第21話 どうする?このあと、いっとく?
模擬戦から1週間が経った。今日までにいろいろあった。
まず試合後にバーナードが模擬戦で不正をしていたことが発覚した。それも仲間3人を
話はそれだけに留まらなかった。ヤツは国で指定されている、第一級禁忌物を使用していた。それは生贄3人を犠牲にして、強大な力を得るというとんでもない代物だった。
そしてヤツは拘束される間際に二人を殺害、そして逃亡し、指名手配となった。
まさかあいつが、そこまでの人でなしだったとは思わなかったぜ。お互い立場や考え方の違いはあっても、話せばきっと分かり合えると思っていたんだが、僕は甘かったんだろうか。
ちなみに模擬戦を担当していたエリスクレア先生だが、決勝戦辺りからの出来事を全く覚えてないらしく、何者かからの精神攻撃を受けていた可能性があるとのことだ。その件は未だ調査中だ。
そしてバーナードの仲間3人。マルコはまだ他の二人に比べて比較的軽傷だったみたいで、左手の一部が腐り落ちて、魔法でも、もうどうにもならない状態らしいが、日常生活に問題はないらしい。だが残りの2人はもう廃人同然の状態だそうだ。治療を試みているそうだがどうなることか。
なんでだよ。バーナード。たかが模擬戦じゃねぇかよ。そこまで誰かを犠牲にしてお前はなにをしたかったんだよ。僕が気に入らなかったんなら、僕に直接決闘を申し込んでこればよかったじゃねぇかよ。
――お前の考えてることがちっともわかんねえよ。
◇
いろんなことが起き過ぎた。でも日常は進んでいく。
本当なら模擬戦優勝の祝勝会でもやりたいところだったが、さすがにそんな雰囲気でもない。
さすがに僕もその辺の空気くらいは読む。今回ばかりは無理だ。祝勝会は無理だ。
こんな状況で祝勝会でもやろうものなら、各方面から批判の嵐だ。
「ゆ、ユーカくん! しゅ、祝勝会を、開きま、しょう!」
――へ?
ルーナさんの鶴の一声で祝勝会を粛々と執り行うこととなった。
彼女は僕が放った一撃に
まぁ~、僕も本当は祝勝会とか~、やりたかったから~、うれしいんだけど~。
「あはは、すっかりよくなりましたよ。皆さんご心配おかけしました。」
ジャコの怪我もすっかりよくなり、支障なく祝勝会に参加できる運びとなった。
「はうぁぁ! ま、またあのドS姉上の容赦ないし、し、シゴキを受けられると思うとぉ! もう今からテンション上がりまくりですぞぉ!!」
今回大活躍したザクシスも祝勝会の開催を心から喜んでいるようだ。
でも今回は祝勝会だから姉上の稽古はないよ、残念だったね。
「は、はわわぁ! ゆ、ユーカくん! じ、実は私、料理が、と、得意、なんです! 今度のしゅ、祝勝会はわ、私の、て、手料理を、振舞い、ます!」
いや、楽しみだなぁ。そういや、前に料理が趣味とか言ってたもんね。ルーナの手料理かぁ。じゃぁ僕もみんなに僕の渾身の手料理でも振舞おうかなぁ。
そうして、みんなと別れて一人で廊下をプラプラしていると――
――楽しそうじゃないですかぁ!
な、なんで指輪使ってないのにでてこれんの!? リリムさん。
――うん、これめっちゃ疲れるんだぁ! だからちょっち指輪つけてぇ!
はい。
そう言われて僕は指輪をつける。すると女神リリムの姿が突如として目の前に現れた。
「やっほ~! 元気してたぁ? ごめんねぇ。ひとつ言うこと忘れててぇ! ん~とねぇ、指輪なんだけどぉ、いっつもつけてるとぉ、ユカリン死んじゃうからぁ、形を変えてぇ、他のとこに付けといてほしいんだぁ! オッケ~?」
どゆこと?
「んも~、ユカリン察し悪~い! そんなんじゃ女の子に嫌われ・ちゃ・う・ぞ! んっと~、このROSEってぇ、指につけなければ体に影響はないんだぁ。だからぁ、あたしは考えました~! ピアスにしちゃえっ! って!」
え、ピアスとか穴あけんの嫌なんだけど……
「だいじょぶだいじょぶ~! ちゃんと安全ピンと氷持ってきたからぁ!」
なにその前時代的な開け方! 嫌! ちゃんとしたやつで開けて! それ絶対外法でしょ!
「へ~き、へ~きぃ! じゃ、行くよ! それっ!」
あいたっ! ってあんま痛くなかったわ。
「オッケ~! じゃ、ROSEをピアスに変換するねぇ! ん~っと、ドクロがいいかなぁ」
え、や、やめて! めっちゃ厨二じゃん! 絶対リーリエに突っ込まれるやん!
「え~、じゃあぁ、ネコちゃんにしよ~っと!えぃっ!」
え、ネコちゃん? え、え、それもちょっと嫌なんだけど……
そうして僕の耳にはネコ型ドクロのピアスが埋め込まれることとなった。
◇
――そして祝勝会当日
ピンポーン
え~、ちょっと待ってよ~、今下着姿なんだけどぉ、う~ん、彼ぴのロンT着てるからこのままでいいか~、は~い!
「ゆ、ゆ、ユーカくん! 優勝おめでとうござい、ます!」
いやいや、ほとんど君がいたおかげだからね。
「ユーカ殿! 拙者もう興奮で一昨日から寝ていませんぞ!」
そうかそうか、いますぐ寝るといい。すぐに寝床を用意するからね。
「お邪魔します。うわっ、相変わらずここだけクサいですね、あ、ユーカ君いたんですか。すみません、気がつきませんでした」
はーい、いらっしゃい。
宅配便が来た時、下着姿だったが、構わずにそのまま出てしまう女子大生を演じながら、皆を出迎えた。さぁ、みんな、今宵は祝勝会だ! 今日くらいは稽古もなしだぞ! みんなで楽しもう!
「ゆ、ユーカくん! きょ、今日は皆さんに、私の、て、手料理を食べて、い、いただこうと思って、ざ、材料を持ってきま、した!」
うんうん、打ち合わせ通りだね。ちゃんと使用人のアルビオンさんにも伝えてあるから大丈夫だよ。ちなみに僕もお手製の料理を振舞おうかと思ってます。お楽しみに!
「皆さん、いらっしゃい。模擬戦優勝おめでとうございます。優勝は素晴らしいけど、これに慢心しては駄目よ。特にユーカ、あなたはすぐに調子に乗るのだから――」
あぁ、あぁ、わかったわかった。姉上の小言はわかりましたぁ。でも今日は祝勝会! 姉上はそこらへんでスクワットでもしててね~。
「よしっ! まずは食事だ! みんな、僕とルーナは準備があるから、テーブルで全裸待機していてくれっ!」
僕とルーナは二人で厨房へと向かう。ルーナが持ってきた袋には今日の食材がはいっているのか、その袋をよく見てみると、気のせいだろうか。
「る、ルーナさん? あの~、なんかその袋さ~、めっちゃゴソゴソしてることない?」
「? え? あ、はい!!」
元気のいい、はい! をいただいてしまった……
っておい! 一体なに持ってきたんだよぉ。僕心配になってきたんだけど……
「ユーカ様、ルーナ様、今日はどのような料理を作りなさるおつもりで?」
使用人のアルビオンが聞いてきたので、僕は自信満々に答えた。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。僕が今日みんなに振舞うのは、厳密にいえば料理じゃないんだけどぉ、よ~し、目ぇよ~くかっぽじって見やがれ! これだっ!」
かっこいい啖呵を切って僕が取り出したるは、これ! 自家製の「醤油」だ!
「な、なんですか?そ、それ?」
「あぁ、僕が自分で作った調味料だよ。なんにかけてもおいしくなる魔法のソースさ!」
「さすがユーカ様です」
「す、す、すごい、です! ユーカくん」
ははは、いやいや、そんなに褒めないでくれたまえ。まぁ僕ほどのレベルになると、醤油くらい自分で作っちゃうんだよねぇ。
「で、ではっ、次は私のりょ、料理、です! 新鮮な材料が手に、は、入ったので!」
ほうほう、一体どんな料理を振舞ってくれるのかなぁ。楽しみだなぁ。でもちょっと不安だなぁ。さっきのゴソゴソは一体なんだったんだろうなぁ。
「じゃん! ラキヤ赤トカゲ! です! こ、このと、トカゲものすごく、お、おいしいんです。私が昔、す、住んでたとこにいた、と、トカゲとよく似ているん、です!」
え、う、嘘やろ? ルーナさん? いや、トカゲをディスるわけではないけど、いや、トカゲより美味しい料理いろいろあるやん? え? トカゲ? ここで? え?
「ユーカくん、た、楽しみにしといてくださいねっ! あ、あと裏の山で採ってきた新鮮な、しょ、食材もありますので、付け合わせに一緒にだ、出しますね!」
小さい袋に入ってる、彼女が言う付け合わせの食材も、なんかゴソゴソ動いていた……
い、いや、え?マジで? 付け合わせとか山菜とかでよくない? 動物性たんぱく質のトカゲに、さらに動物性のなにかをプラスすんの?
あぁ、みんなごめん、僕にはあんなにニコニコしてるルーナを止めることはできないよ。
そして食事会の運びとなった。
「いやぁ、ルーナ氏が手料理を振舞ってくれるなんて拙者悶絶死しそうですぞ!」
「実は今日これを楽しみにしてたんだよね~。ユーカくんの手料理はぜんぜんなんだけど」
みんなすごい期待しているみだいだね。うんうん、僕の家族たちも皆楽しみにしている。だよね、ルーナの料理だもん、きっとすご~くおいしそうなのが出てくると思うよね。
言えない! 僕には言えないよ! あんなのとかあんなのとかがでてくるなんて!
「お、お、お待たせしま、したっ!」
おぉ! めちゃくちゃうまそうじゃないか!
――えっ!?
「ラキヤレッドのソテー、クリーミーバグソースを添えて、です!!」
えっ、えっ、どゆこと? え、あれがこれでこーなって…… どゆこと!?
「あ、アルビオンさんが、こ、こうすればさらにおいしくなりますよって教えてく、下さったんです。そ、素材そのままでも十分おいしい、んですが、しゅ、祝勝会です、ので!」
あぁぁん! アルビオンさんあなた、なんて有能なの!? もう嫉妬しちゃう! びくんびくん!
ルーナの料理に皆で舌鼓を打ち、やっと真打登場と相成った。
「やぁ、皆さん、お待たせしました、お待たせしすぎたかもしれません。いよいよ今宵のメインイベント、ユーカ・W・メイフィアの渾身の一品、どうぞ! ご賞味くださいませ!」
「あぁ、ワシはそろそろ風呂に入ってくるとしよう。ご学友はゆっくり食事を楽しんでくれ」
「「あら、あなたがお風呂に行かれるなら私も先にお風呂に行かせていただきましょうかね。ルーナさんも後でいらっしゃいね。待ってるわよ」
「あぁ、父上、僕も一緒にお供いたします。ご学友、どうかごゆるりと!」
「では私は道場の掃除をしてくるとしよう。皆さん、ごゆっくり」
「あ、あ、あ、わ、我、我も……」
――おい、リーリエ、お前は食うよな
「ひぃぃぃぃぃ!」
「今回僕が作ったのは魔法のソース! いろいろな具材をじっくり煮込んで煮込んで、煮込みまくりました。栄養価もたっぷりだからね。煮込んだあとはしっかり発酵させて、うまみも十分ひきだしてあるから。なんにかけても美味しいんだけどぉ、今日はデザートにかけて召し上がってもらおうかな」
みんなの前に次々と置かれていくおいしそうな果物達。
「ゆ、ユーカ殿、このソースすごいでござる! 虹色に光っているでござる!」
「君にそんな特技があったなんてね。只のクサい男じゃなかったんだね」
「ゆ、ユーカくん! りょ、料理のできる、だ、男性、す、素敵です!」
「ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃ!」
さ、召し上がれ。
◇
どうも僕の魔法のソースは、みんなの口にはあまり合わなかったみたいだ。あ! ルーナだけ「ちょっと変わった味ですけどおいしい、です!」って言ってくれた。やっぱりルーナはいい子だなぁ。
リーリエだけは泣いて嫌がるんで、無理やり口を開いて一口食べさせたら僕の顔に思いっきり吐き出しやがった! あいつにはもう作ってやんねぇ!
楽しい楽しい祝勝会は後編へ続く!
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