静寂の嵐(3)

 カボチャって……まあいいや。

 ご厚意に甘えて、鳥さんにクロノさんを乗せて先に進むことにした。


「うむ、この球体の化け物は中々乗り心地がいいな。褒めてやる、ヤマモト」


「オタマちゃんって呼んで! 今度球体とか化け物って言ったら二度と出さないから!」


 まったく、ホントにデリカシーのかけらも無いんだから。

 みんなとちょっと離れてお手洗いを済ませてから戻ると、近くで何やら草を取っているジャック君がいた。

 何やってるんだろ。

 そう思いながら見ていると、ジャック君と目が合った。

 相変わらず綺麗な顔だな……

 初めて会ったときも思ったけど、改めてみると本当に女の子にしか見えないよ。

 でも、まだ10歳くらいかな。

 小学生くらいなのに……クロノさんの命を狙うとか何とか。


「……何か? ヤマモト様」


「あ、ううん! ごめんね、じろじろ見て」


「お気になさらず。薬草になる草を見つけたので取っていただけです。皆様の分も必要なのでいくらあってもいいだろうと」


「そうなんだ。ねえ、ジャック君。君はずっとこういう任務……かな。やってるの?」


「はい。詳細はお答えできませんが」


「そうなんだ。普段何か好きなこととかってある? こんな本読んで楽しかったとか、こんな話を誰かとしてワクワクした、とか」


「それはクローディア・アルトに関係あるのですか?」


「え? いや……ない」


「でしたら、双方に時間の無駄かと。ただ、あなたは取引相手なので今回だけはお答えします。答えはノーです。いずれも興味ありません……ああ、そうだ。心が踊ると言うことであれば二つ。標的の所在を確認したときと、公爵がお喜びになられたとき」


「君はそんなに公爵が大好きなんだ」


「大好き……どうでしょう。公爵は僕にとって親も同然。あの方の悲願は僕の悲願。それだけです。所でヤマモト様、今思い出したのですが、この茂みの奥に小屋があります。誰も使っていない小屋ですが、そこで1人の人物と会う約束をしているのです。あなたに関わりの深い人ですが」


「私と? 誰なのその人は」


 ジャック君は私の問いに答えず歩き出した。

 あ! クロノさんに近づかないようにしなきゃ。

 慌てて後を追いながらも私は別のことを考えていた。

 ジャック君。

 何でだろう……彼を不思議とほっとけない。

 まるで兄妹みたいに思えるときがある。

 私が一人っ子だからかな……

 そうして一緒に歩いているうち、深い茂みの中に入っていってしまった。

 

「ヤマモト様」


 突然ジャック君が足を止めて振り返ったので、ビックリして慌てて返事した。


「へ? な、なに」


「一つ言い忘れていました。僕がもう一つ熱意を向けられることがあります」


「そうなんだ! 良かったら教えて!」


「はい。それは……復讐です」


「復讐?」


 ジャック君が復讐って…… 一体誰に?

 それぞれ事情があるんだよね……


「はい。ずっと……その人をこの手で殺すことを考えていました。僕の人生を奪った敵。僕の全てを奪い、何食わぬ顔で幸せに生きている存在」


「そうなんだ……あの、ジャック君! 私たちで……出来る事ってある?」


「……よろしいのですか?」


「もちろん。私たちのできる限りで。だってせっかくのご縁だもん!」


「ありがとうございます」


 そう言うと、ジャック君は私の目の前に近づいて……次の瞬間、お腹に鋭い何かが当たる感触がした。


「……え?」


「では、ヤマモト様……いや、リム。このまま死ね」

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