勇気のレッスン(2)
「……ヤマモトさん、こんなに泣いて。……そうですね、強めのお仕置きでどうですか?」
「ああ、気が合うなアンナ。じゃあ決まりだ」
「僕を甘く見ない方がいい」
そう言ったジャック君はすぐ近くにいたクロノさんに近付くと、いつの間にか抜いたナイフを付きつけた。
「動くとこの男を刺す。二人共剣を捨てろ」
「あらあら、少年。またベタな事を」
「先生、どうします?」
苦笑しながら話すアンナさんにコルバーニさんが言った。
「ああ、アンナ。お前やるか?」
「いえ、久々に先生の剣を見てみたいです」
「私はさっき動いたんだがな。年寄りをこき使うな」
「都合のいい時だけ年寄りにならないで下さい」
「おい! 貴様らふざけるな! 私をとっとと助けろ」
「 それがお前らの返答なんだね……」
ジャック君が表情を少しでも歪めてクロノさんの首にナイフを近づけた瞬間。
コルバーニさんがあっと言う間に二人に近づくと、ジャック君の手から鮮血が飛び散った!
そして、悲鳴を上げて屈み込んだジャック君にコルバーニさんが斬りかかろうとした時……
クロノさんがジャック君をかばうように覆いかぶさった。
……って、ええ!?
「……クロノのおっさん、どういうつもり?」
「カーレでも言ったな。私はガキは嫌いだ。だがガキが泣くのはもっと嫌いだ」
え?
言われて見てみると、ジャック君はうっすらと涙ぐんでいた。
「何かあれば私が責任を取る。このクソガキへの処罰は保留にしてほしい」
そう言うと、クロノさんはコルバーニさんに向かって頭を下げた。
「頼む。見逃してやってほしい」
「コルバーニさん、私からもお願い! ジャック君を今回だけでいいから許してあげて」
私も続けて頭を下げた。
「オッケー、分かったよ。少年、2人に感謝して」
「クロノ・ノワール……これで手なづけたと思ったら大間違いだ。……感謝はしない」
「好きにしろ。クソガキの見返りなど期待するか」
ジャック君はじっとクロノさんの顔を見ていたけど、そのうち背後の茂みに入り、次の瞬間……消えた。
「逃げたか」
コルバーニさんはそう言うと、私たちを振り向いた。
「改めて。久しぶりだね。そして……ごめんなさい」
そう言ってコルバーニさんは私たちに頭を下げた。
※
「……そんな事が。ヤマモト、済まなかった。まさか奴の狙いがお前だったとは」
深々と頭を下げるクロノさんに私は両手をブンブンと振った。
「いいよ、そんな! でも、なんで私なのかは分からないけど」
「ヤマモトさん、本当にお辛い思いを……ヤマモトさんにそんな事を言うなんて私の罪は万死に値する! 私を……どうか切り捨てて下さい!」
アンナさんは泣きながら私にしがみ付いてそう言った。
「あ、あの……武士じゃ無いんだから。それにアンナさんは悪くないよ」
「しかし、ジャック・カーがリムちゃんに復讐? 本当に訳が分からない。接点も無いのに恨みも何も無いだろう」
「そこは今後の検討課題でしょう。ただ、気になるのは亜里砂の言う『彼の持っていた精製した石の欠片』そこが重要ですな」
「確かにそうですね……で、あなたは?」
オリビエがおじさまを見ながら言った。
「ああ、申し遅れました。私は高木翔太。亜里砂……アリサ・コルバーニの父です。ガリアと呼んで下さい。こちらではショー・ガリアです」
「お父さん、私が事情を話すよ。みんなと別れてからの事も含めて」
それから私たちはコルバーニさんの話を聞いた。
そんな事が……
コルバーニさん……辛かったね……でも、良かった。
「じゃあ、私たちが任務で会おうとしてたクローディアさんをコルバーニさん達も探してたんだ?」
「そう。あの少年はいなくなったけど、フィーゴ公爵がクローディアを狙っているのは変わらないから保護したいのは変わらない。でも、その前に私は……やることがある」
「え? なに? 私たちで出来ることなら協力するよ」
「もちろん、みんな……特にリーダーのリムちゃんにね」
コルバーニさんはそう言うと、突然私たちに向かって……深々と頭を下げた。
「このたびは私の勝手な行動で皆様にご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませんでした。頭を下げるだけでは詫びにならないので……」
そう言ってコルバーニさんは頭を上げると私に向かって言った。
「この集団を統べる山本りむ様。私は恥をさらして、また復帰させていただければと思っています。許していただけるなら、それに伴い裏切り者にふさわしい罰を」
「え!? そ、そんな……罰なんていいよ! みんな戻ってきてくれるだけで嬉しいんだから……もう仲直りできてるよ」
「ヤマモト、それは違うぞ。コルバーニにとって、自らが望む一つのけじめだ。それを叶えねば、コイツの中でお前の言うところの仲直りは出来ん」
クロノさん……
「ヤマモトさん、先生をお受け入れしてあげるためにも、何か罰を。先生のためにも」
アンナさんまで……うう。
よ、よし! じゃあ……
「分かった! コルバーニさん……覚悟はいい?」
コルバーニさんは頷くと、目を閉じた。
よし。じゃあ……
私は大きく深呼吸をすると、手を振り上げて……
「コルバーニさん……めっ!」
そう言ってコルバーニさんの頭を軽くペンっと叩いた。
うう……心臓破裂しそう……
「はい! 罰、終わり! じゃあコルバーニさんとは仲直りね! いい、みんな!」
「お帰りなさい、先生。オリビエ、心より歓迎します」
「アンナ・ターニアも同じく。先生の復帰。心よりお喜び申し上げます」
「喜べ、コルバーニ。私もお前の復帰を認めてやる」
「……お帰り。コルバーニさん。そして、またよろしくね」
「みんな……リムちゃん、ありがと」
コルバーニさんは恥ずかしそうに笑った。
「亜里砂、いい友達に恵まれたな」
ガリアさんはやさしく微笑んでいた。
「ガリアさんもよろしくお願いします。コルバーニさんに似て優しそうな方ですね」
「はは、それは有り難うございます。娘ほどではないですが」
そんなガリアさんとコルバーニさんを見ていると、いつの間にか近くに来ていたアンナさんが何故か私の服をクイクイと引っ張っていた。
「ん? どうしたの? アンナさん」
「あ……あの、私には?」
「へ?」
「あの……先ほど、幻覚とは言えヤマモトさんのお心を深く傷つけました。それは大変な罪。よって私にも……えっと……罰を」
そう話すアンナさんの目は……何だか、キラキラしていた。
気のせい……だよね?
「あ、え……えっと……アンナさんのせいじゃないよ、あれは。だから大丈夫」
「いえ! 先生のお姿を見てうらやまし……じゃない、感服いたしました! 私にも『めっ』をぜひ!」
「は、はい! じゃあ……めっ。はい、おしまい」
「ダメです! 先生より強い罰を! どうかご褒……じゃない、償いを!」
「ま、また今度!」
「え……」
「ふむ、亜里砂。情報のエラーか。アンナさんはこのような人物だったか?」
「ふむ、何だか進化しちゃってるね。お父さん、アンナのは更新しといた方がいいよ」
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