小さな恋の歌(3)

「あの……その……すいませんでした、ヤマモトさん。わたしのせいでいらぬご苦労を」


「あ、ううん。大丈夫だよ……気にしないで」


 私はなんでもないように笑顔を作ったけど、やや引きつってたのが自分でも分かった。

 あの後、街を回っていた勇者さんたち一向に、アンナさんがスリだと勘違いされあわや連行されそうになり、私が慌てて説明してどうにか事なきを得たのだ。


「書物の通りにしたはずなのに……なぜこんな事に」


 すっかり意気消沈しているアンナさんを見ているうち、私までいたたまれなくなって来ちゃったよ……

 よし!

 

「ねえ、アンナさん。腕出して」


「へ? こ、こうですか?」


「うん、そう。で、そのままね」


 私はそう言うと、自分の腕をアンナさんの出してくれた腕に絡ませると、ニッコリと微笑みかけた。


「ほら、これでいいんじゃない?」


「は……はああ!! こん、こんな……う、腕……腕! 腕!」


「腕、腕とやかましいわ!」


 な、なんかさっきまでと別の意味で注目されてる気がするな……

 ま、私も誰かとデートなんてした事ないけど、ドラマや漫画の知識がこんんな形で役立つなんてね。


 右腕にアンナさんの心臓の動きがかなり伝わってくる。

 アンナさんも緊張のあまり脱力状態になってて、今度は「倒れそうな人を病院に連れて行く人」みたいになってるよ。とほほ。


「あ、じゃあさ、次の約束しにいこうか! パフェを一緒に……だったっけ?」


「えっとですね……その、その前におそろいの服を……」


「あ、そうだった!」


 それもオプション、だったっけ。それに入ってたんだよね。

 ま、女の子とおそろいの服だったら楽しみかも……


 ※


 ああ……もう……死にたい。


「う、嬉しい……私、いつかはヤマモトさんとお揃いのものを着たかったんです。あの、その……とってもお似合いですよ! そのビキニアーマー」


 ってか、何で結局着る羽目にあってるの!!

 しかも私が金でアンナさんが銀のアーマーを。

 これ、絶対変な人じゃん!


(あ~おかしおす。リムはん、ありえへんくらい似合ってるよ。その……ぷっ、くくっ……ビキニアーマー)


(うるさい! 消えて無くなっちゃえ!)


(まさに「最大の敵は身内にあり」やったなぁ)


「……大丈夫ですか? 何やら顔色が悪いようですが、体調でも崩されましたか?」


「あ! ううん! 全然大丈夫だよ。ただ、まさかこの鎧をつけるなんてビックリしただけ」


 全然「だけ」じゃないけど。


「そ、そうですか。良かった……」


「あ、ただアンナさん。この格好なんだけど……私、まだそんなに強くないから、これだと余計なトラブルになりそうでさ」


「その時にはそいつらを皆殺しにします!」


「や、いや、そうじゃ……なくて。このビキニアーマーは私の宝物だから、ふさわしい人になったら着たいな……なんて。だから今は別の服をお揃いにしない?」


 こ、こんな説明で納得してくれるのかな。

 でも、これ以上このカッコで歩いてたら私の方が恥ずかしさで倒れそうだよ……

 と、心配になりながらアンナさんの方を見ると……へえ!?


「ヤ、ヤマモト……さん。な、何という意識の高さと優しさ。わ、わたし、感動……ふわああん!!」


 なんと、路上でいきなり泣き出したのだ!


「おい、あの二人なんなんだ」


「しっ、決まってるでしょ。痴情のもつれよ」


 なんか周囲からヒソヒソと聞こえてくるし!

 私は慌ててアンナさんの手を引いて、近くの露店でインドの人が着るような色とりどりの……そうだ! サリーのような物を2着買うと、裏の試着室で着替えた。

 アンナさんも泣きながら着替えてくれて、何とかなりそう。

 なんか、これも凄いカッコになっちゃったけど、アンナさんはエラく気に入ってくれたようで、ニコニコしながら広げたりクルクル回っている。

 ……疲れた。


(おお、でもこの一瞬だけ切り取ったらデートやね)


 ああ、言われてみれば。

 って言うか、デートか……

 そう思ったとき、フッとコルバーニさんの顔が浮かんで、胸がチクリと痛んだ。

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