっと」
僕の今日の脳内イメージは、学校に遅れそうな食パンを咥えた女子高生だ。やはり普段の生活にはユーモアが必要だ。今まで過酷な転生生活を送ってきた。これくらいしていないと、精神が持たないのだ。だから仕方ない。仕方ないからやっているのだ。
僕は内股で学校へ向かって走っていく。学校までの道のりに角地はない。街角で誰かとぶつかってそいつと恋に落ちるなんてことはない。僕にはミッちゃんがいるからそんなのは求めていない。
ただなんとなくやりたいからやっているだけだ。
そこに妹がやってきた。妹よ、そんなにゆっくり歩いているとお前も遅刻するぞ。
妹は刻印のある左手に布を巻いて、左手を額に当ててポーズを取っている。お前にそんなことをしている時間はないと思うのだが。いや、僕にもないのだが……
「我が眷属よ! 封印されし我が忌まわしきシニストラが疼く! 我は永久(とこしえ)の眠りにつくべく、常世の居城へ帰らんとす!」
要約すると腹が痛いので、今日は学校を休むと言っている。シニストラというのは左手のことらしい。まぁ要はずる休みをするようだ。
いいだろう、人は誰しも休息が必要なのだ。
妹よ! 休むがいい。一日くらい休んでも世界は変わらない。
踵を返し屋敷へと戻る妹を背にして、僕は内股で学校へ向かう。多分僕は妹に
そんなこんなで学校へ着く。遅刻した。先生に怒られた。
僕が通う学校「トルナダ王立ラキヤ剣術学院」
この学校は剣術を中核として、剣術理論、基礎的な魔法、魔法理論、そして一般教養レベルの勉学を学ぶことのできる8年制の学院だ。
僕は8歳からこの学校に通い、特段問題もなく通っている。
僕が苦もなく通えているのはやはり、家柄の力が大きいのだろう。当然僕を標的に苛めてくるような奴はいない。でも学内に苛めがないわけじゃない。
人を苛めるやつは自分より立場や力が弱い者を苛める。自分より強い奴、立場が上の奴には媚びへつらうのだ。こういう奴は絶対許さない。
でもそれをすると今度は僕が相手を苛める側に立ってしまう可能性がある。なので、できるだけ苛める奴は相手をせずに、苛められてる奴を助けるようにしている。
「ユーカ氏! 今日も遅刻ですか。またあのドS姉上にご褒美を頂戴するなんて、ズルいですぞ!」
こいつは同じクラスのザクシスだ。この会話を聞いてわかると思うが、変態だ。彼は彼が持つ性癖を全く隠さない。故にみんなにキモがられて、苛めの標的にされていた。
家柄も下級貴族で、標的にされやすく、中級貴族の子息達に目を付けられていた。だが、会話から察してもらえると思うが、彼はドMだ。殴られても蹴られてもそれを全て快感に昇華する。
だがある日、苛めの主犯格がザクシスのアレを切り落とそうとした。多分なにをやっても、こいつなら大丈夫だろうと勝手に思ったんだろう。さすがのザクシスも泣いてやめてくれと懇願したが、それがさらに苛めを増長させた。
見るに見かねた僕は彼を仲間に引き入れたのだ。僕と一緒にいれば苛めに遭うこともない。そんな感じで苛め被害者の仲間が増えていった。
人数が増えたので、僕はこのメンバーに名前をつけた。名前があったほうがなんかカッコいいと思ったから。
その名も「エクソダス」だ。
彼以外のイカレたメンバーを紹介しよう。
「あ、ユーカさん、おはようございます。今日もクサいですね、ちゃんとお風呂入ってます? 勘弁してくださいよ、朝から。うわ、マジでクサっ」
彼の名前はジャコ。家族でアリスミゼラルからやってきた移民だ。
隣国アリスミゼラルは数年前に隣接する「セルトゥ戦線共同体」という小国と紛争状態となり、その周辺に住んでいた住民たちが大量に移民としてトルナダへとやってきた。
アリスミゼラルと友好関係にあるトルナダの中央政府は、移民を各地へ分散して移動させる政策をとり、ジャコの家族もその方針に従い、この東の都市ラキヤへやってきたのだ。
彼は会話を聞いてわかるとおり、思ったことをすぐに口に出す。オブラートに包むとかいうことは一切しない。彼は間違ったことは言っていないのだが、当然聞く人によっては不快になる言動も多々あった。
それが苛めの原因となった。
苛めをする奴に「クソださいですね」とか言ってしまうので、さらに標的にされる。そしてやはり、移民ということで、それだけで偏見の目で見られてしまっていた。彼が悪いわけではないのに……
ある日苛めをしてくる奴に「あなたなんで生きてるんですか? 世界の役に全く立ってないですよ。死んだほうがいいんじゃないですか?」なんてことを言ってしまった。
わかる! わかるよ! 言いたくなる気持ちは。でも相手はそれを聞いて、ぷちんっ! ときてしまったようで、ジャコのことを複数でボコボコにしてしまった。
だが苛めの主犯格が上級貴族だった為、その事実は闇に葬られてしまった。そんなことをもう見て見ぬ振りもできず、僕と友達になって一緒に行動するように言ったのだ。
内心彼が僕のことをどう思ってるかはわからない。嫌っているかもしれない、綺麗ごとばっか言う上級貴族が! って思ってるかもしれない。これは僕のただの自己満足だ。
「あ、あ、あ、ユ、ユーカさん、お、お、お、おは、おはようございま、す…… えへへ、きょ、今日も、かっこいい、ですね、へへへ」
彼女はルーナ。教会に住む戦災孤児だ。彼女もアリスミゼラルとセルトゥの紛争の犠牲者で、ジャコ達と同じ経緯でこの都市にやってきた。
彼女は実は奴隷商に飼われていた奴隷で、紛争のあおりを受けて襲撃された奴隷商の邸宅から命辛々逃げ出してきたのだ。そして難民となり、今に至る。
身寄りのない彼女は教会が身元引受人となり、そこに住むことになったのだが、首の後ろに奴隷の証として、刻印が刻まれていた。
普段は首にスカーフを巻いて隠していた奴隷の刻印が、ひょんなことから周りにバレてしまい、苛めの恰好の標的にされてしまったのだ。
クソ共は彼女をまるで自分の所有物のように扱い、殴る蹴るなどの暴行や、酷い暴言を吐くなど、日常的に酷い苛めを繰り返していた。
後は他のメンバーと同じ流れだ。苛めていたやつらから彼女をなんとか引き離し、以降僕と一緒に行動を共にするようになった。
ちなみに教会の孤児達は、全員メイフィア家が学費を援助している。そのこともあってか、ルーナは僕のことをとても慕ってくれている。学費を援助しているのは、僕の両親であって、僕は彼女になにもしてあげられてないのだが、彼女はそれでも関係ないと言ってくれる。
彼女の奴隷の刻印はもうすでに消したのだが、やはりこの世界の技術では綺麗に傷を消すことはできず、今でも痛々しい傷跡が残っている。
くそ、異世界転生してきて、かっちょいいバトルや、美しく広がる幻想的な世界での冒険ばかり夢見てきたが、見たくもない現実を叩きつれられた感覚だ。前回までの転生は転生先が田舎の村だったということもあり、そういう目を覆いたくなるようなものを見ることは早々なかったが、やはり都市は違う。
でもきっと僕が元いた現世でも、知らなかっただけで、こういった世界がどこかに存在していたんだろうな。
いつものメンバーが揃って、和気藹々と談笑していると、とある集団が教室に入ってきた。
件の苛めのリーダー格、バーナード・クロムウェルとその取り巻き共だった。
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