第65話 待ち焦がれた冒険の旅
屋敷へ戻りすぐに旅の支度を始める。持ってくもんは服を一着と寝袋くらいでいいか。食い物は道中でなにか狩ればいいだろう。
慌ただしく準備をしていると、ロベリアがドでかい荷物を引きずりながら部屋へ入ってきた。
「レット! 私はもう準備オッケーよ! いつでもいけるわ!」
え、ロベリアも行くつもりなんか!? あんなデけえ荷物持って…… 遊びじゃないんだけど……
「あ、あのさ、ロベリア、僕旅行へ行くわけじゃないんだけど。危険なことがたくさんあるからロベリアは留守番しといたほうがいいと思うんだよね……」
やんわりロベリアが旅についてくるのを阻止しようとしたんだが、これがどうやら彼女の逆鱗に触れたらしい。
「あなたが危険なところへ行くのなら私も行くに決まってるでしょうが! なんで今更そんなこと言うのよ! この4年間散々お姉ちゃんのお世話になっておきながらぁ! 温厚なロベリアさんもいくらなんでも怒るわよ!」
「ご、ごめん、さっきのなし、取り消す。ただ僕はロベリアを危険な目に遭わせたくなかっただけで……」
「わかってるわよ。レットが私の為を思って言ってくれてるのは。でも大丈夫よ。あなたが修行していた間、私もデカに色々身を守る方法を教えてもらってたんだから! だから私の事は心配しなくても平気なんだからね!」
え、デカに修行を? 知らんかった、自分のことで精いっぱいでロベリアが影でそんな苦労をしていたなんて。ロベリアそんな素振り
「あ、でもさロベリア、そのでっかいキャリーバックはなしね。邪魔になるから。適当な背負える鞄にしてね」
「え、マジ?」
やっぱこの人半分くらいは旅行気分だったな……
◇
「いいかい? 旅の大まかなルートを説明するよ。まず今私達がいる北部大陸ボレアス王国のほぼ中央部に位置するリオネースから、最南端にある商業都市サウロスまでは鉄道があるから問題ないが、そこから先の隣国アイジタニア天命国からは楽な移動手段はないに等しいね。まぁ馬車かなにかを道中でチャーターするしかない。途中に危険なポイントもいくつかあるから注意が必要だ」
デカに今回の旅のルートについて説明を受ける。
アイジタニア天命国か。名前を聞いたことくらいはあるけどどんな国なんだっけ? たしかなんとかっていう神様を崇拝してる国だった気がしたけど。
「ねぇ、さっき出てきたアイジタニア天命国ってどんな国なの?」
「あぁ、あそこは世界の三大神の一柱『アイテイル』を崇めている宗教国さ。まぁそこまで教義にストイックな国でもないから、よほどアイテイルを侮辱でもしなければなにも問題ないよ。ちなみにあの国の海沿いにある都市の名物で、あの辺で獲れる大型の海棲魔獣の腹の中に海鳥を詰めた発酵食品があるらしい。現地へ行ったら食してみよう」
え、なにそのヤバそうな名物…… ぜってえ食いたくないんですけどぉ!
あ、そういや昔、最初にこの世界に転生してきた時にも三大神の話を聞いたことがあったけど、ってそうだよ! 僕の最初の名前は三大神のひとりトンズラが名付け元って言われたんだけど! あれ? 他の神様の名前はたしか……
そうだ! 忘れもしねぇ、タンソクとヌスットだ! 三大神にひとつも掠ってもいねえじゃねえかよ! どうなってやがるんだ! どうせなら最初の名前アイテイルがよかったよ。
「ねぇ、僕どっかで聞いたんだけど、この世界の三大神ってトンズラ・タンソク・ヌスットなんじゃないの?」
「なに言ってるのよ! レット! そんなふざけた名前なわけないじゃない! この世界の三大神はアイテイル・ユピテル・ジェンドよ」
ふ、ふざけた名前…… ですよねぇ。ちなみに僕昔そのふざけた名前だったんです。なんてことは口が裂けても言えるはずもなく……
「レット君面白いこと言うね。それってたしかこの世界の最西端の大陸にある国の方言だよね。私も行ったことがないから噂程度にしか知らないけど、たしか狂戦士の村があるとか」
え!? それってまさに僕が最初に転生した村なんじゃないの!? で、でも狂戦士なんて大それたかんじの人はひとりもいなかったけどな。噂が噂を読んで尾ひれを付けてしまったってところかな。
「話が逸れたね。さっきの続きだが、アイジタニアの最南端に位置する港町オセミタで定期船へ乗りアリスミゼラル連邦国へ赴く。そこからは陸路だ。大まかなルートは把握してもらえたかな?」
うーん、長旅だ。一体どれくらいの日数がかかるのか見当もつかないな。
「ねぇ、この行程はどれくらいかかるの?」
「そうだね、2か月もあれば余裕でつくんじゃないかな。慌てても仕方ないし、途中でその街その街の名物でも味わいながら行こう」
なんだよ! この人完全に味の旅感覚じゃねえか! ま、まぁいいや。そりゃ僕だって地域の美味しいものに舌鼓を打つのも吝かではないしね。
「よしっ! じゃあ出発は明後日、午前8時に出発としよう。君たちもこれから長い旅になるんだ。挨拶しておきたい人だっているだろう。ではまたここで集合することにしようか」
たしかにそうだ。父ちゃんにもラヴァにもしばしのお別れの挨拶をしてこなくちゃな。お世話になった皆にも一言言ってくるとしよう。
というわけで出発は明後日! いよいよ僕がこの世界で待ちに待っていた冒険の旅が始まるのであった。
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