リムと悪の華(6)
歪んだ笑みを浮かべながらゆっくりと話すサラの姿が涙でぼやける。
どうすれば……
「そうね。確かにあなたには勝てない」
アンナさんの突然の言葉に私は目を見開いた。
「アンナさん!」
「すいません、ヤマモトさん。私では彼女には勝てない」
「あれれ? 降参なの? 何企んでるの? ちなみに本気だったらあなたの膝を砕いてからリムちゃん八つ裂きにするけど」
アンナさんはそれを聞きながら、皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「あなたには勝てないわ。だって私には無能な娘のおねだりに強い武器を与えるパパもいないし、困ったときに助けてくれるライム様もいないんだから」
その途端、サラの顔が右半分だけ歪んだ。
「は?」
「あ、聞こえなかったかしら? あ~あ、私にも頼りになるパパといつでも泣けばあなたを助けてくれるライム様がいたらな~って言ったの」
「……弓! そしてお前ら! 殺せ!」
その直後、サラは表情を歪めてムチを全身を使って振った!
そしてアンナさんは……そのままサラに向かって走り出した。
剣を構えず、両腕で頭を覆うようにして。
アンナさんは体中にサラのムチを受けて、あっという間に血まみれになった。
そして、背中に3カ所も矢が刺さったけど、構わずにそのままサラの懐に飛び込んだ。
「そんなに血が好きなら……あげる!」
アンナさんはそう言うと、血まみれの手をサラの顔面に張り手のように叩きつけた。
「ああっ!」
サラは顔が血まみれになり、目を押さえて苦しみながら尻餅をついた。
「ふっ!」
アンナさんはその直後、剣を構え直してそばに迫っていた2人の手下の間を、流れる水のような動きで軽やかに舞うと、2人は首から血を吹き出してその場に倒れた。
「はっ……はあ……は……」
「アンナさん!」
ムチを受けて全身血まみれで、さっきの腕と足のも合わせて5カ所も矢が刺さっている……いくら革鎧を着けてると言っても。
口からも血が出ていて、本当に立っているのがやっとと言う感じだ。
早く……お医者さんへ!!
でも、アンナさんは声を振り絞るように言った。
「クロノ……ヤマモトさんを連れて……逃げろ」
私はクロノさんを見た。
クロノさんも私を何か言いたげに見ている。
さすが、弱いけど鋭い!
私とクロノさんは同時にアンナさんの所に行くと、それぞれ腕を掴んだ。
「行こう!」
「私は……歩けません。ご迷惑……」
「しゃべると傷口が開く! 黙って!!」
「……はい」
私の剣幕にアンナさんはポカンとしながら返事した。
その直後、アンナさんの背中に2本の矢が飛んでくるのが見えた。
私は気がつくと、その矢の方に飛び込み、その直後左肩に焼けるような痛みを感じた。
1本刺さったんだ……
「ヤマモトさん!」
「ヤマモト!」
「……大丈夫。何でも無い」
「何でも無いはずが……無いです……なんで」
「何でも無いったら何でも無い! アンナさんの方がずっと痛いじゃん! いっつもいっつも……痛いじゃん……」
最後の方は泣き声になっちゃった……
「……貴様ら、私も矢を腕に受けたのだがな」
「あ……だ、大丈夫……ですか?」
「痛いぞ! 馬鹿者! ……今度ジャイアントボアーのステーキを奢れ」
私は頷くと、アンナさんを無言でおんぶした。
右肩は目眩がしそうに痛いけど……大丈夫。
「ヤマモトさん……私……血まみれで……汚れちゃいます」
アンナさんの消え入りそうな声が背中から聞こえる。
私は顔を後ろに向け、アンナさんを見た。
おぶっているので、彼女の顔が触れそうなほど近い。
そんなアンナさんの血が滲んでいる瞳を見ながら、私は
「汚くないよ……あなたは誰よりも綺麗」
そう言うと、クロノさんと共に駈けだした。
だけど、目の前の地面に鋭い動きでムチが叩きつけられた。
驚いて振り返ると、サラが血まみれの顔に憎悪に歪んだ表情を貼り付けていた。
「予定変更。……アンナ・ターニア。あなたから八つ裂きにする。死を願うくらいに。私の顔を汚しやがって……しかも尻もちまで……苦痛の中で詫びろ」
「だったら私をやりなさい! アンナさんは絶対下ろさない!」
「ヤマモトさん、下ろしてください……」
私はアンナさんを無視して続けた。
「この弱虫のかまってちゃん! 一対一じゃ戦えないくせに。今度は動けないアンナさん? 弱虫! 弱虫!」
「何? この女。面白くないんだけど……弓! 撃って!」
サラはそう言うとムチを振り上げようとしたけど、突然動きを止めて後ろを振り返った。
え……? なに?
ポカンとしているとサラの背後に剣を突きつけていた少女が姿を見せた……
あの……黒いゴスロリは!
「ライム……貴様……なんで」
「サラ様、おままごとの時間は終わりです。特別に延長してあげたけど、ここまで。お城に戻らないとお父様に𠮟られちゃいますよ?」
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