新しい仲間
これ……何なの?
今日だけで一体何回こんな気持ちになったのだろう。
この場に私が居ること自体、ごめんなさいと言いたいくらい場違いなのに、あろうことか……私の力!?
「今のあなたにはどんな攻撃も通じない。全てこの鳥……『万物の石の力』によって」
ライムが重々しい口調で言う言葉も、思考回路がショート寸前の私の脳内を素通りしていた。
万物……なんだって?
「もう一つアドバイス。後ろの赤毛に向かって手を差し出して」
私は操り人形のように、ライムの言うがまま背後の赤毛の男性に向かって右手を伸ばした。
すると、青い鳥の一部から光が伸びて彼の身体にを包んだ、
そして……
「君……何をした?」
赤毛の彼が信じられない物を見るような目で私を見て言った。
彼の腹部にあった見るも無惨な傷が綺麗に消えており、蒼白だった顔色も鮮やかさを取り戻していた。
「今のりむは全ての攻撃を防ぎ、全ての傷を治す」
ライムが得意そうに胸を張って言った。
「身体が……動く」
赤毛の彼はそうつぶやくと、すぐに立ち上がり私の隣に来た。
「君が何をしたのかは後でゆっくり聞かせてもらう。今は目の前のアイツらだ。力を貸して欲しい」
「え? 力って……」
「よく分からないが、今までやったことを続けておいて欲しい。それで充分だ」
そう言うと彼は、3人の男達に向かって斬りかかった。
それは思わず見とれてしまうほどの動きだった。
まるで何かの舞を見ているような、流れるような動きだった……
あの動きに加え、目の前の状況に混乱している3人の男達では赤毛の彼の相手にならないことは火を見るより明らかだった。
瞬く間に2人は血を流しながら倒れ、残るは真ん中にいた指示を出していた男性のみ。
「何と言う……これは」
男性は明らかに恐怖の色を浮かべているようだった。
じりじりと後ずさりをしている。
そりゃそうだよね……どう見ても勝てそうにないもん。
ライムの言うとおりなら、何をやってもダメなんだし。
「俺を倒しても、お前への追っ手は止まんぞ。必ず……地の果てまでも……」
そう言うと、男は後ろに走り出そうとしたけど、急に糸の切れた操り人形の様に倒れ込んだ。
その直後、右手の藪の中から弓を持った男性が出てきた。
皮で出来たような鎧を身につけた、黒いウェーブのかかった長髪の男性だった。
その男性は深くてよく響く声で言った。
「すまない、オリビエ! 遅くなった」
「遅い! エールおごれよ」
赤毛の人、オリビエって言うんだ……
赤毛……オリビエと呼ばれた人は、黒髪の男性に向かって笑い混じりで言った。
「そう言うな。目当ての地図は手に入れた。お前の方はどうだ?もう一方の地図は」
「俺は……手には入れたが、不覚を取りそうになった。だが、彼女に助けられた」
え? 私の……事?
だが、私はそれに答えることは出来なかった。
ふと我に返ると、先ほどまでの恐怖の時間。
そして、生まれて初めて目の前で人が……切られた。
そんなこんなのショックによって、目の前がスーッと幕が下りるように暗くなり……そのまま倒れた。
あれ? おじいちゃん?
ふと、私はおじいちゃんに膝枕をされている事に気付いた。
見上げると、おじいちゃんの優しい笑顔が見える。
そして、隣にはテンが嬉しそうに鳴きながら尻尾を振っている。
良かった! 生きてたんだね!
……良かった。
でも……何故かお酒臭い。
すると、テンが急に「ずるいよ、りむ。私も飲みたい!」と女の子の声で言い出した。
え? テン?
すると、おじいちゃんが私の口にワインの瓶を入れようとしてきた。
「おじいちゃん! 私、未成年!」
ハッと目を開けると、目の前にオリビエと言われてた人の顔があった。
あれ?この感触……
状況を理解した私は、心臓が跳ね上がりそうになった。
何とオリビエさんに膝枕をしてもらっていたのだ。
そして、私を見下ろすオリビエさんの顔は……ギリシャ彫刻のような美しい顔に炎のような赤毛。
そして、宝石のような深い青色の瞳にじっと見つめられており、それが何とも……色っぽかった。
「やっと目を覚ましたか。よかった」
オリビエさんはそう言うと、私の口に水筒くらいの皮の袋を差し出した。
「飲むといい。気付けになるからな」
袋の口から漂う匂いは……ブランデー!?
「あ、あの! 私、まだ未成年なので」
「ミ……セイネ? 何を言ってるか知らんが上等なブランデーだぞ。いらないのか。まあ、見た感じ子供のようだから、酒は好まないか」
「構うな。嫌がる者に無理に進めることはない。もう元気になってるようだしな」
もう1人の黒髪長髪男性の言葉で、オリビエさんは革袋を引っ込めた。ホッ。
「あ~あ、あんないいブランデーめったに飲めないのに。バレないから飲んじゃえ飲んじゃえ」
ライムがさっきからとんでもないことを言っている。
「ねえ、あなた『私を守るためにいる』って言ってたけど、さっきから変なことばっか言ってるじゃない」
「え……いやいやいや! そんな事無いって! それに、もう何百年りむの世界にいるんだから、色々興味くらい出るでしょ」
私がムッとしながらライムを睨んでいると、オリビエさんが心配そうに言った。
「おい、君は……誰と話してるんだ?」
えっ?
驚いてライムの方を見ると、ライムは慌てて両手を合わせて謝るようなそぶりをした。
「ゴメン! 言い忘れてた。私、りむ以外の人には見えないし、声も聞こえないから」
「嘘!」
それは先に言って欲しかった……
じゃあ、オリビエさんからは私は独り言言ってる危ない女の子じゃない!
……こんなイケメンの人からそんな目で見られるのは……キツい。
「あ、あの! ご免なさい。まだ頭が混乱してたから……でも、今はもう大丈夫です」
「そうか、ならいいが。それはそうとして……さっきは有り難う。君のお陰で助かった。あそこで君が飛び込んでこなかったら俺は今頃……」
「あ……いえ、そんな……事」
私はドギマギしながらつぶやいた。
彼の顔がすぐ間近に……しかも、膝枕はまだ続いているのだ。
「あの……もう、起きれますので。有り難うございました」
「そうか、なら良かった。だが、無理はするな。君は恩人だ」
「ふむ、じゃあ私からもぜひお礼を」
黒髪長髪の男性はそう言うと、私のそばにしゃがみ込んだ。
「私はブライエ・ディア。こっちのオリビエとは子供の頃からもう20年近くの付き合いだ。今は訳あって一緒に仕事をしている。コイツを助けてくれて有り難う。心からお礼を言わせてもらう」
「あ……私は……山本りむです。16歳です。よろしくお願いします。その……ブライエさん」
私の言葉にブライエさんは無表情に言った。
「ブライエでいい」
「お前は何でそんなに無愛想なんだ。もっと笑え、鉄仮面! 彼女、怖がってるぞ」
「……ふん」
「ゴメンね。コイツ悪い奴じゃないけど、ホント社交性ゼロだからね。所で君、変わった名前の発音だね。『ヤマモト』が名前? 『リム家のヤマモトちゃん』って事なのかな?」
あ、そうか。名前の発音もコッチは外国の呼び方なんだ。
私が名前の呼び方を説明すると、オリビエはすぐに理解した。
「なるほど。君の国では名字と名前が逆なんだね。つまり君は『リムちゃん』と言うことか。じゃあ改めてよろしく、リムちゃん」
オリビエはそう言うと、ニッコリと笑って手を差し出したので、私はおずおずと握った。
温かい手……
「あ……よろしくお願いします。オリビエさん」
すると彼は笑顔のままで言った。
「オリビエでいいよ。俺は26歳だから君とはかなり歳も離れてはいるが、敬語も使わなくていい。少しでもリラックスしてもらいたいしね。こっちの鉄仮面にも敬語はいらないから」
「好きにしろ」
うわあ、ブライエとか言う人何か……怖そう。
だが、この人もオリビエ……と同じく、よく見るとかなりの美形だ。
オリビエが野性的で男性的な美しさとするなら、ブライエさんは均整の取れた女性的な美貌だった。
よく見ると、ライムも西洋人形のように可愛らしい。
タイプはそれぞれ異なるが、私はさっきからまるで「容姿端麗」と言う名前のシャワーを浴びているように思えて、恥ずかしくなった。
私は正直言って、顔もスタイルも十人並みのどこにでも居る容姿だ。
ああ……私、ここに居ていいのかな?
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