少女探偵団!?

「あの……二人とも、大丈夫?」


 私は二人の方を向いて小声で言った。

 ここで二人が揉めたら……大変どころじゃ無い。

 ましてや斬り合い! なんてなったら私じゃ仲裁どころか、スーパーの刺身のように切り刻まれるのが落ちだ。


「ん? 大丈夫だよ。何のこと? さっきのはあくまで取り入るための演技。ただ、秘密裏に奪いたいから、どっかの誰かが不気味な一人芝居で変な注目さえされなければね……」


「ヤマモトさん、ご心配なさらず。さっきのはあくまで演技です。お心を痛めさせてしまいなんとお詫びすれば良いか。……ところでそのブレスレット、着けてくださり有り難うございます。可愛いですよね? どうか誰かの余計な雑音に心乱される事無くそのままで。ちなみに私も同じ物を着けています。ピンクの。その……お揃いで……ああ! 邪念よ去れ!」


「ふむ。思ったよりあっさりここの一員になれて拍子抜けだね。ただアンナ。残念なのはクロノ・ノワールだったな。ちぇっ! 私かアンナに興味あったらもっとやりやすかったのだが、まさかアウトオブ眼中とはな。とはいえ仕方ない。当面は何とか奴に近づく機会を増やし、私かお前が奴の懐に入った辺りで、次の具体的な手段……石の強奪を考えよう」


「でも、あの人なんか怖そうだね。何考えてるか分からない……でも、意外に優しいのかな」


「私としては何とも……まずはクロノ院長が言ってたセシルさんのところに行きましょう」


「しっかし、ワクワクするね……潜入捜査か。何かさ、こういうのって少年探偵団っぽくて良くない? ……あ、私たちは少女探偵団か。うっし! 今から私たちは少女探偵団! リムちゃんが隊長ね」


 え? 何か……ダサい。

 って言うか、その名前おじいちゃんがよく見てたって言うドラマに出てた奴のパクリ?

 そして、コルバーニさんが「ぼ、ぼ、ぼくらは……」と何やら歌い出したけど、コルバーニさんの歌が気持ち悪すぎて、ちょくちょく鳥肌が立つ。

 うう……


「先生、その名前ダサいです。どうかご再考を。あと、気持ち良さそうに発しているそれは何の唸り声ですか?」


 あ、アンナさん言っちゃった。


「いいだろ? これは少女探偵団のテーマソングだ。後、ダサいについてはお前の破滅的なセンスで言われても説得力が無いな。リムちゃんはどう? この名前良くない?」


「……あ、いいと……思う。多分」


「でしょ! ほら見ろアンナ。じゃあ決定」


 あ、アンナさんが私の方をジトッとした目で見てる……

 そんな私たち「少女探偵団」は、一路セシルさんに会うためにリード君とサリアちゃんのところに行き、案内をお願いした。


「はい。では俺がご案内します。その後でヤマモトさんのお顔の傷もアンナさんに……ぜひ」


「気安く名前を呼ぶな。まだお前をヤマモトさんの手下と認めた訳では無い」


 え? て、手下……

リード君もキョトンとしてるし……


 なにはともあれ私達は目の前の建物に入った。

 中は、子供達特有の土と汗の匂いで一杯で、小学校の頃を思い出させた。

 そして、いくつかある部屋の中からは子供達の声が聞こえてくる。

 みんな楽しそうだ。


「なんか……カーレじゃないみたい」


「はい。ここは豊かでは無いけど衣食住全て保証されています。集団だからもめ事はあるけど、先生達が凄く熱心に相手してくれるし。特に親父……クロノ先生は、ああ言ってたけどめちゃくちゃ物語話すの上手なんですよ。だから、特に女の子は夢中になってる」


 リード君がクスクス笑いながら、優しい笑顔で話している。


「リード君……本当にこの場所が好きなんだね。でも、ずっとここには居られなかったの?」


「本当は居たかったです。でも、ここはカーレの補助を受けていないので、経営がいつもカツカツなんです。親父……クロノ先生はこの区画の権力者だけど、住民から一切税を取っていないので。だから、自立できそうな俺だけでも口減らしを、と思って。そしたらサリアも着いてきちゃって」


「サリア……お兄と……一緒。クロ……好きだけど、お兄もっと好き」 

 

「クロノって人……いい人なんだね」


「見た目や口調は悪の親玉ですけどね」


 リード君はニヤニヤしながらそう言うと、突き当たりの部屋の前で足を止めた。


「ここです。副院長のセシルさんの部屋」


 そう言うとリード君はノックした。


「セシルさん。新しく入った子供を連れてきました」


 すると、中から「は~い、どうぞ」と女性の軽やかな声が聞こえた。

 リード君がドアを開けると、中は本棚とシンプルな木の机、それにソファがあるだけの至って簡素な部屋だった。

 そして、机に座っていたのは長めの黒髪を後ろで縛った、穏やかな感じの若そうな女性だった。


「ようこそ。風と光の養育院へ。私はここの副院長をしているセシル・ライトです」


「先生。こっちのリボンの子は新しく入った子です」


「アリサ・コルバーニと言います。物乞いしてました。よろしくお願いします」


「あらあ! 凄く可愛い子! みんなきっと喜ぶわ。しかも……性格もきっと天使みたいに綺麗なんでしょうね」


「はい! よく言われます」


 コルバーニさんの言葉にアンナさんは笑いをかみ殺している。

 大男さんを一本背負いしたなんて言ったら驚くかな……


「あと、こちらの人は俺とサリアを助けてくれた人です。顔の傷はその時に……だから、お客様として治療とおもてなしをしたくて……」


「あら! そうなの! 本当にありがとう。うちの子供達を守ってくれて……本当にありがとう。ぜひ、ゆっくりしてね。心から歓迎します。お名前を聞かせて?」


「はい。リム・ヤマモトと言います。このたびはお招きいただき、誠に有り難うございます」


「そんな固い返事しないでね。あなたはお客様なんだから。うん! じゃあここの説明をした後で、アリサちゃんと一緒にみんなに紹介するね」


 セシルさんは、ニコニコと笑いながらそう言うと、机の上の書類を片付けて立ち上がった。

「あ、あと院長……クロノ・ノワールさんにはお会いした? ごめんなさいね、あの人ああいう人だから、初見だとみんな怖がっちゃうけど、実はすっごく子供好きでいい人なのよ。さて、じゃあ施設を案内するね」

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