うるさ〜い!
私はライムの言った言葉の意味が理解できなかった。
どこまで私を困らせるんだろう……
「ライム、そういう言い方はダメだよ……おじいちゃんだって、大変な旅だったんでしょ? あなたとコルバーニさんと。その中で最善を尽くしたってダメなことは……」
「いいえ」
ライムはそう言いながら私の目の前に歩いてくると、厳しい目で私を見上げた。
「ユーリは紛れもなく自らの意思で結晶病の元となるウイルスを作った。そこに居るエルジアと共に。理由は……自らの名声のため……」
ライムはそこまで言うと、素早く横を向きながら剣を抜き、飛びかかってきたコルバーニさんの攻撃を防いだ。
「おっ、アリサやるじゃん。カーレの時よりもキレッキレだね」
「デタラメを言うな。私もあなたもユーリの事は知っているだろう!」
「ええ、知っている。知った上で彼とあなたとの旅を続けた。あの旅は彼の贖罪。私はそれに付き合った。私は私の目的もあったけどね。アリサ。自分が全てを知っていて当然、と言うのは自惚れではなくて?」
「ライム! お前は私たちをどうしたいんだ!」
「真実を知って欲しいだけ。最後まで進むんでしょ? 何を背負っても。それが『あなたたち』なんでしょ? なら、ユーリのことは絶対に知らなくてはいけない。彼が全ての元凶であることも。その上であなたとリムがどうするか。そこから始めないとあなたたちは決して最後の舞台には上がれない」
私はライムの話を聞きながら涙が溢れるのをこらえられなかった。
なんで……そんな事を。
もう少しで何かが壊れそうだと思ったとき。
ライムの鋭い声が聞こえた。
「リム! 自分を信じなさい。あの決断をした自分の事を! 自分の目で見て肌で感じたことを信じなさい。他人の言葉で全てを決めないで」
そう言いながらライムはクスクス笑った。
「さて、アリサ。あなたはどう出る?」
「ユーリに会う。会ってユーリの口から真実を聞く。その前に裏切り者を切るがな」
そう言ってコルバーニさんはライムに対して斬りかかった。
その剣の光はまさに閃光のようだった。
「リムちゃんは……背負った。だから私も背負う! ユーリの事も、私自身の事も。お前には……自分には負けない」
「あなたに剣を教えたのは私……勝てると思ってるの?」
ライムとコルバーニさんの斬り合いを見ながら、私は指輪が赤く光っているのを感じた。
まただ……また、私に……
でも、違う。
おじいちゃん……私、悲しい。悔しい。それに怖いよ。
でも、私は……
私はギュッと目を閉じて、自分の意識に集中した。
(他人を信じるように自分を信じなさい)
(泣きながらでも、後ろに下がりながらでもちょっとづつ前に進もうとする。それが……勇気)
ライムとコルバーニさんの言葉が浮かんでくる。
壊したい……全部無しにしたい。
全部リセットしたい。
そんな言葉が意識に入ってこようとする。
そう……全部……壊しちゃえば……
「うるさ~い!!」
私は目を見開くとお腹の底からそう叫んだ。
そして、赤く光る指輪を目の前に出した。
「指輪……あなたもうるさい! 何が結晶病だ! 私は……こうしたいの。聞きなさい!! お馬鹿!」
万物の石! あなたは持ち主のイメージを実体化するんでしょ?
そのためにあらゆる事をする。
だったら……
指輪に全神経を集中させて、あるイメージをひたすら考えた。
そして、指輪が……青く光り出した。
最初に鳥さんを出したあの時のように。
「いけ~!!」
私がこの場で実体化させられるくらい鮮明にイメージできるもの。
この場を丸く収められるもの。
これしかない!
ついに指輪から部屋中を覆い尽くすくらいの青い光が勢いよく四方に広がった。
まるでコンサートの照明のように。
そして、光と共に部屋中に沢山の……大きなぬいぐるみが現れた。
天井まで届くようなウサギさんやクマさん。アヒルさん。
某テーマパークのネズミさんなど。
それはどんどん部屋の中に現れて、埋め尽くさんばかりに増えて……やがて部屋はミシミシと嫌な音を立てて……四方の壁が弾けるように壊れた。
「これ……は」
リーゼさんの呆然とした声が聞こえた。
エルジアさんの部屋はもはや見る影も無く屋敷の一角は見事に更地となっていた。
そこには3メートルはあろうかという10体以上のお人形。
「これで戦えるものなら……戦ってみろ!」
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