リムと悪の華(5)
「間に合って良かった。怖い目にあわれて……もう大丈夫ですよ」
「アンナ! そいつはサラ・ザクター。ラウタロ国国王の娘だ。……というか、熱は大丈夫か! 他の奴らは!」
「体調は……大丈夫です」
アンナさんはそう言うけど、顔色がここからでも分かるくらい青白い。
コルバーニさんやブライエは?
「よし、やっと来たね! 遅い遅い! 待ちくたびれた〜。手下どもにはアンナ・ターニアを逃がせ、って言ってたけど、ちゃんと言うこと聞けたみたいね。エラいエラい。今度、リムちゃんをいじめる様子を見せてあげよう」
「それでか。やけに包囲が手薄だと思ったが。それにヤマモトさん達の現在地まで伝えていたしな。あれが打ち合わせ無しなら能なしにも程があると思っていたが」
「怪しい。明らかに罠だ。と、思いながらもリムちゃんを救いに来る。アンナちゃんはそういう子。だから大好き! そうそう、何でわざわざ来させたか分かる? そこの弱っちいおじさま?」
「……貴様の嗜虐趣味のためだろう。馬鹿が」
「わっ! 正解。そうそう。だって楽しいじゃん! 大好きな人を目の前で八つ裂きにされるのを、何も出来ずに泣きながら見る。そんな子を観察するのって、ワクワクする。ねえ、人が一番輝くのって感情が爆発するときなんだよ。特に負の感情。怒り、絶望、恐怖……」
そこまでサラさんが言ったところで、アンナさんが弾丸のような早さで飛び込んだが、サラさんは軽やかに飛び退いた。
そして、その直後アンナさんに3方向から弓矢が飛んできたけど、アンナさんは素早くそれらをたたき落とした。
「周辺の住民もお前の仲間か……」
クロノさんが苦々しそうに言う。
え!
驚いて見回すと、周囲の家の窓からクロスボウだけが見える。
「当たり前でしょ。罠だって言ったじゃん。でなきゃこんな所でベラベラしゃべってムチ振り回さないって。おじさまやっぱお馬鹿」
そう言うと、サラはニンマリと幸せそうな……まるで沢山のケーキを目の前にした子どものような笑顔で言った。
「……さて、アンナ・ターニア。周辺3カ所近くから飛ぶ弓矢。私のムチ。2人の手下。さらにリムちゃんを守りながら。これで……勝てるかな~? 負けたらあなたを動けなくして、リムちゃんを目の前で泣き叫ぶくらいいじめちゃうよ」
「弱い犬ほど良く吠えるというが、本当ね。怖いのを隠してるんじゃなくて?」
アンナさんは平然と言い放ったけど、サラはクスクスと口を押さえて笑った。
「それそのまんまお返し! 私、人間観察大好きなの。ごまかせないよ~アンナ・ターニア。あなた……怯えてるでしょ?」
私はアンナさんを見たけど、氷のように冷静に見える。
「アンナちゃん冷静すぎ……不自然なくらい。なのに視線は巧妙に周囲を見回してる。悟られないよう周囲の情報を集めて活路を見いだそうとしてるんでしょ? 正確にはリムちゃんとおじさんだけでも逃がせるような……無理だけどね。極めつけは、動く視線の最後に毎回リムちゃんの指輪を見ている。あんなギャンブルみたいな指輪の力を意識するほど怖がってるんでしょ? 自分はリム・ヤマモトを守れないかも知れない……って」
アンナさんの表情に全く変化はない。
また足引っ張ってる……いっつもだ。
アンナさんやコルバーニさんが頑張ってるのに。
私は胸が潰れそうな気がした。
「そんな可愛いアンナちゃんにアドバイス。その剣……刀身にヒビが入ってるよ。私のムチってね、パパに頼んで作ってもらった特注品なの。結構固いよ! 後1回受けたら折れちゃうかな~。どうしようね?」
サラが言うやいなや今度は4カ所から矢と……サラのムチが飛んできた!
「ふっ!」
アンナさんは2本たたき落としたけど、同時に飛んできたムチを避けるときに2本右肩と右の太ももに刺さってしまった。
「アンナさん!」
私は駆け寄ろうとしたけど、目の前にムチが飛んできて足が止まった。
「あなたの出番はまだ! 順番抜かしはダメだよ……悪い子は嫌い! ってか凄い凄い! 流石コルバーニちゃんを上回る天才と言われてるだけあるね。驚きの反射神経と判断力! 順番間違うか、矢を全て叩き落とそうとしてたら顔にムチを受けるか、首に矢が刺さってたよ! あ、それと弓矢は3カ所って言ってたけど間違えちゃった! 実は最大5ヶ所! ゴメンね〜」
私は祈るように指輪を見るけど……指輪は光る気配も見せない。何で……
「あ、リムちゃん! 言うの遅れたけど、その指輪ね……すり替えてたの」
サラはそう言うと懐から指輪を取り出した。
「え……」
呆然とする私にクスクス笑いながらサラは言った。
「さっき手を握ったときよ。私に見とれてたでしょ? 浮気性も大概にしないとコルバーニちゃん泣いちゃうよ? コルバーニちゃんとオリビエは新たに到着している追加の連中と戦闘中じゃ無い? あの2人は殺害の許可を出してる。だからあなた達は……終わり」
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