第95話 破られた絶対防御
「おやおや、お仲間見殺しのお嬢さん方じゃないの。デカが恨んでたわよ、うふふふふっ」
森で出会い、デカの身を挺した特攻によって辛くも逃げ切った相手。ホウライと同じく元女神という、僕ら人間とは次元の違う存在。
「な、なんでここにお前がいるんだよ?」
「えぇ? それはねぇ、あはっ、あんたはなんでそんなとこでサボってんのよぉ?」
彼女が指をさした相手、それは……
「デカが世話になったな。別に仇をとろうとは思わんが、お前がしゃしゃり出てくるなら俺も黙ってみてるわけにはいかないな」
光のドームの外へ、群青色の霧の中へ足を踏み込む男。
「ノナ! どうする気だ!? 霧の中に入ったら……」
霧の中へ突入した瞬間アコナイトの斬撃がノナに襲い掛かる。その凶刃がノナの腹部に突き刺さる、だが……
「お前程度の攻撃は俺には効かない。無駄だ」
ノナへの攻撃、腹部への致命傷かと思われたアコナイトの斬撃は、ノナの能力によって瞬時に回復していく。
ノ、ノナ! すげえ! あれも逆行の力なのか? で、でもそんなことできるならなんでもっと早く……
「あははっ! お嬢さんも怪しんでるわよぉ? なんでそんな力があるならもっと早く助けてくれなかったんだ? ってね」
ぐっ、だ、だけどたしかに疑問が残る。一体どういう意図があったっていうんだ?
「お嬢さん、話は簡単だよ。そいつはねぇ、ホウライに止められてたんだよ」
はぁ!? ど、どういうことだ、なんでホウライが……
「ホウライのクソブスはお前を鍛える為に試練を与えたんだよ。それなのにそこの木偶の坊が全部片づけちゃったら意味ないだろぉ? 要はそういうことなんだよぉ!」
そ、そんな、それが本当ならホウライは、あいつは僕を鍛える為なら多少の犠牲も止む無しって考えてるってことか? これまでに何人が傷ついて、何人が死んだと思ってるんだよ……
「分かった? お嬢さん、あのブスは聖人君子なんかじゃあないんだよ。なあ? あいつの庇護下から出て、あたしたちについてくるんならお嬢さんだけは助けてやるよ。どう? 魅力的な提案だと思うんだけどさぁ」
「ふっ、ふ、ふざけんな! そんな話に乗るわけないだろうがぁ! 僕らはここでアコナイトをぶっ倒して森へ帰るんだよ!」
「あ~あ、結構いい話だと思ったんだけどなぁ、まあいいや、そうなりゃ力づくで服従させるだけだし。あ、そうそう、お前のことはよ~く知ってるからなぁ。レット君、いやぁ、違ったかな……」
な、なんだ? よく知ってるって、こいつが僕のなにを知ってるっていうんだよ。
――えぇと、前の名前はユーカ君だったっけぇ!?
っ!? な、なんでこいつがそのことを知ってるんだよ!? どういうことだ? な、なんで……
「え、ど、ど、どういう、こと、ですか!?」
光のドームの中でトーカ姉さまを膝に抱えていたルーナが突然立ち上がり、困惑の表情を浮かべている。
「どういうこと、って言葉のまんまだよぉ。そいつは転生に転生を重ね続けて、何回も何回もおんなじ時を繰り返し続けて今日まで生きてきた奇特な子さぁ。前回の転生の時の名前はユーカ・W・メイフィア、だったっけぇ? 要は君の大好きなユーカ君の成れの果てだよぉ」
アーテーに暴露され事実を聞かされたルーナ。困惑の表情から一気に目に涙を溜めて、今にも泣きだしそうな表情をしている。
当然驚愕の事実を聞かされたロベリアも唖然とした表情を浮かべていた。そりゃ当然だ、同じ転生者とは知っていたけど、僕が何度も転生を繰り返しているって話はまだしていなかった。できることなら僕の口から彼女に伝えたかった。
「ルーナ! 黙っててごめん! あとでたくさん謝るから! 君の質問に全部答えるから! 今はこいつだ! こいつとアコナイトをなんとかしないと!」
「は、はい!!」
目に溜めた涙を拭い、大きく頷くルーナ。
だがそうはいったものの、どうする? どうすればいい? この絶望的な状況の打開策が見つからない。
「なぁんだ、もっと修羅場が見れるかと思って期待してたのにぃ、つまんねえの。まぁいいや、おらっ、魔人、適当にこいつら殺せよ。あたしはそこの木偶の棒やるからよぉ」
――くっ、くそったれがぁ! 魔人って呼ぶなぁ! 俺の名前はアコナイトだぁ! 言われなくても全員皆殺しにしてやるよぉ!
逆上して闇雲に剣撃を繰り出してくるアコナイト。よしっ! 今ならロベリアの反射が効く! 光のドームを背にアコナイトの剣をギリギリのところで避ける。避けた先にある光の防御壁に剣撃が触れると先程と同じように講堂内をアコナイトの悲鳴が響いた。
――ギャッ、アッアッァァウゥ、ガッ!
「こいつマジ使えねえなぁ、おい、専門家! あれ消してやれよぉ!」
専門家? 一体こいつは何を言っている?
しばらくすると群青色の霧の中からアコナイトではない、どこかで聞いたことのある特徴的な声、それも女性の甲高い声が聞こえてきた。
――え~、しょいつに協力すんのいやにゃんだけどにゃ~、しゃ~にゃいか~
女が喋り終えると、ロベリアが発動していた光のドーム、絶対防御かと思われた僕らの最終防衛ラインが飴細工を軽くハンマーで叩き割るかのように……
一瞬にして粉々に砕け散った。
う、嘘だろ? アコナイトの霧を防ぎ、ドームへの攻撃は全て反射していたロベリアの、いや僕らの切り札が…… ああも簡単に壊されるなんて……
――もおあたち帰るからにぇ、あんまその子たちの可哀相なとこ見たくにゃいし~。じゃあにぇ~。
「あんのやろう、勝手に帰りやがった…… まぁいいや、とりあえずその死にかけから潰しとくかなっと」
なっ!? なにする気だ!?
アーテーの発した言葉の意図、長引く戦闘の中で思考力の低下した僕の頭は、ヤツの言った言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまった。
「おらっ! まずは右足だ!」
アーテーがそう言うと、腕を負傷し横たわっていたトーカ姉さまの右足が突然メキメキと音を立てて捻じれていく。
「アッ、アッ、アッ、ギャッ……」
「ト、トーカ姉さまぁぁ!!」
「あははっ、た~のしっ! やっぱ弱者を
トーカ姉さまに続いて今度はテオ達、ビジランテのメンバー全員が両目を押さえて悲痛な叫びをあげる。両手の隙間からは鮮血がタラタラと滴り落ちる。
「おいっ! クソ魔人! なにボーっと見てんだよ! てめえもさっさとやれや! 本当に使えねえ! なんならてめえから殺すぞ!」
――あ、あぁ、わかってるよ! やってやるよ! 全員殺してやるよぉ!
ど、どうすりゃいい? ここで3ピースを撃つ? でもアーテーに効くのか? もし効かなかったら? アコナイトは霧化している、多分姿が見えないと3ピースは当たらない。一体どうすれば……
答えが出ない。なにか起死回生の手はないのか? このままじゃトーカ姉さまが死んでしまう。それだけは、それだけは絶対嫌だ、僕の命を捧げても、姉さまだけは助ける。
死を覚悟してホウライに止められたあの魔法を撃つ覚悟を決めた瞬間、あの男が口を開いた。
「レット君、ROSEを左手に嵌めろ。火の刻印じゃないぞ。もうひとつの刻印にだ」
え?
――水の刻印を使え
ノナの意図は分からない、フリーズした僕の脳は彼の言葉に素直に従うしかなかった。
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