リムと悪の華(2)

 カヌーを水路の端に止めてもらい、私たちはお店に向かった。

 看板のお店は沢山のお店が建ち並ぶ、小島みたいな敷地の一角に有り少し歩いたもののお昼時のせいか、沢山の人と様々なお店に目を奪われている内にあっという間に着いた。


「全く、あんなにもみくちゃにされるとはな。一張羅が台無しだ」


「あ、でも美味しそうな香りがしてきますよ! でも、みんなに申し訳ないな……」


「それは考えるな。どうせアイツらは熱でまともに食えないだろ。そこで我らまで空腹で戻っては気を遣わせる。旨いものを食って帰ってこそ、アイツらもホッとするだろ」


 全くそうは思えなかったけど、やっぱり空腹には勝てない。

 って言うか、うなぎ屋さんと一緒だよね。

 美味しそうな匂いが漂ってたら何とも逆らえないよ……


 お店の外観は大衆居酒屋って感じだったけど、中に入ると意外や意外とお洒落なイタリアンみたいな感じだった。

 

 そこで私たちは「ジャイアントボアー」と言うイノシシに似た野獣のお肉を様々な野菜やキノコと一緒に煮込んだスープ。それにスピリオ近海で採れた魚の切り身のフライと、同じく芋のフライを二人で結構頼んだ。

 ああ……これ、絶対太る奴だ……

 でも、たまにならいいか! と考えて私たちはしばし食事を楽しんだ。


「うん、これは中々だ。ジャイアントボアーは獰猛な獣と聞くが、こんなにうまいとはな。さすがギルドで肉のみの引き取りもしているだけはある。もし出会うことがあればコルバーニ達に肉を傷つけず倒させるとしよう。うん、60点は与えてやってもいいな」


 クロノさんは美味しそうに赤ワインを飲んでいる。


「だから、何でそんな上から目線なんですか?」


「見下してるわけでは無い。客としての評価だ」


「ここまで見る限り、コルバーニさんの事言えませんよ」


「あの若年寄と一緒にするな。はなはだ不愉快だ」


「さっきの薬局では私の方が不愉快でした……って、せっかくのご馳走なんで楽しく食べましょ。……魚とフライドポテトって本当に合いますよね。美味しい!」


「この肉も旨いぞ……実に赤ワインと合う。お前が酒が飲めんのは残念だ。所でヤマモト、聞きたいことがあるのだが」


「何です?」


 私はフルーツジュースを幸せな気分で飲みながら答えた。


「コルバーニとアンナ、どちらが好きなんだ」


「ごふっっ!」


 思わずジュース吹き出しちゃった!


「貴様! テーブルも食事もベタベタに……デリカシーの欠片も無いな、馬鹿者!」


「どっちがですか!」


 私はむせ込みながら言った。


「今後の旅で気を遣わねばならんからな。二人の時に邪魔しないようにとか。だが、カヌーで接吻せっぷんを交わしてたからやはりコルバーニの方か?」


「見てたんですか!? って言うかそんなお気遣い一切不要です!」


 ああ……見られてた。死にたい。


「そんなこの世の終わりみたいな顔するな。特に驚きはしない。個人的に職場恋愛はクソだと思っているが、まあやむを得まい。で、どうなんだ? どっちだ?」


「それセクハラです。なので返答はしません」


「セ……なんだそれは? まあいい。お前の吹き出したジュースで肉もワインも台無しになったことだし、そろそろ出るか」


「分かりました。すいません! お会計を」


 その言葉に筋トレが趣味? ってくらい筋肉質のスキンヘッドの男性がテーブルに来た。


「はい、毎度! ってか、おっさんジュースこぼしたのかよ? なら拭いてくれよ。……お嬢ちゃんも恥ずかしがってるだろ」


「こぼしたのは私では無い。恥ずかしがってるのはこいつが犯人だからだ。それよりとっとと会計しろ」


「はいよ。金貨7枚だね」


「ふむ、安いな。……ぬ?」


「どうしたんです? 早く出ましょう。みんなの所に薬持って行かないと」


 だが、クロノさんは一向に財布を出そうとしない。

 それどころか首をひねりながらアチコチまさぐり、挙げ句の果てに私の顔を見て言った。


「ヤマモト、金を持ってないか? どうやらスラれたらしい」


「は?」


 私とスキンヘッドさんが同時に言った。


「なあ、こんだけ食っといてそれはないんじゃないか?」


 スキンヘッドさんの表情と声が別人の様に怖くなった。

 これ、ヤバい奴だ……


「そんな顔をするな。怒った所で金は空から降ってこない。一旦宿まで取りに戻ってもいいか? そこには金がある。割り増し料金で払ってやってもいい」


「いや、それは信用できない。そのまま逃げる気だろ」


「お前の選択肢は2つだ。我らを信じず食事分を取り損ねて損するか、我らを信じて割増料金を取るかだ。選べ」


「なんでそんな上からなんです!」


 もう無茶苦茶だ、この人……絶対スキンヘッドさん怒ってるよ。

 そう思いながら横目で見ると、意外なことにスキンヘッドさん私に目を向けながらニヤニヤしていた。

 嫌な予感……


「いや、もう1つ選択肢がある」


「ほう。言ってみろ」


「その女に稼いでもらう。見ると中々の上玉じゃないか。丁度、メイドを探している取引先の金持ちがいるんだよ。どうだい、お嬢ちゃん?」

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