小さな恋の歌(1)
私にとってまさに記念日! とも言える日……ラームの力を借りたとはいえ、あんな大男さんに勝った! の翌日。
約束通り、アンナさんとの二人でのお出かけだ。
しっかしアンナさん……
昨日の試合の後、宿に戻っての夕食の最中一同に向かって、翌日を休暇にしよう! と高らかに宣言したのだ。
「慣れない土地に来て、いきなりの試合続き。まして、ヤマモトさんは初めての経験で心身共にギリギリのはず。明日は完全オフ! でどうですか?」
満面の笑みで半ば決定事項のように離すアンナさんに、クロノさんとコルバーニさんはあからさまに不審そうな表情を浮かべたが、言っていることは至極ごもっともだし、何より私の名前を出されてしまっては、否やとも言えなかった。
「それは反対しないが、お前はどうするつもりなんだ? そのオフとやらで」
「先生、それを聞くのは野暮という物です。明日の行動はお互い一切干渉無し! でどうです?」
そう言った後、一仕事終えた! って顔でアンナさんはエールを一気に飲んだ。
その様子を見ながら、コルバーニさんは不信感ありありの目で見ると、エールを飲んだ。
すると突然それまで何かを考えていたクロノさんが言った。
「よかろう。小娘。お前の提案聞いてやる。ヤマモトの負担を考えたら、休暇も必要だからな。この後はクローディアとか言う娘の事もある。……で、私から休暇について提案だが、せっかくだから2日にしないか?」
「へ?」
「だから明日と明後日を完全オフにしようと言うんだ。その間、お互いに干渉しない。これでどうだヤマモト?」
「……う、うん。確かにみんな疲れてるし、1日くらいじゃ疲れも取れないよね。良いと……」
「3日」
突然のコルバーニさんの言葉にみんなの視線が一気に向いた。
「人が身体だけで無く心の疲れを取るには3日は必要と聞いたから……だから3日」
(リムはん、コルバーニはん今、一瞬アンタの方見たで。3日目の提案はあんた絡みやね)
脳裏に話しかけるラームの言葉に同じく心の中で頷いた。
(うん、私も分かった……でも、何の用なんだろ。怒られたりするのかな?)
(アンタ、結構天然とか言われとらん?)
「所で急にオフの延長とかクロノのおっさん。なに企んでるの?」
コルバーニさんの薄笑いを平然と見返すと、クロノさんは事もなげに言った。
「お前も乗って来ただろうが。デートだ。私みたいな色男は忙しいんだ」
「う、うん。私は……いいよ。じゃあ3日で」
「まあ、リムちゃんがいいなら私からどうこう言えないね。オッケー。じゃあ明日から3日間の休暇ね。この間、お互い干渉はしない。それで行こう」
コルバーニさんはそう言うと、ガリアさんとお肉を分け合いながらエールを一気に飲んだ。
※
さて、明日はアンナさんとお出かけか……
私は宿屋の屋上に上がると、ベンチに座ってボンヤリと夜空を眺めていた。
(しっかし、アンナはんも大胆な事するな。あれ、絶対コルバーニはんとか怪しんでたで)
(そうかな、そんな風には……)
(あれまぁ、あんたほんまに天然さんやね。おっと、噂をすれば影)
えっ。
その時、背後でコツンと足音が響いたので振り向くと、コルバーニさんが立っているのが見えた。
「あ、コルバーニさん」
「リムちゃん、ホントに星空好きなんだね」
「うん、沢山のお星様見てると嫌なこととか忘れちゃうんだ。だから好き」
「そっか」
コルバーニさんはそう言うと、その場に立ったままで言った。
「ねえ、リムちゃん。明日って……」
「う、うん」
私は密かに準備してた答えを、どんな風に言おうかとドキドキしてたけど、コルバーニさんは、しばらくの間視線を彷徨わせた後、ホッとため息をついて空を見上げた。
「何でも無い。で、ちっとお願いがあるんだけどさ」
「あ、うん。いいよ。何か出来ることがあれば……」
「2日目、私と出かけて欲しい。二人だけで」
え……
思いもしない内容に私はすぐに言葉が浮かばなかった。
そして、それを話すコルバーニさんの表情は、言葉をいえないくらい真剣だった。
「うん……分かった。いいよ」
「ありがとね。楽しみにしてるよ」
そう言った時、階下から軽やかに階段を駆け上がる音が聞こえると、すぐにアンナさんが顔を覗かせた。
「ヤマモトさん! ずっと居たら風邪引いちゃいますよ。お召し物を……」
勢いよくしゃべっていたアンナさんの言葉がコルバーニさんを見た途端、スッと潮が引くように止まった。
「お、アンナ。リムちゃんに膝掛けとは、相変わらず甲斐甲斐しいな」
「……とんでもない。このくらい当然です。先生もいらしてたとは気付かずに失礼しました。……珍しいですね、お二人だけで。何を話されてたんですか?」
「リムちゃんはリーダーだ。私と今後の事を話しててもおかしくないだろ? だが、丁度そろそろ寝ようと思ってた所だ」
そう言ってコルバーニさんは私に背を向けて、階段へ歩きながら言った。
「……ああ、明日は私きっと昼まで寝てるだろうな。ちっと飲み過ぎちゃったし、リムちゃんの試合見ててドッと疲れちゃったから」
独り言のようにそう言うと、コルバーニさんはそのまま振り返ること無く階下に降りていった。
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