ライムとコルバーニ

「やった! さっすがコルバーニちゃん! 大好き~」


 ライムが嬉しそうにコルバーニさんの周りを飛び回る。

だけど、コルバーニさんは困ったような表情でライムから目をらす。


「う~ん、お礼はちょっとね……ま、とにかく行こうよ」


 うん、確かに鎧さん達の気が変わられちゃったら困る。

私たちは慌てて立ち上がると、鎧さん達の後に続いた。


「釈放だが……その前に、役所にて正式な釈放手続きと、滞在許可証の再交付手続きが必要だ。この馬車に乗るので着いてこい」


 そっか、手続きが色々あるのは役所に共通なんだな……

そんな事を考えながら、言われるままに馬車に乗り込んだ。

そうしてしばらく揺られていると、やがて海の香りが鼻をくすぐる。

え……海?


 やがて馬車が止まったため、そっと外を見ようとしたが、その途端数人の男性が急に入ってきて、私たちに何か……ざらざらの袋のような物をかぶせた。


 え? え? 何なの!


 混乱する頭を整理する暇も無く、まるで荷物のように抱えられて私はそのまま運ばれて行った……


 それからどこかにまるで荷物のようにおろされた後、どのくらい時間が経ったのか……永遠にも感じられるくらいの後、必死に袋から這い出るとそこは……木で囲まれた楕円形だえんけいの部屋の中だった。

周囲には何十人いるんだろう。

沢山の人たちがアチコチに座り込んだり、所在なさげに歩き回っている。

耳にはかすかに波の音が聞こえて、床が左右に揺れている。


 あ……これ……どこかで見たような……そうだ! 家族で旅行したときのフェリーの一番安い部屋だ!! 乗客みんなで広い船底に雑魚寝するあれ!


 私は混乱と不安に包まれながら、周囲を見るとコルバーニさんとライムが袋から這い出てきた。

コルバーニさんの赤いでっかいリボンも、可哀想に……紐が切れて顎の辺りにぶら下がっている。


「あ〜あ、私のトレードマークが……悲しい。……ねえ、後でお店探してもいい?代わりを買わないとね。……と、それは置いといて。ふむ、やっぱりか……早速カーレの洗礼を受けちゃったね、リムちゃん」


「あ、あの……これって」


「私たち、はめられたんだよ。アイツらは公設軍隊の兵士なんかじゃない。ここは……奴隷船どれいせん。アイツらは多分、奴隷商人の一味だね」


「ど……れい」


「そう。おかしいと思ったんだよね。だってアイツらブライエとアンナに何の疑いも持とうとしなかったじゃん。不法滞在に神経質なくらい目を光らせている公設軍隊が、疑いのある連中だけ捕まえてはい、おしまい! は無い。普通同行者も何らかの関係があると思うでしょ? で、案の定役所にも警察にも連れて行かずにあんな簡素な部屋に入れっぱなし。だとしたら最悪の場合……人身売買。どうどう? 私、バッチグーな推理でしょ。まるでミス・マープルみたい!」


 え?……マーブル……チョコ?

いやいや! って言うか!


「あの……だったら、凄くマズいんじゃ無いです? 船が出航しちゃったら……」


「まあ、一巻の終わりだよね」


「そんな……」


「そ、そうなったら……私がこっそり飛んでいって助けを呼んでくるから」


 ライムが引きつった笑顔でつぶやく。


「ふむ。ライムちゃんが海図も理解して、海の上での船の位置も把握。さらに船の進む方角も完璧に理解し、それをオリビエ達に的確に伝達できるなら……ね」


 コルバーニさんの言葉にライムはしゅんとうつむく。


「でも……もし船が出そうならライムは逃げて」


「私もそう思うよ。船が港を離れて陸地が見えなくなったら最後、ライムちゃんも戻れなくなるからね。だから今すぐ私たちから離れた方がいいと思う。いや、そうするべきじゃない?」


「そんなぁ……私、そこまで鬼じゃ無いよ」


 泣きそうな顔でライムはつぶやく。


「分かってるよ、そんな事。でも……ライムも大切な友達だもん。助かって欲しいから」


「リムぅ……」


 目に涙を浮かべながらライムは私の上をクルクル飛び回っている。

そんなライムを見てから視線を動かした私は思わずギョッとした。


 膝を抱えて座っているコルバーニさんが無表情で私たち……いや、ライムをじっと見つめていた。

何かを考えているような……あんな表情初めて見た……

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