正しい者の味方
「やめて……やめてったら!」
私はそう言うと、ワンちゃんを二人の前に送ろうとした……けど、その途端まるで手品のように消え去った。
え……なんで。
「リム。今ペンダントを持ってるのは誰?」
私はハッと気付いた。
そうだ……ライム。
「さて、次は……」
ライムはそうつぶやくと、ペンダントをサッと弧を描くように身体の前で回すと、そこから霧のようなものが出てきて、アンナさんを包んだ。
「何を!……これ……」
「アンナ・ターニア。自爆なんてされたら迷惑なの。火薬は濡らした。万一石が破損したら大変でしょ。あと、言っとくけど自らを犠牲にすることが愛情なんて思ったら大間違い。本当の愛情は人に嘲笑されてもその人のために生き抜くこと」
「生き……抜く……」
ライムがしゃべり終わるのを待っていたかのように、リーゼさんはクロノさんにまるで弾かれた球のように飛びかかろうとした。
「やめて!」
それを見たとき……私の足が勝手に動いた。
もう……嫌だ!
これ以上……居なくならないで!!
気がついたら、私はリーゼさんとクロノさんの間に飛び込んでいた。
そして……気が付いたらリーゼさんの剣に向かって手を出していた。
……切られちゃう!!
「リーゼ、剣を止めて!」
ライムの声にリーゼさんは、目を見開いてその場に止まった。
「あなた……『残渣』が……汚染されてる」
「違うわリーゼ。彼女は支配している。驚くことにね。残渣が彼女を守っている」
ライムの言葉にふと自分の腕を見ると……
「え……なに?」
私の……手首から……石が。
私の右の手首を無数の小さな青い宝石のような物が覆っていた。
5センチ×5センチくらいの大きさのそれはまるで鱗のようにも見えた。
思わず悲鳴を上げた私に向かって、リーゼさんは嬉しそうに表情を崩した。
「凄い……アリサにも無かったのに。やはりあなたは選ばれし者! 絶対あなたには覚醒してもらうわ。世界のためにも!」
言い終わるやいなやリーゼさんは、私に向かって剣を振り下ろしたが、今度はオリビエが防いでくれた。
「俺が相手するよ」
「レッスンの邪魔をしないで……うっとおしいのよ雑魚」
「女の子へのスパルタは嫌いだね。雑魚かどうか試してみろよ」
そう言うとオリビエは力強く切り込んでいった。
凄い……リーゼさんにも負けてない。
リーゼさんは後ろに飛び退くと言った。
「さっきの小娘よりは楽しめそうね」
「どうも。アンナ先輩より才能は遙かに劣るが、経験だけはあるからな。あと俺の剣は結構自己流だぜ」
「どうりで太刀筋が読みにくい訳ね……いいわあ、面白そう。と、言っても私、騎士道って邪魔くさいと思うタイプ」
そう言うと、ライムが横に来た。
「オリビエ・デュラム。引きなさい。私とリーゼではあなたも分が悪いでしょ?」
「悪いな。俺はこう見えてひねくれ者なんだ……2人で来いよ」
その時。
私の目にクロノさんに向かっていくブライエさんが見えた。
「止めて! ブライエさん……もう嫌だよ……なんで」
私は話しながら涙が溢れてきた。
みんな……なんで。
「私……間違ってたの? 私は……みんな大好きだった。石なんてどうでもいい。世界なんて……どうでもいい。……ブライエさんを返して! おじいちゃんを返して! ライムを……返してよ! 返して! 返してってば!」
最後の方は涙で声にならなかった。
でも止まらない。
「リム・ヤマモト……まだ遠いか。だが、ライム様のためにも覚醒してもらう」
リーゼさんはそう言うと、オリビエの脇をすり抜けて私に斬りかかってきた。
来る!
私は目を閉じたけど、リーゼさんの剣は来なかった。
恐る恐る目を開けると……クロノさんの手から水色の小さな鷹が出て、リーゼさんの剣を咥えていた。
これ……一番最初に私が出したのと……おんなじ。
「子供は嫌いだ。いつでもやかましいしすぐに泣く。だが……子供を泣かせる大人はもっと嫌いだ」
その直後、オリビエがリーゼさんに斬りかかったが、リーゼさんはすぐに反応し防いだ。
「気が合うなおっさん。後半は俺も同意見だ」
「誰がおっさんだ。お前も消すぞ」
オリビエとクロノさん……
ふと、近くに目をやるとそこではアンナさんとブライエさんが見合っていた。
「ブライエ殿。ヤマモトさんをお守りするのでは無かったか? 我ら2人で」
「お守りする。そのためにラウタロ国へ来て頂く。リム様はライム様の元でこそ安寧な日々を送れる」
「……お前には失望した」
アンナさんはそう言うと、剣を構えなおした。
ブライエさんも上段に剣を構える。
その時。
突然、地面が軽く揺れると鈍い音と共に、下から何本もの木が伸びてきた!
え? え? 何?
その木は私たちそれぞれの前に伸びていて、みんな身動きが取れなくなっている。
訳が分からず焦っている私の耳にライムの声が聞こえた。
「はい、ここまで。とりあえず万物の石を1つは手に入れた。それで充分。これ以上今のこの子たちから得るものは無いわ。リーゼ、ブライエ。引き揚げ」
ライムの言葉にリーゼさんもあっさり剣を納めた。
「全てライム様の仰せのままに。アリサもあれからちっとも変わってなかったし。リム・ヤマモトなんて、思い通りに行かないからって癇癪起こすお子ちゃまじゃない。あなたには万物の石はもったいない。頭にきて投げ飛ばす積み木じゃ無いのよ?」
「確かにそうね。リーゼ、ブライエ、行きましょう。悪い子たちへのお説教はここまで」
「仰せのままに。じゃあねお子ちゃまたち。あ、でもまたすぐに会えるかも……そうそう! オリビエ・デュラムって言ったわね? あなたの事覚えとくわ。結構好みのタイプかも」
「悪いな。俺はもうちょっと童顔の可愛らしい子がタイプだ」
「……あなた、ロリコン?」
呆然とする私をライムは冷ややかな目で見ると言った。
「リム、覚えておいて。私は……いつでも正しい者の味方。あなたがこれを言葉通りに取る愚か者で無いことを願うわ。そしてアリサ。あなたはまた間違うつもり? 大きすぎる責任のためには時に切り捨てるべきものはある」
「そんな事……できない……」
「でもしなければならなかった。あの時……あなたはユーリを生贄にすべきだった。それが石を無効化出来る最後の機会だった。でも、あなたは……出来なかった。ユーリを1人の女として愛してしまったあなたには。あなたの意志に任せた私にも責任がある。だから今、別のアプローチを進めている。邪魔は許さない。あなたは特にね」
愛し……コルバーニさん。
私は思わずコルバーニさんを見ると、大粒の涙を零しながらライムを見ていた。
「ユーリは……私の全てだった。殺せると思う?」
「アリサ。あなたは世界と愛する人を天秤にかけて愛する人を取った。その結果が今なの。誰か救われた? リムにも言ったけど『選ばれし者』とは学芸会の主役じゃない。目的のためには家族や愛する人さえも切り捨てる事が必要な事がある。話は追試を受けれるくらいになってから。
私とユーリが与えた温かい
そう言うとライムはリーゼさん、ブライエさんと共に去って行った。
「まってよ……ライム……ブライエさん! ねえ!」
私はその後ろ姿に向かって喉が張り裂けるほどの大声を出した。
けど……誰も振り返ることは無かった。
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