わたしのお姉ちゃん
その夜。
道を外れた森の近くに馬車を停めて、野営をした私たちはみんなが寝静まった後、言われたとおりコルバーニさんとライムと共に馬車の中に入った。
「ここならいいかな」
そうつぶやくと、コルバーニさんは淹れたての珈琲の様な香りのする飲み物を出してくれた。
「ささ、遠慮せずに」
「頂きます……」
出された飲み物はまさに珈琲そのものの味で、懐かしさと
「さて、今から話すのはズバリ昼も言ったように『ユーリのもう一つの罪』」
私は心臓が大きく高鳴るのを感じた。
いよいよだ……
「単刀直入に言うと、ユーリのもう一つの罪は『私を
「生け……贄」
「うん。私がこの世界に来たとき、ユーリから血を飲まされた、って話ししたよね。あれは万物の石の溶け込んだ血なんだよ。そう。ユーリは自らの体内に万物の石を取り込んでいる。理由は知らないけどね。私の不老不死は石の力」
コルバーニさんはそう言うと、ライムの方をチラッと見た。
ライムは無表情で淡々と話し始めた。
「私、りむに嘘ついてたの。万物の石の真の力は『持ち主の具体的に望んだ物や現象を実体化する事』具体的にイメージさえ出来れば、車でもコンピューターでも……核兵器でさえも可能」
「核兵器……」
何なの、それ。
「そう。ランプの魔神の時、りむが出した赤い犬。あれはりむの憎しみが具体化したためにそのイメージに最も近い存在として出た。以前の青い鳥もそう。『誰かを助けたい』『誰かを傷つけたい』そのイメージはハッキリと強く持ったけど、具体的物質のイメージは無かったからああなった。もし、りむが銃とか戦車や手術室をイメージしてたらそれらが出てきた」
「具体的……イメージ。と、言うことはおじいちゃんは……」
「恐らくユーリは、万物の石に対して『自らの時間を、りむの居た世界の時間に対して早める』事をイメージした。理由は……恐らく自らの存在を役目が終わり次第葬り去るため」
「何で……何でそんな事を!」
「それは絶対言えない。私とユーリのこの世界での最後の仕事だから。そしてこの世界とりむの世界へ果たすべき最後の責任だから。りむやコルバーニさんは巻き込めない。だから、ユーリを見つけたらあなたたちとはお別れ」
「そんな……」
訳が分からない。
そんな大きな話しをいきなり言われても……
「ゴメンね。こんな引っ張る感じで。さ、コルバーニさん。どうぞ」
「オッケー。妖精ちゃんの水くさい考えに従うかはさておき……ユーリは私に血をあげる際『不老不死』をイメージした。だからそうなった。なぜか? ……あなたを守るためだよ、リムちゃん。私はあなたの守護者として助けられたんだ。あなたをこの剣で守り、力が暴走しそうなときは体内の万物の石の混じる血の力によって打ち消す。そのためにね」
「え……」
「あ、そんな顔しないでって! それには納得してるし、助けられた事には感謝してるんだ。ユーリはいつかあなたがこの世界に来ることを予見してた。その時にあなたが何かに巻き込まれる可能性のある事も。その時にリムちゃんを守れる存在は絶対必要なんだよ」
私はコルバーニさんの顔を見ることが出来なかった。
私のためにコルバーニさんの人生を……
それに、おじいちゃんがそんなことを。
「誤解しないでね。ユーリはリムちゃんの事もライムの事も、そして私の事も大切に思ってくれてる。私を助けた後、ユーリは泣いてた。そして『全てが終わった後、君の力で私を殺しても構わない』と。そんな気ないけどね」
コルバーニさんはホッと息をついて、珈琲を飲んだ。
「その後の道中、ユーリからはずっとリムちゃんの話を聞かされた。写真も見せてくれたよ。……私、実は孤児でさ。赤ちゃんの時に児童養護施設の前に捨てられてたんだって。だから両親や兄弟の愛なんてファンタジーの世界。親からもらったのは『高木亜里砂』って名前だけ。それが辛くて、周囲に心を閉ざしてた。この世界に来た切っ掛けも、全てが嫌になって死んじゃおうと思って、海に飛び込もうと思った時なんだ。そこの近くの図書館をユーリが建てたってのを、後になって聞いたんだけど」
え?
じゃあ……コルバーニさんはご近所さんだったんだ。
「でも、いざこっちにきて魔物に襲われたとき……そして死にかけてる時は怖かった。だから、ユーリに助けられた事。そしてその後に一緒に旅したこと。そして、コルバーニ夫妻……私の父ちゃんと母ちゃんに会わせてくれた事は凄く感謝してる」
そう言った後、コルバーニさんは私を見てニッコリと微笑むと言った。
「何より、リムちゃんの事を教えてくれたこと」
「わた……し?」
「うん。道中でユーリからリムちゃんの事を本当に色々聞いたよ。怖がりだけど、優しくて真っ直ぐな強い子。子犬の事も聞いた。写真もいっぱい見た。そのうち、私もリムちゃんの事が自分の妹みたいに思えてきて。ずっと妹がいたらな……って憧れてたから。で……ゴメンね、勝手に話しちゃった事だけど、ユーリからこの世界にもしリムちゃんが来たら守ってあげて欲しい、って言われて嬉しかったんだ」
「コル……バーニさん」
「もし、嫌じゃ無ければ私をこの世界に居る間だけでいい。お姉ちゃんと思って欲しいな」
そう話すコルバーニさんは、どこか不安そうだった。
こんな顔をするコルバーニさんは初めて見た。
私は……
「私……一人っ子だったんです。……私も、お姉ちゃんがいたらな、って。憧れてた」
コルバーニさんは私をじっと見ていた。
不安そうな顔で。
「私……コルバーニさん大好きです。私こそ、お姉ちゃんって思ってもいいですか」
コルバーニさんは恥ずかしそうに微笑むと、そのまま私をギュッと抱きしめた。
「リムちゃん、一度でいい……『お姉ちゃん』って言ってもらってもいい?」
「ううん。何度だって言う。お姉ちゃん……お姉ちゃん」
「嬉しいな……頑張って生きてて良かった。施設でも……ここでも」
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