南南東に進路を取れ(1)

 コルバーニさんが戻ってきてくれて、ガリアさんと言うダンディなおじさまも加わった私たちは、改めて今後の事を話し合った。

 何せ依頼主の側近で同行者だったジャック君がいなくなっちゃったんだから、依頼遂行も何もあったものじゃないよね……


「ジャック君、これからどうするつもりなんだろう。まさかフィーゴ公爵の下にも戻れないし……」


「リムちゃん、まさか少年の事を案じてるの!? こりゃ驚きだね」


「も、もちろん怖かったよ、でもさコルバーニさん。あの子『復讐』って言ったんだよ。誰かを殺したいほど恨むってよっぽどだよ。しかも、石の欠片を使ってまで。あれって絶対身体に良くないと思う。その気持ちを思うと……」


「まあ、可哀想かどうかは一旦置いて、可能であれば彼の詳しい動機は知りたいが……リムさんへのあれだけ激しい殺意は間違いなく、皆さんの旅の目的に関わっているはずなので」


「ぬ? ガリアとやら中々鋭いな。おみそれした」


「いやいや、クロノ・ノワール殿。あなたの事は知っていますが、私などではとても及びません。このパーティに置いては新参者。色々ご指導下さい。皆様もお願い致します」


「ぬう……御仁は本当にコルバーニの父なのか? まるで性格が違うでは無いか」


「それ、どういう意味? おっさん」


「ちょ、ちょっと待った! とにかくみんなで今後の事を話そうよ。クローディアさんは当然探すけど、公爵さんの依頼をどうするか……」


 慌てて話す私にコルバーニさんはすでの5個目の干し肉を口に入れながら、事もなげに言った。


「リムちゃん、それは検討するまでもないよ。公爵の元に今から戻って事の次第を報告あるのみ、でしょ。新たな同行者を編成するのか、私たちをお役御免にするのかは公爵次第だけど、少なくともジャック・カー君については早めに処理してもらわないと、リムちゃんの命が危ういじゃん。あの行動は間違いなく彼の独断だから、公爵も重く見るでしょ」


「……そう……だよね」


「言っとくけど、今回の件で『助けてあげたい』は無しね。彼が何を思っていたのか気になるけど、それよりも彼を処理するのが先。必要な情報は引き出して。公爵が手を下さないのであれば、私とお父さんで、適時彼の所在を探っていくつもり」


 私は頷きながらコルバーニさんを見た。

 話す内容に反して、私を見るその表情は優しかったので安心できた。

 でも……


「リムさん、亜里砂を信じて欲しい。娘はずっと命のやり取りをしてきた。その厳しさと怖さを知っている。『命』がテーブルに上がった瞬間に、全員仲良く解決は難しいのです」


「ガリア殿、コルバーニ。二人の意見も分かるが私は異なる。出来るなら生け捕りにしたい」


「それは、彼の復讐の動機?」


「そうだ。実は今、石とそれを取り巻くことについて考えている。そのためのピースが一つでも欲しい。あのガキの処遇はそれから検討してもらえると有り難いのだが」


「その『ある事』ってのはなに? おっさん。そんな曖昧な言い方するって事は今、私たちには言えないこと?」


「すまん。私の方向が合っているなら言う事はできん。私を信じて欲しい、としか。本来、この場で言うつもりは無かったが」


 コルバーニさんは目を細めてクロノさんをじっと見ていたけど、ややあってポツリと言った。


「オッケー、考えとくよ。リムちゃん、今から私たちに指示してくんないかな。内容は『クロノ・ノワールの石への検討について、必要以上の詮索はしないように』って。あと『今後はアリサ・コルバーニがクロノ・ノワール、そして私の護衛につくこと』も追加で」


「え!? う、うん」


 私はオウムのようにコルバーニさんの言葉を繰り返し、それを言い終わるとコルバーニさんは私に向かって深々と一礼した。


「了解しました。今からリーダーの指示のままに動きます」


 コルバーニさんの動きの後、オリビエとアンナさん、そしてガリアさんとクロノさんも私に一礼する。

 うう……なんか、くすぐったい。

 セリフ考えたのコルバーニさんだし。


「じゃ、じゃあ、コルバーニさんとガリアさんの意見を受け入れます。今から公爵のところに戻ろう」


 私がそう言って立ち上がったとき。

 茂みの奥から誰かが出てきたので、何気なく目を向け……呆然とした。

 私だけで無く、全員が。


「皆様、どういうことなのですか? これは重大な契約違反なのでは」


 そこに立っていたのは厳しい表情で私たちを見るジャック君だった。

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