地獄なんかじゃない
……って言うか、ここ1階で良かった。
呆然としながらそう思っていると、甲高い笑い声が聞こえたので、声の方を見るとライムが可笑しそうに笑っていた。
「リム! 発想、斜め上すぎるわ。人形って……マジでウケるんですけど!」
「リム・ヤマモト……力まかせにも程があるでしょ?」
リーゼさんも苦笑いしている。
「リム……と言ったわね。勝手にしなさい。でも、それって自己満足では無くて? じゃあ他の子供達はどうするの? みんなの病気を治せるの?」
「一刻も早く石を破壊します。そして、おじいちゃんに会って、病気を直せないか聞きます。本当にこの病気を作ったなら何か知ってるかも知れない。それまでは絶対諦めない。それが私の責任」
私の言葉にコルバーニさんも続いた。
「エルジアさん。私たちがいつか……絶対に何とかします。それまで、子供達の進行を遅らせて欲しい。あなたなら出来るでしょ。今までは病気を治すためにあんな実験を行ってきた。でも、進行を遅らせることは出来るはず。あなたは子供達を愛しているんでしょ?」
険しい表情になったエルジアさんに、コルバーニさんは続けた。
「ここは地獄なんかじゃ無い。あなたも先生達もそんな事は望んでない。だったら……本当の楽園に出来る……いや、して欲しいです」
「誓えるの? あなたたち……本当に病気を無くせるの?」
「エルジア。無理なら、私たちがどうにかする。だって……この子達が無理なら、私たちが勝者なんだからね」
ライムはそう言うと、傍らのクマのぬいぐるみを触ると、あっという間にそれは片手で抱えられるくらいに大きさになった。
そして、エルジアさんに向かってヒョイッと放り投げると続けた。
「エルジア……あなたの正義は理解してる。でも……半年だけ頂戴。それで……全てが終わる」
「ライム様……かしこまりました。それまでの間……発症を遅らせることに専念します。私の技術ではそれが限界です」
「知ってる。それだけで充分」
「ライム様……私もお供しても……よろしいでしょうか」
「あら、リーゼ。あなたは私の配下では無くて?」
そう言って苦笑したライムとリーゼさんは歩み去っていった。
その後。
エルジアさんは魂が抜けたように呆然としていたが、エッタさんが近づいてその場に土下座して叫ぶように言った。
「あの人の言葉に甘えさせてください! 半年でいいです……ここを……楽園にさせてください。張りぼてじゃない、本当の。エリスちゃんを初めとした、死んでしまった子供たちのためにも」
「もう無理……私の手は汚れちゃってる」
そうつぶやくエルジアさんに、コルバーニさんは言った。
「汚れてたって、抱きしめることはできるでしょ? 手を引くことも。それでいいんじゃない?」
その言葉にエルジアさんは、苦笑いしながら言った。
「好き勝手言ってくれるわね……分かった。エッタ、シーナと一緒に手伝ってくれる? 死ぬ気でやってみる?」
「はい!」
そう答えるエッタさんの表情は今まで見た中で一番綺麗だった。
エッタさん……良かったね。
私はその姿を見ると、部屋の隅で泣きじゃくっているアンナさんに近づいた。
「アンナさん」
だけど、アンナさんは首を振ったまま泣いていた。
「すいません……すいません。私が、あんな事を……ヤマモトさん……」
「いいの。アンナさんには凄く感謝してる。だって、エリスちゃんの顔を見た? 幸せそうだったよ。私は後悔してない」
そう言ってアンナさんを強く抱きしめた。
「いつも有り難う。アンナさんがいてくれて……良かった」
アンナさんはそれに答えず、泣きながら私にしがみ付いた。
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