小さな恋の歌(4)
「どうされました? ヤマモトさん。さ、さ、次はいよいよパフェですよ!」
と、言うことでパフェを食べれそうなお店を探したけど……これだけ広い街で事前のチェックも無く闇雲に歩いてても、中々お店にたどり着けない。
「す、すいません。お疲れですよね。私ったら思いつきで……」
アンナさんがすまなそうにションボリしている。
「あ、気にしなくて良いよ。こうやって一緒に歩いてるだけでも楽しいよね」
「あの、そこで少し休んでて下さい。ゆっくり出来るお店とか無いか探してきます」
そう言ってアンナさんは駈けだしていった。
私はホッと息をつくと、近くの石段に腰掛けて、道行く人たちをボンヤリと見ていた。
いつの間にか日は沈み始めていて夕方が近くなってるのを感じさせた。
ふと、目の前を女性2人が腕を組んで歩いているのが見えて、心臓が大きく高鳴るのを感じた。
明日はコルバーニさんと……
そう思った途端、訳も無く緊張感が溢れてきて足下の白い階段に目を落とした。
そう言えば、あの人と2人だけで行動した事ってあったっけ……
ああ、緊張してきた。
コルバーニさん、何のつもりなんだろ。
急にキスしたときの感触が浮かんできて、顔が赤くなってきた。
ああ……まずい!
「ヤマモトさん……どうしました?」
急に聞こえてきたアンナさんの声で私はふと我に返った。
「あ、アンナさん! ごめんね、ちょっと考え事を……」
アンナさんは私の顔をちょっとの間不安そうに見たけど、すぐに笑顔になった。
「あの、アイスクリームがあったので買ってきました! パフェは……もういいです」
「え? 大丈夫なの。楽しみにしてたんじゃ……」
「ヤマモトさんに無理させたくありませんから。それに今日は沢山楽しい思いをさせて頂きました」
そう言ってニッコリ笑うと、アンナさんはアイスクリームを差し出した。
私はそれをアンナさんの顔を見ずに受け取った。
いや、見ることが出来なかったんだ。
アンナさん、汗ビッショリだった。
きっと頑張って走り回ってくれたんだよね。
それなのに私は……
受け取ったアイスクリームを舐めたけど、味があんまり分からない。
「あの! ヤマモトさん!」
「え? あ、どうしたの……」
「パ、パフェは残念でした! なので……これで代わりに……あ~ん、を!」
ええっ! これで……まあ、できるけど。
「わ、わかった! じゃあ……私から。はい、あ~ん」
そう言ってアイスクリームをコーンごとアンナさんの顔に近づけると、アンナさんはちっちゃな口を頑張って開けながら食べた。
ってか、目をぎろっと見開いてて……怖い!
「ああ……この一瞬、死の間際まで忘れません。で、では今度は私から……」
「う、うん。じゃあお願い」
「あ! 1つお願いが! 目、目を閉じてて下さい。ヤマモトさんの美しい瞳を見てると、緊張で……」
「うん、わ、分かった。そんな美しくはないけど……」
言われるままに目を閉じると、アンナさんの「は、はい! あ、あ、あ……あ~ん!」とかけ声のような「あ~ん」が聞こえたと思ったら、私の顔中に氷のように冷たいアイスクリームが広がるのを感じた。
って……顔が……冷たい!!
目を開けると、鼻から顔中にベッタリと、見るも無惨にアイスクリームが……
「あああ……ご、ご、ご免なさい!! 私まで目をつぶっちゃってました!!」
アンナさんは涙目で必死に私の顔のアイスを拭いてくれた。
「アンナはん、アンタは……あほか。あ~あ、これ顔洗わんとね」
「あ、もう大丈夫だよアンナさん、ありがと。ちょっと顔洗っても良いかな?」
そう言うと道の端っこに言って、水筒のお水で顔を洗った。
戻ってみると、アンナさんは見るも無惨に落ち込んでいたので、笑顔を浮かべると背中をポンポンと叩いた。
「気にしなくていいよ。慣れない事って緊張するよね。私だって昔、好きだった人の家に初めて遊びに行ったとき、カチコチになっちゃって頂いたケーキ、その人の膝に落としちゃったことあるよ。でも、その人笑って許してくれて……」
「ヤマモトさんもそんな事あったんですね」
「うん。ま、でもその人結局他に好きな人が居たんだけどね。結構泣いちゃったけど、いい思い出だったな」
それを聞いたアンナさんは俯いてポツリと言った。
「もう夕方ですね」
「そうだね。いまからどうする? 他に行きたいところあるかな?」
「じゃあ……最初の丘に」
私はニッコリと笑って頷くと、アンナさんの手を握って歩き出した。
アンナさんは今度はカチコチになってなかったけど、元気なさそうだった。
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