第5章 転生5回目

第32話 反転の森の魔女

 あ~、だり~、なんで俺が森の見守りしなきゃあいけねえんだよ! 俺ぁ、ここの主だぞ。ったく…… 


 あんっ? なんだこれ? う、うわ、これ人間の赤ん坊か? っんとにひでえことすんなぁ。こんなとこに置いてったら死んじまうだろーがあ! あ~、どーすっかなぁ。


 あ~! くそっ! しゃーねぇなぁ、連れてくかあ……



    ◇



 なんか今回の転生は今までと違って、僕には本当の父親と母親はいないらしい。

 僕は赤ん坊の時に森に捨てられて、そこに偶然森の見回りで通りがかった父ちゃんが僕のことを拾ってくれたのだった。

 僕には父ちゃんと二人の母ちゃんがいる。

 僕は現在10歳。学校には行っていない。父ちゃんが学校なんて行かなくても別にどうってことないって言うし、僕自身も12歳を越えるまではこのまま森に閉じこもって居ようと思ってたから丁度よかった。


「おい! レット! おめぇもメシ作るの手伝えや!」


「ほーい! 父ちゃん! 今日なに作んの?」


「あぁ? うーん、なんにすっかなぁ。トカゲのスープと~、山菜の炒めたやつでいっか!」

「い~ね~ 母ちゃんたちは?」

「あぁ? あぁ、あいつらなら街にでも行ってるんじゃね?」


 前回までは食うのを躊躇っていたトカゲも今ではご馳走だ。虫も貴重な栄養源だ。別にうちに金がないわけじゃないけど、森から頂いたものは嫌がらずに食べるってのが我が家の基本ルールなのだ。


 僕の今の名前はレット、いんや、これは本名じゃなくて本名が長いから省略してるだけだ。まぁ愛称だ。


 本名はヴァイオレット。


 なぜか今回薄紫色の髪の毛、そして紫色の瞳、こんな風体だから父ちゃんがそう名付けてくれた。


 そして今回今までと一番違う点……

 なぜだかわからない、わからないが……


 ――僕は女の子だった!


 あ、ありのまま起こったことを話すぜ。「僕は自分が男の子だと思っていたのに女の子だった」な、何を言ってるのか分からねぇと思うが、僕も何を言ってるのか分からない。頭がどうにかなりそうだった。


 そんなかんじで今回の転生で僕は女の子になってて、物心ついた時、トイレに行こうとしてがないのに気付いたのだった。女の子の体を見放題だってのに、自分の体じゃ全くムラムラしないのはなぜだろう。これは経験したことが有る人にしか分からないだろう。


 僕の現状はこんなとこだ。

 次は僕の家族の紹介をしよう。


 実は僕の父ちゃんはこの世界でかなりの有名人だった。僕も名前だけは前回の転生の時に聞いたことがあるほど、この世界中に名が知れ渡っている。


 僕の父ちゃんの名前は……


 ――反転の魔女アトロポス


 父ちゃんは基本、いつもフードを被っている。家族といる時も。そんで僕はずっと父ちゃんは男なんだと思っていた。当然だ。父ちゃんだしね。声は高いが、自分のことを「俺」と言うし、普段の仕草も完全に男のそれだ。父ちゃんが女だと気づいたのは、父ちゃんと初めて風呂に入った時。

 父ちゃんは風呂が嫌いで、滅多に入らないのだが、たまたま一緒に入るか、という話になり、初めて父ちゃんの裸を見た時はオッたまげた。父ちゃんにもがついてなかったのだ。

 ちなみに父ちゃんはエルフだ。これが他人で、女性のエルフだったら、多分僕は飛んで喜んだだろうが、この人は父ちゃんだ。ハッキリ言って裸を見ても全然うれしくなかった。だから耳もじっくり見ていない。次に訪れるであろうその時までお楽しみは取っておくことにした。


 父ちゃんの話によると、父ちゃんは元々男だったらしい。それが、東の森の魔女に弟子入りした時に、男では魔女になれないと言われ、東の森の魔女に女にされたらしい。

 それが数百年前の話だという。

 というわけでうちの父ちゃんもなかなか波乱万丈な人生を送ってきたようだ。


 メシの準備をしているとうちの母ちゃん二人が街から帰ってきた。


 一人目の母ちゃん


 ――ラヴァ


 スカーレットドラゴンで、巷では「ブラスト」と呼ばれて恐れられている。

 ラヴァという名前が示すとおり、燃え滾る溶岩ラヴァのような赤茶色の長い髪の毛が腰下まで延び、いつも白いチュニックのようなワンピースを羽織り、タイツを着用している。

 彼女は数百年前の大戦で、相手国の一部を蹂躙し、その時の戦闘でその地には相手兵士たちの血の嵐が降り注いだらしい。それでブラッドストーム、略してブラストと呼ばれるようになったそうだ。

 でも本当は、穏やかな性格で、対戦の時も、この北の大国、「ボレアス王国」からの要請で、無理やり戦場へ駆り出されたらしい。

 そのあと紆余曲折あって、ここ反転の森で暮らしているという。

 ちなみに普段は人間の恰好をしていて、街の人達からは畏怖の念を持って接しられているみたいだが、程々に良好な付き合いをしているようだ。


 次に二人目の母ちゃん


 ――ペルル


 彼女は一言で言って、おバカだ。いや、いい意味で、なんだが、まぁ手っ取り早く彼女をどんな人かと説明すると、そうなる。

 彼女には、食う、寝る、ケンカする、僕を愛でる、の四種類の行動しかない。


 彼女は元々メラニアだ。


 なにを言っているか分からないかもしれないが、そうなのだから仕方ない。

 彼女は元々父ちゃんこと、反転の魔女アトポロスが、東の森からもらってきたメラニアの中の一頭だったそうだ。それがこの反転の森の呪いで、なぜかペルルだけが獣人化したという。

  薄緑色の髪をなびかせ、頭上には獣人特有のふさふさな毛に覆われた耳が生えている。臀部にはフワフワの尻尾、腕から足にかけて薄い体毛で覆われている。

 獣人と言っても顔は人間とさほど変わらない。自分の母ちゃんにこんなことを言うのもなんだが、見た目は美しい。まぁしいて言えば少しきつそうな顔立ちだけど。

  歳は現在60歳くらいらしいが、見た目は人間で言うと20代後半と言ったところだろうか。ついでに言うと、彼女はいつもラヴァと自分のどっちが第1かあちゃんかでケンカしている。


あ、あとついでだが、メラニアが12匹いる。相変わらずとてもかわいい。


そんなかんじで僕は一人の父ちゃんと二人の母ちゃんの4人と12匹の魔獣とで楽しく暮らしているのだ。




※2月25日ペルルの容姿について加筆・修正を行いました

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