勇気のレッスン(1)

「答える義務は無い」


 ジャック君がそう言うと、木の陰から今度はオリビエが現れた。


「コルバーニ先生。お久しぶりです」


 オリビエ……


「ああ、久しぶりだなオリビエ。元気にしてたか」


「もちろんです。元気にしてますよ。だって……われらを裏切った臆病者に報いを受けさせないと行けないでしょう。ね? コルバーニ先生」


「オリビエまで……もう……やだ」


 私の胸のペンダントが、また……赤くなってきた。


「リムちゃん」


 コルバーニさんの声に私は顔を上げた。


「ここで臨時レッスン。勇気ってなんだろうね?」


「勇気……確か……泣きながらでも……逃げながらでも進むこと」

 

 そう。忘れるわけが無い。

 コルバーニさんが教えてくれた大切な言葉。

 私の宝物のような言葉。

 私に勇気を教えてくれた言葉。 


「そう。でもね、それ以外にあるんだな」


 そういうとコルバーニさんは、剣を抜いた。


「勇気の形っていくつもある。今回レッスンするのは『恐怖』について。勇気を持つのに大切なことは恐怖を知ること。自らの不安や弱さ、恐怖を受け入れて友達になること。その果てに自分なりの勇気が……見つかる!」


 そう言うとコルバーニさんは目の前のジャック君に斬りかかった。

 ジャック君は剣で防ごうとしたけど、コルバーニさんの方が遙かに早く、ジャック君は剣を弾き飛ばされた。


「あ、動かせない程度に腕も切ろうと思ったのに。ギリギリで避けたね。中々やるじゃん、少年」


「お前……オリビエを無視して……」


「当たり前でしょ。あんな幻覚、相手にしてられないじゃん」


 え?

 幻……覚!


「リムちゃん、目を見開いて。真実は自分で観察して思考し、自分で見つけるの。そもそもこのメンバーが敵に回ったなら、いくらでもリムちゃんを捕獲する機会はあったんじゃない? アンナの剣の腕は知ってるでしょ? 本気でリムちゃんを狙うなら今頃、リムちゃんの頭と胴は離れてる……ごめんね、やな言い方して。恐怖を友達にして。自分の中の恐怖を好きな人くらいに知りつくして。そうすれば真実が見える」


 そ、そう言えば……


「亜里砂、アンナ・ターニア達を狙っていた連中は掃除しといたぞ」


 その声と共に、見たことの無い60台くらいのおじさんが現れた。


「ありがと、お父さん。じゃあ、今度はコッチの少年を一緒にいいかな? ちっとイタズラが過ぎてるみたい」


 お、お父さん?


「ふむ。万物の石による幻覚か。リムさん。君がエルジアの屋敷で少女に使っていた物の亜種だが、中々のものだ。君や亜里砂だけならまだしも、情報を知ってるだけの私にまで見えるとは」


 

「な、何でそのことを? あと、お父さんって?」


「ふむ、話せば長くなるので、後でもいいかな? リムさん、何はともあれこの幻覚は君も使っていた物だ。恐れることは無い」


 その言葉に私はハッとした。

 そうだ!

 私も……同じ事を……エリスちゃんに。

 

「リムさん。この少年の持っているのは万物の石を精製した破片だ。それを服用することで、強い効果を発現させられる」


「そっ。それでリムちゃんの心の一番弱い所をついてきたの。……で、役者が揃ったね」


 その言葉と共に、背後から声が聞こえた。


「ヤマモトさん!」


 振り向いた私は、また……涙が出てきた。

 ああ……私ってホント、泣き虫だ。


「アンナ……さん。クロノさん……オリビエ」


「ど、どうしたんですか、ヤマモトさん!? ……そして、なぜ私とクロノ、後オリビエ……そして……先生!?」


「ふむ。久しぶりだな、アンナ。積もる話は後だ。コイツらは少年が作った幻覚。それでずっとリムちゃんをいじめてたらしい。この子に今からおしおきタイム、ってのはどうだ?」

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