リムと悪の華(1)
「主人、この小瓶一本の量で金貨5枚は高すぎるな」
「え? でもね、この薬は解熱には効果てきめん。効果考えると安いくらい」
「金貨1枚にしろ。3本必要だ」
「無茶ね! 私、首吊らないといけないよ!」
「じゃあ吊れ。代わりの者と交渉する」
「あなた無茶苦茶言ってる! お嬢ちゃん、コイツ何とかしてよ」
「えっと……」
私は、毛むくじゃらの小人さん……ドワーフって言うんだっけ? とクロノさんの交渉(?)をアワアワしながら見ていた。
ここは、ルフィルドと言うさっきまでいたスピリオの街のすぐ隣りにある小さな街のおっきな薬屋さん。
私とクロノさんは風邪薬を買おうと訪れたのだけど……なぜって?
うん。
昨日の昼頃から、オリビエから始まりアンナさんが相次いで発熱。
そしてついにコルバーニさんまで熱が出てしまったのだ。
最初は「大変なことが起こった!」と焦ったけど、宿まで来てわざわざ見てくれたエルジアさんによるとただの風邪らしい。
エルジアさんは心配する私をじっと見ると、何かを納得したように頷いたので気になって訪ねたところ「ライム様が以前『バカは風邪引かないと言う古代の知恵がある』と言ってたけど、真実だったようね。リムちゃんは元気そうだもの」
と、真顔で言っていた。
何で私の周りって失礼な人ばっかなの?
……でも、考えてみればあまりに色々起こりすぎた。
疲れが出ても不思議じゃ無い。
こういう時こそ借りを返すときだ!
と、意気込んで、カヌーの漕ぎ手さん(タクシーみたいな物?)に乗せてもらい、コルバーニさんから聞いた薬屋さんに来たのだが……
「もういい! あんたらに売る薬は無い! 帰ってくれ」
「え!? あ、あの……じゃあ1本金貨3枚にしてくれませんか? 私たちそれがギリギリで……宿で、病気の友達が待ってるんです……お願いします!」
そう言って頭を必死に下げていると、店主も落ち着いてきたのかため息をつくと「そのお嬢ちゃんに免じて1本金貨4枚。3本なので特別サービス金貨10枚。ついでに飲みやすくする
と、言ってくれた。
嘘! やった!
……と、思っていたらクロノさんがポツリと言った。
「そのボロい
「クロノさん、もうしゃべらないで! はい、それでお願いします。本当に有り難うございます」
※
「ヤマモト。あれは足下見られてたぞ。お前は甘い」
「はい。どこかの誰かが滅茶苦茶な交渉して怒らせなければ、もっとまともなお話しできてたかと」
「それは誰だ。事前に我らの足を引っ張った奴がいるのか?」
私はカヌーの前に広がる水面を見ながら深々とため息をついた。
水面にキラキラする光の粒が綺麗……
先ほどの曇り空みたいな気分が晴れていくのを感じていると、急にお腹が鳴った。
「ヤマモト。腹が減ったのか? 盛大に鳴っていたぞ。下手な男よりもいい音だった」
「あの……女性に対してそう言うことは……」
「大丈夫だ。気遣い程度は人並みに出来る。ここにはコルバーニもアンナもいない。アイツらには腹の音なんて聞かれたくないんだろ?」
「そういう問題じゃ! 別にわたしたち、そういう関係じゃ……」
顔を火照らせながら小声で苦情を言ったが、クロノさんはまるで聞こえていない風で、周囲を見回した。
「私も空腹だ。丁度いい。あそこに肉の看板があるぞ。昼食でも食べよう」
「え? でも、私たちさっきの薬屋さんでお金……」
「大丈夫だ。私がまだ金貨15枚ある」
「は!? じゃあさっきの時、お金出してくれてたらいいのに!」
「可能な限り値切れるなら値切りたいだろ? 帰りに昼飯も食べたかったしな。美味そうな店が多いのは確認済み。私は食事に関してはこだわりたいんだ。喜べ、奢ってやる」
「クロノさん、絶対彼女いないですよね……」
「ぬ? なぜ分かった? 貴様以外と分析能力が高いな」
見た目はダンディなイケてるおじさまなのに……天は二物を与えずか。
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